元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな分配は「所得の再分配」です。

私生活でもビジネスでも、相手がどう思うか、さらに、そこからどのような行動をとるかを考える機会があります。他人の気持ちを想像しない、空気の読めない存在は、どこの世界でも忌み嫌われるでしょう。

自然と他人に好まれる行動や発言のできる人もいますが、努力によってできるようになる人もいます。唯我独尊、好き勝手に振る舞う人も散見されます。 そこで、今回は、世の傍若無人な人に知ってほしい最後通牒ゲームを紹介します。

最後通牒ゲーム

このゲームでは、まずゲームマスターからあなたにお金が与えられます。

今回は、10万円にしましょう。あなたはそのお金を目の前のAさんに分配しなければいけません。分配する金額は0円から10万円の範囲で、あなたが決めることができます。しかし、もしAさんに受け取りを拒否された場合は、お金はすべて没収されることになっています。

また、Aさんはこれらのルールをすべて把握しており、その上でお金を受け取るかどうかを判断します。さて、あなたはいくらをAさんに分配しますか。

あなたが自分の利益だけを考える愚か者だったとしても、Aさんに0円分配するという選択はしないでしょう。ここでは、Aさんがとてつもない良い人であるとか、大きな貸しがあるといった、問題文の外側は考慮しません。

Aさんの立場になって考えると、お金を得るのに何のコストもかからないので、もらえないよりは、1円でももらえるほうがましかもしれません。

そう考えると、あなたは9,999円を残し、1円をAさんに渡すことになります。

理論上はそうなりそうです。しかし、いま記事を読んでいるほとんどの方が気づいているように、1円の場合は拒否されます。1円、いりませんよね。1円をもらうことより、目の前の強欲な人間が9,999円を得ることを阻止するほうが、精神衛生上良いはずです。

実験によると、1円でももらえるから得だと喜んで受け取るのは、6歳以下の子どもだけなのだそうです。

このゲームに参加し、Aさんにいくら渡すかを少しでも考えたなら、1円やそれに近い金額を分配する選択はしないはずです。Aさんがどのくらいの金額なら不快に感じないかを予測して金額を決めるでしょう。

ただ、Aさんの性格も素性もわからないためか、多くの人が5万円を分配するそうです。もちろん、5万円より少ない金額や、多い金額を分配する人もいるそうですが、もっとも多いのが、公平に半分渡すという選択のようです。なぜでしょう。 1円を渡して拒否されることが忖度できたとき、その理由は、目の前の相手が得をすることが公正さに欠ける不快なことであるとAさんが認識するから、だと分かっています。Aさんに公正だと思ってもらうためには、半分以上の金額を分配しなければいけません。

しかし、自分の利益を必要以上に減らすのは合理的ではない。すると、2等分するという選択をする人が多くなります。

実社会でも、不公正さは、不合理な行動のきっかけとなります。ぼくがよしもとの養成所にいたころ、同期30人ほどで会食をすることになりました。年齢はバラバラですが、みんなアルバイトで生活をしていて、十分なお金がありません。

そこで、参加者の中にいた個人経営の居酒屋でアルバイトをする芸人が、勤務先を提供してくれました。2500円で3時間飲み放題、料理6品のコースです。当時、ぼくは24歳で、その金額がリーズナブルであることは認識しており、参加者のほとんども喜んでいました。しかし、一部、不満を漏らす人間がいたのです。

話を聞くと、この店を提供した芸人はひとりあたり500円のリベートをもらっており、そのことを不快に感じているとのことでした。我慢できなかったのか、そのことで本人を糾弾し、罵る有様でした。

一般的な会計と比較すると割安でも、公正さを欠くと気分を害するものです。他人は、幹事が今回の件でどのくらいの労力を費やしたかなど理解してくれません。

この件で、誰かの支払った見えないコストは蔑ろにされ、表面的な公正さのみが追求される場合があることを学びました。公正さは、いつだって優先されるのかもしれません。

さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

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さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

芸人、ファイナンシャルプランナー。2007年、国税専門官試験に合格し東京国税局に入庁。100社以上の法人の税務調査を行ったのち、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに。ツイッターは こちら