2年に1度の鉄道技術展開催、乾電池電車のギネス記録達成など、歴史に残るニュースが多かった。南海電鉄「ラピート」の『スター・ウォーズ』新作とのコラボは、鉄道ファンと映画ファンのフォースを覚醒させた。一方、山手線の新型車両E235系がついに営業運転を開始したと思ったら、不具合で運行打ち切り。小湊鐵道の意欲作「里山トロッコ」も2日目の営業運転で機関車の故障で運行休止。どちらも魅力的な車両だけに残念だ。早期復活を期待したい。

山手線新型車両E235系。11月30日にデビューしたが…

乃木坂46の広告動画はお蔵入り!? 山手線新型車両騒動

東京都心をぐるりと周回する山手線に、13年ぶりの新型車両E235系が登場した。導入の発表は2014年7月。斬新なデザインと、「車内中吊り広告廃止」報道で話題となり、今年3月から試運転が始まって、ネット上でも目撃情報が相次いだ。日本の首都・東京で、約2分間隔という高密度運転の山手線、東京を訪れた人が1度は必ず乗る電車だろう。それだけに、新型車両は全国から注目された。

E235系は11月29日、品川駅発着の団体臨時列車として横須賀線へ。翌30日から営業運転を開始し、大崎駅で出発式も開催された。注目の車内中吊り広告は残され、中吊り広告と各所のステッカー広告、新たに窓上に設置された3画面の液晶モニターをすべて使った立体的な広告展開が実施された。広告主はJR東日本のグループ会社、ジェイアール東日本ウォータービジネスで、イメージキャラクターは乃木坂46。新型車の登場を美女の舞で彩るという、華やかなスタートとなった。

デビュー前日の11月29日、E235系の団体臨時列車が横須賀線を走行

ところが、E235系は大崎駅を外回りで発車した後、目黒駅で0.5mのオーバーラン。戻ってきた大崎駅で車両とホーム柵のドアが開かない事象が発生、大塚駅では停車位置の1.5m手前で停止、運転席は複数の故障が表示されたという。乗客約700人が約30分間にわたり閉じ込められた。これでE235系のデビュー運転は終わり。そのまま車庫に回送されて、現在は原因を調査中。本稿準備中の12月20日現在も、E235系は姿を見せていない。

原因は最新型の列車情報管理システム「インテロス」の不具合という見方が強まっている。「なんでもIT技術に頼っちゃうからこんなことになる。熟練運転士のほうが安心だ。お金をかけたIT技術やシステムに頼るくらいなら、運転士の訓練をしたほうがいいんじゃないか」という声も聞こえそう。ただし、ゆりかもめなど電車の自動運転は実現しているわけで、「インテロス」もその延長にあたる。安全性につながる技術だけに、原因究明と復活を望みたい。

ところで、もうひとつ気になるところは乃木坂46、いや、ジェイアール東日本ウォータービジネスの広告のほうだ。広告商品は天然水「From AQUA」。リニューアル前は「大清水」の名前で親しまれ、のべ30年以上にわたるヒット商品だ。「From AQUA × 乃木坂46」キャンペーンは12月1日から2月29日まで、自販機側面のポスター、デジタルサイネージ自販機のオリジナルコンテンツ、テレビCMなどで展開中だ。

E235系のADトレインも目玉企画のひとつだった。とくに「まど上チャンネル」の動画広告は3画面が連動し、フレーム間の空間も考慮された「作品」だったという。ADトレインは12月17日までの運行計画だった。その期間が終わってしまった。この動画は「From AQUA × 乃木坂46」の特設サイトでも公開予定のはずが、12月中旬公開予定のまま下旬を迎えている。このままどちらも「お蔵入り」になってしまうのか……。

2年に1度の「鉄道技術展」開催 安全技術に注目

鉄道技術展は鉄道専門の展示会で、内容は文字通り、施設・車両など鉄道の技術に焦点を当てている。一般参加も可能だけど、内容は鉄道関係者向けだ。海外の鉄道ショーのように最新型車両がずらりと並んだりはしないし、旅行会社向けの華やかなプロモーションもない。しかしそれでいい。踏切、ホームドア、信号システム、乗降扉などの最新技術はとても勉強になる。ここに展示された最新技術を使って、鉄道路線はリニューアルされ、新型車両が開発される。鉄道技術展は、鉄道の未来への扉だ。

