本連載の第89回では「目標達成のために「問い」を活用しよう」と題し、適切な問いを設定し、答えを模索することで目標達成を実現する方法をお伝えしました。今回も引き続き「問い」にフォーカスし、問いの力を使って解決すべき問題を発見するための方法をお話します。
あなたは何のために「問い」を使いますか。
こう聞かれれば、多くの人は「自分が知りたいことを相手に聞くために使う」と答えるのではないでしょうか。しかし、「問い」の持つ力はそれだけに限りません。「問い」には様々な活用の仕方がありますが、中でも問題解決のツールとして使う際に威力を発揮します。
しかし、学校のテストや入試などとは異なり社会では「そもそも解くべき問題は何か」ということから考えなければならないことを踏まえると、まずは問題発見から取り組まなければならないでしょう。
このようなことを言うと、よく「問題なんて分かり切っているからさっさと解決する方法を考えたらいいんだよ」と急かす人がいます。しかしそもそも設定した問題自体が的外れだった場合は目も当てられない状況になることを肝に銘じておくべきでしょう。そこで、適切な問題を発見するための4つの観点「目的」、「立場」、「範囲」、「時間」に関する問いをご紹介します。
【目的】何のための問題か
問題について考える際に最も重要なのは、「それを問題と捉えたのはなぜだろうか」と自問自答することです。言い換えると、「その問題を解決することで何を達成しようとしているのか」という目的を突き詰めることです。
例えば、在宅勤務で会社からノートパソコンを貸与してもらって仕事しているが画面のサイズが小さすぎて扱いづらかったとします。そこで大型のモニターを調達しようと思ってはみたものの、置き場がなくて困っていたとします。
その際に「モニターの置き場をどう確保するのか」ということを問題と設定して解決策をあれこれ考える前に「そもそもなぜモニターを置こうと思ったのか」と目的に立ち返って考えてみると「ノートパソコンで作業をする際に画面を見やすくすること」であることに気が付きます。
そこで大型モニター以外の手段で考えてみると、「ノートパソコンとテレビをHDMIケーブルで接続して、テレビの大画面に投影する」とか「小型のプロジェクターでノートパソコンの画面を壁に投影する」といった手段もあることに気が付くのではないでしょうか。
問題を考える際には一度立ち止まって、「それがなぜ問題なのか」と考えてみることで意外なブレイクスルーを起こせるかもしれません。
【立場】誰にとっての問題か
上司や部下、或いは他部署との間で議論が噛み合わなかったという経験はありませんか。そのような時には一歩引いて「それは誰にとっての問題なのか」と問うのが事態の収拾に役立つかもしれません。
例えば、営業担当が受注処理や発注処理を営業事務担当に依頼していたとします。しかし毎度、大した量ではないはずなのにやたらと時間がかかるので、その営業担当は「うちの営業事務担当は事務処理スキルが低過ぎるのではないか」と問題視しています。
その一方、営業事務担当に話を聞くと「多くの営業担当が月末に一斉に押しかけてきて仕事を依頼してくるから、月末はいつも残業が避けられないんです」と話していたとします。これはつまり、営業担当が営業事務担当に依頼する仕事が月末に集中することでキャパオーバーになり、1件あたりの依頼をこなすのにかかる時間が長くなっているということです。
しかし営業担当の目線では「自分が出した依頼を処理するのに時間がかかるのは営業事務担当のスキル不足によるものだ」と認識しているので、両者の間では議論が噛み合わなくなってしまうのです。
「その問題は誰にとってのものか」と自分に投げかけることで自分以外の人の目線から客観視できるでしょう。
【範囲】どこにおける問題か
「どこからどこまでの範囲で問題として捉えているのか」という問いは、本当にそれが解決すべき問題なのか、はたまた取るに足らない問題なのかを区別したり、本質からズレた対策を取らないようにするのに活用できます。
例えば商品企画部の会議で「昨年発売した商品の故障のクレームがここ二カ月で急激に増えた。その内、9割の故障の原因はサビだったので、すぐにサビにくいパーツで開発・設計からやり直すべきだ」という話があがったとします。
もちろんその通りの対応をしてもよいかもしれませんが、せっかく出した商品を開発・設計からやり直すということはその分のコストと時間がかかってしまうということになります。
そこで、「そもそもそのクレームはどこから上がっているのか」という問いを立てて調べてみると、サビによる故障のクレームの93%が、とある地方の沿岸部だったことと、半年前から営業部が当該地域に営業所を新たに作って活動を始めていたことがわかりました。
他の地域からはサビについてのクレームが一切上がっていなかったとすると、恐らく海からの潮風が強く吹き付けるその地方特有の環境がサビの原因になっていたのではないかと考えられます。このような場合には、そもそも「当該地域から手を引くべきか、コストをかけて潮風にも強い商品を一から作り直すべきか」という問いを立てて方針を決めることから始めるべきでしょう。
このように問題の範囲を問い直すことで、より本質的な問題に切り込むことができるかもしれません。
【時間】いつ時点の問題か
一般的に目の前に差し迫った喫緊の問題は優先されがちですが、それより遥か未来の問題というのは認識されにくかったり、認識されても放置されやすかったりということがあります。
営業担当であれば、当期の目標を達成できるかどうかが直近の自身の昇進・昇給の是非に直結するとしたら、仮に「時間をかけてクライアントを取り巻く環境を分析し、その本質的な課題を特定してソリューションを作りこめば、その成長に大きく貢献できる提案が可能」という見込みがあったとしても「時間をかけずにクライアントの表面的な課題に対して提案して、当期の内に売上を立てる」という判断をしてしまうということがあるかもしれません。
これは短期的には当期内の売上目標達成に繋がるかもしれませんが、クライアントからの中長期的な信頼を得る結果をもたらすかどうかは怪しいと言わざるを得ません。
また、短期的な投資ブームに乗っかって不動産投資を始めたものの、長期的には人口減少で不動産需要が減少して供給過多になり、住宅価格が徐々に下落して含み損が拡大してしまうということもあるでしょう。
人はどうしても目先のことに捉われがちですが、だからこそ敢えて「中期的、長期的にはどうなのだろう」という問いを立てて考えることで、短期・中期・長期の間でバランスの取れた最適な解を見出すことができるのではないでしょうか。
ここまでで述べてきたように、目的、立場、範囲、時間という4つの観点で問いを立てて考えることで視野を広げることで適切な問題を見つけることができます。ご自身の抱えている問題にも当てはめて考えてみてはいかがでしょうか。