本連載の第163回では「『どう問題を解くか』より『何を問題とするか』が大事」という話をお伝えしました。今回は課題の変化にどう対応するか、というテーマについてお話します。

組織で対応を検討していた課題が、時間の経過とともに変化してしまっていることがあります。たとえば観光地の多くのお店において、インバウンド需要が盛んだった2019年頃までは「どうやって外国人観光客を集客するか」が課題だったのではないでしょうか。しかしその後のコロナ禍に伴う外国人観光客の入国規制強化に伴い、「どうやって日本人観光客を集客するか」や「お店に来られない潜在顧客にどうやって訴求するか」といった課題に変化したのではないでしょうか。

しかも、昨今ではコロナ禍に加えてウクライナ戦争に伴う資源高、急激な円安など、ビジネスを取り巻く環境は短期間に、それも大きな振れ幅をもって変化し続けています。そのため、課題に対応するために「じっくりと腰を据えて熟慮する」というのでは変化のスピードに追い付けなくなっています。

それでは、変化に取り残されないためにはどうしたらよいのでしょうか。それには「構造の理解」、「変化の観察」、「7割の完成度」の3つが重要と考えます。

1. 課題に影響を与える構造を理解しよう

変化に適応するには、課題に影響を与えるものが何か、それがどのように影響するのかといった構造を理解しておく必要があります。

都心のオフィス街にあるラーメン屋を例に取ると、たとえば2019年時点での課題が「人手の確保」であったとします。この課題を左右するのは需要面で「席数」と「客席稼働率」と「回転数」、供給面で「既存の従業員数」、「離職人数」、「採用人数」あたりを考慮すればよいでしょう。そして、需要面について「客席稼働率」は店から周囲100mの「日中人口」と「夜間人口」、「競合する飲食店の数」が影響しそうだと仮説を立てます。そして供給面は……というように、何が課題に影響するのか要素を洗い出します。そして、そこから課題との関係性を理解することが大事です。

2. 課題に影響を与える要素の変化を観察しよう

課題に影響を与える構造を理解できたら、今度はそこで明らかになった要素を継続的に観察し、いち早く変化を捉えることが必要です。

先ほどのラーメン屋でいえば当初の課題は「人手の確保」であったわけですが、新型コロナウイルスの流行が始まって店から周囲100mの「日中人口」と「夜間人口」が減少し、ひいては需要の急減が予想された時点で、課題は「来店客数が減ってもお店を存続させること」や「当面、存続するための資金を確保すること」などに変化させなければならなかったでしょう。

そしてコロナが落ち着きオフィスに人が戻ってきて「日中人口」と「夜間人口」が増えたことで、今では再度「人手の確保」が課題になっているのではないでしょうか。但し今度は飲食店間の競争に加えて物流や他の職種との人材争奪戦が激しくなっていて、「人手の確保」は以前より困難になっているでしょう。

3. 七割の完成度で動き出そう

当初の「人手の確保」という課題について、その構造を理解した上で継続して観察し、いち早く変化を察知できても、すぐにアクションを起こさなければ意味がありません。

日本の多くの組織では、何かアクションを起こすときに検討に検討を重ねて慎重に物事を進めるきらいがありますが、それでは検討している間に対応すべき課題が変わってしまいます。課題が変わってしまえば検討していたことが無駄になってしまい、変化に応じて再び検討を繰り返すという無限ループに陥ってしまいます。そうなってしまうのは、「これで絶対失敗しない」という完璧な対応をしようとするからです。

これだけ世の中の動きが速くなってしまうと、完璧な対応を取ろうとしても変化に対して初動が一歩も二歩も遅れてしまいます。そのため、だいたい七割ほど対応内容が煮詰まったところで変化に対して動き始めて、途中で微調整を繰り返しながら変化に適応していく方が遥かに効果的です。

ラーメン屋の例でも、課題が「人手の確保」から「来店客数が減ってもお店を存続させること」に変わったと認識したらすぐに対応策を検討し、即実行に移さなければ手遅れになってしまったのではないでしょうか。課題が刻一刻と変わっていく今の時代には完璧さよりもスピード重視、が鉄則です。

ここまでで、課題の変化についていくために重要な3つのことをお伝えしました。ラーメン屋の例は単純なので「当たり前じゃん」と思われるかもしれませんが、自分ゴトとなると案外、難しく感じるものです。ぜひご自身の業界や会社の例に当てはめて考えてみていただければと存じます。