詳細な内容は本誌各記事を参照していただくとして、すべてを見学している筆者としては、第4回は前回(2013年)より地味だったという印象だ。もちろんそれが悪いわけではない。前回はマルタイ(保線車両)のシミュレーターやグランクラスのシート、デモ車両のモックアップなど、大型でわかりやすい展示物が多かった。今回はそれらがなくて、ざっと見たところは前回に比べて際立つ展示が少なかった。目立ったところとしては、軌陸車の展示が数台。前月に開催された東京モーターショーの工事車部門のようだ。屋外で行われたレール溶接の実演も興味深かった。向谷実氏が代表を務める音楽館による、業務用運転シミュレーターやポールタイプのホーム柵扉も人気だった。

大型展示物に目を奪われなかったおかげで、地味ながら興味深い「いぶし銀」的な展示を見つけられた。筆者が注目した展示は、エコクリーンの「エボガードシステム」だ。これは鉄の赤錆を防止する加工する技術で、従来の下塗りとは異なり、下地をマグネタイト(黒錆)に化学変化させる。これで鉄橋など鉄構造物のメンテナンス費用の削減や再塗装期間を延長し、保守コストを大幅に削減できるという。鉄橋の保守コストが重くのしかかるローカル鉄道に採用したい技術だと思った。

もうひとつ、注目した展示は、自動改札機のパイオニア、オムロンのタッチレス改札機。乗車券情報を登録したスマートフォンをポケットに入れておくと、かざさなくても自動改札機を通れる。

そして、これは趣味的な視線になるけれど、京三製作所の「中規模PRC装置」。20~30駅程度の路線向けの運行管理システムだ。列車ダイヤと分岐器を連動して、マウス操作や列車ダイヤ変更などができる。音声入力システムも実験中とのこと。すでに8システムの導入実績があるそうだ。いや、興味深かったところは、システム本体ではなく、この展示会のために作られたデモシステムのほうで、これが実にゲームっぽい(笑)。列車運行管理をテーマとした鉄道ゲームを作ってくれないかな……と妄想してしまった。

鉄道技術展の良いところは、某自動車展示会や某ゲーム展示会のように、肌の露出の多い美女を並べる会社がなく、それ目当てに押しかけるアマチュアカメラマンがいないこと。おかげで本来の展示物をじっくり眺めて勉強でき、商談につながる。とある家電系のメーカーが早くも勘違いを始めた気がする。ここはしっかり責任者が釘を刺すべき。どうかこのまま地味であってほしい。

由利高原鉄道鳥海山ろく線でギネス世界記録達成!

11月3日、パナソニックの乾電池「エボルタ」だけで鉄道車両を走行させる記録に挑戦。埼玉県立川越工業高等学校の生徒たちが設計・製作した車両が、由利高原鉄道鳥海山ろく線で22.615kmを走行し、「Longest distance traveled by a vehicle on a railway track powered by dry cell batteries(乾電池で走る車両が線路上を走行した最長距離)」としてギネス世界記録に認定された。この項目の過去の記録を見つけられなかったので、今回が初記録のようだ。今後は川越工業高校とパナソニックが「受けて立つ側」となり、世界の挑戦者を待つ、あるいは自身の記録を伸ばしていくのだろう。

「エボルタ」は2008年、世界一長持ちする単3形アルカリ乾電池(Longest lasting AA alkaline battery cell)のギネス世界記録を達成しており、以降、乾電池を使ったギネス世界記録をいくつも打ち立てた。その輝かしい記録がまたひとつ追加された。チャレンジに使った車両を高校生たちが半年間かけて作ったという話も美しい。でも、これだけで終わっては、企業がゴリ押しでギネス記録を創設したように見えてしまう。技術的にも価値のある内容だけに、世界の乾電池メーカーやハイスクールの挑戦を待ちたい。

もうひとつの美談は由利高原鉄道の対応だ。なんと、この記録を達成するために、通常の列車を運休させ、バス代行運転に切り替えて線路を提供している。運行区間は前郷駅から終着駅の矢島駅まで、往復で合計約20km。ローカル線の末端区間だから深刻な影響もないという利点(?)もあるとはいえ、勇気の必要な決断だったと思う。線路の保守点検や災害以外の路線閉鎖は、こちらも日本初の記録かもしれない。由利高原鉄道としても良い宣伝になっただろうし、ローカル鉄道のプロモーション手段の可能性を感じた。

