本連載の第243回では「議論がループしていると感じたときの対処法」という話をお伝えしました。今回は、議論での無用な反発を避けるための方法についてお話します。
会議の内容や参加者、タイミングなどによっては会議の形式や進め方、内容などに反対意見が出るのは当然です。しかし、反対者への対応の仕方を誤ってしまえば会議で成果を出すのはおろか、最悪の場合には組織のチームワークや人間関係、日常業務に支障をきたす恐れがあるので注意が必要です。そこで、本節では会議で反対者が現れた際の効果的な対処法をお伝えします。
そもそも、会議で反対者が現れる際には大きく分けて2つのパターンがあります。それは「論理的な反対」と「感情的な反発」です。前者は通常の議論の延長線上にあるので特に問題にならないのですが、後者は会議で成果を出すどころではなくなってしまう恐れがあります。また、厄介なのは万が一「論理的な反対」への対応の仕方を誤ってしまうと「感情的な反発」に移行することもあることです。なので、どちらのパターンにおいても慎重な対応が求められます。
ではここで、対応に失敗した例を見てみましょう。ある会社の営業本部の部長が集まって、売上や利益などの管理と報告にかかる作業負荷の削減案について検討しています。
Aさん「みなさんも知ってのとおり、売上と利益の管理と報告のための作業に時間がかかりすぎて、顧客訪問や提案活動に費やす時間を十分に確保できないという悲鳴が現場から挙がっています。昨今の採用難で人員を増やすのが容易でない中、会社のさらなる成長を実現するために売上・利益の管理と報告の手間を減らす打ち手を策定し、早急に実行に移すことが求められています。ぜひ忌憚のないご意見をいただきたい」
Bさん「いや、打ち手以前の問題として、そもそも会社として求める数値が細かすぎるのが問題なのではないですか? たとえば……」
Cさん「会社として必要な数値は、過去に十分吟味した上で設定していますよ。今更そこを深掘ったところで何も出てきやしません。」
Bさん「そうですか、では管理ツールについてはいかがでしょうか。正直、現場から挙がってくるデータのミスで差し戻すケースが多くなっています。管理ツールでの作業に転記と手集計の部分が多いのが原因ではないでしょうか。」
Cさん「そんなことより、報告会議の方を優先して対応が必要ですね。報告会議が形骸化しているのではないかという意見が少なくありません。その点についてどう思いますか」
Bさん「この会議、もう抜けていいですか」
さて、このケースではAさんの問題提起に対してBさん、Cさんが意見を出し合っています。しかし、BさんとCさんのやり取りの末にCさんが会議を抜けると言い出してしまいました。これでは会議で成果を出すどころか、今後Cさんの力が必要な時に協力してもらえなくなってしまうかもしれません。
なぜこのような事態になってしまったのでしょうか。お分かりの方も多いでしょうが、CさんがBさんの最初の発言を遮ってしまった上に、次の発言を無視してしまっているからですね。ではどのように対応すればよかったのでしょうか。それは、他の参加者の発言を遮らずに最後まできちんと聴くことと、聴いた話を踏まえて議論することです。
他者の発言をしっかり聴くことを「傾聴」といいます。ただし、「しっかり聴く」といってもただ最後まで遮らずに聴くだけでは不十分です。傾聴で押さえるべきポイントは、相手の主張が自分の考えとは異なっていたとしても一旦はそのまま理解しようと努めることです。間違っても自分の都合の良い方向に曲解してはなりません。
また、発言内容が長かったり複雑だったりする場合には、「あなたの発言内容をこのように理解しましたが、合っていますか?」と確認を取るのが効果的です。その際、要点を文章で記述したり、もし可能ならホワイトボードやPowerPointなどのツールで図式化して確認すると理解の相違を防ぐことができるうえに、相手に自身の発言が真剣に取り上げられていることが伝わるので、感情的な反発を回避することにつながります。
まずは他者の意見を傾聴し、その意図を正確に理解することに努めましょう。本稿の内容が会議で無用な反発が発生するのを抑えて、効率的・効果的に成果を上げるためにご参考になれば幸いです。