JR東日本とJR九州が連携、男鹿線で蓄電池電車導入へ

バッテリー電車といえば、JR東日本が11月20日に発表した新型車両、EV-E801系の男鹿線導入も興味深い。しかも、JR九州が開発した技術を利用する。JR東日本は窮地のJR北海道へ技術や人材を提供しており、JRグループ間で列車の乗入れ以外の連携が目立ってきた。これも良いことだと思う。

JR東日本は2014年から烏山線で蓄電池電車EV-E301系「ACCUM」を走らせている。架線がない非電化区間を走る電車として注目された。いまのところ大きなトラブルもなく、実績を積んでいる。烏山線の充電は直流電源で、停車中の他に宇都宮線(東北本線)走行中にも充電する。これに対し、EV-E801系の充電は交流電源だ。交流電源の蓄電池電車はJR九州が先駆けており、新たに開発するよりも提携が効率的という判断があったのだろう。

開発元のJR九州内で実現する前に、他のエリアで実現してしまいそうだけど、これはこれで実績のうちだ。JR九州にとっては、JR東日本のEV-E301系の運行ノウハウを得られるから、九州内の実現可能性を早めることにもなるだろう。蓄電池電車が普及すると、ローカル線のディーゼルカーと交代してCO2削減などに効果がある。そういえば、台湾の高雄市では、蓄電池電車による架線なしの路面電車を整備中だ。遠い将来、大都市の通勤区間も蓄電池電車となり、架線がなくなるかもしれない。

スター・ウォーズな「ラピート」出現! 観光列車誕生も続く

南海電鉄は11月21日から、映画『スター・ウォーズ / フォースの覚醒』とタイアップした特急「ラピート」を運行している。運行期間は2016年5月8日までの約半年間。「ラピート」は関西国際空港に乗り入れるから、ANAのスター・ウォーズプロジェクトと合わせて、海外のスター・ウォーズファンにも話題になるだろう。もうひとつ、広島電鉄でも11月28日から、『スター・ウォーズ』新作公開記念のラッピング電車が走っている。

南海電鉄の「ラピート」に使われる50000系は、昨年、真っ赤な塗装の「ネオ・ジオン バージョン」が登場し、ガンダムファンの話題となった。その後、LCCのPeachともタイアップ。ラッピングの話題が続いている。デザイン性が強く特徴ある車体だけに、急なラッピング展開はなにか方針の転換でもあったかと思った。しかし南海電鉄によると、過去にオムロンやdocomoの例があり、関空プロモーションでもラッピングの実績があるそうだ。

デビューから20年が経ち、そろそろ去就も話題になりそうだけど、南海電鉄はまだ後継車の検討はしていないという。50000系のリニューアルに着手しており、今後もさまざまなラッピングで楽しませてくれそうだ。

11月15日にデビューした小湊鐵道「里山トロッコ」。現在は運転見合わせに

2015年は各地で観光列車がデビューしたけれど、その勢いもまだ止まらない。京都丹後鉄道はKTR8000形を水戸岡鋭治デザインで「丹後の海」として再生した。長良川鉄道もナガラ300形のリニューアル観光列車を発表。2016年春から運行予定で、こちらも水戸岡鋭治デザインとなる。

観光列車としてはもうひとつ、千葉県の小湊鐵道が「里山トロッコ」を11月15日にデビューさせた。こちらは蒸気機関車形のディーゼル機関車がトロッコ4両を連結する列車だった。ところが、この「里山トロッコ」もデビュー日の次の運転日、11月20日に機関車が故障し、現在も運休したままだ。小湊鐵道は京浜急行バスと提携して、12月17日から品川・羽田空港と大多喜を結ぶバスの運行を開始している。里山トロッコへのアクセスとしても期待したはずで、残念な状態となった。

小湊鐵道といすみ鉄道は、「房総横断鉄道」として地域を巻き込んだ観光開発を進めている。観光列車ではいすみ鉄道が、国鉄型キハの急行列車やレストラン列車で先行しており、ようやく東京湾側の小湊鐵道も観光列車をデビューさせて、房総横断の楽しみをつないだ。E235系と同様、早期復活を願う。