本連載の第162回では「どうしても解決しない問題を「前提」と捉え直して前に進もう」とお伝えしました。今回は、そもそも対応している問題の設定が適切なのかという問いかけの重要性についてお話します。

「商品Aの売上が落ちてきている。売上低下の原因は何だろうか」
「営業職の離職率がじわじわと上がってきている。なぜだろうか」

職場では、日々このような問題について会話されているのではないでしょうか。目の前で起きている不都合な出来事に対して、なんとかして対処しようとするのは当然かもしれません。もちろん、それが一刻を争うような事態であれば急いで対応せざるを得ないでしょうが、もしそうでないとしたら一旦立ち止まって「そもそもそれは解くべき問題なのか」と自問自答した方がよいかもしれません。

例として、冒頭で挙げた「商品Aの売上が落ちてきている。売上低下の原因は何だろうか。」という問題について考えてみます。この問題の原因を考察する前に、「そもそも商品Aの売上低下は問題なのか」と問い直したらどうなるでしょうか。

ひょっとすると、商品Aはこれまで低価格を武器に売上を拡大してきましたが、過度に売上拡大に傾倒してきたために安売りが横行し、利益率が日に日に下がっていたかもしれません。そこで、利益率を上げるために値上げをしたことで販売数量が減り、売上が減っていたとしたらどうでしょうか。その場合には「商品Aの売上低下は想定内なので問題ではない」という結論に至るかもしれません。そして商品Aの利益率が想定通りに上がっていることの方が重要と捉えることができるでしょう。

または、商品Aはこれまで主力商品でしたが、同じカテゴリで高単価の新商品Bを主力にしようとマーケティング部隊が奮闘していたとします。その場合、マーケティング部隊の奮闘の甲斐あって新商品Bの売上が順調に推移しているものの、自社商品同士のカニバリゼーションにより商品Aの売上が落ちるのは当然と捉えるのが自然でしょう。このように「商品の売上低下」という一見すると解決しなければならないと思えるような事柄でも問題として捉えるべきかどうかは状況次第ということが言えます。

続いて冒頭で挙げた2つ目の例、「営業職の離職率がじわじわと上がってきている。なぜだろうか。」という問題について考察してみます。こちらも「離職率の上昇」と聞くと、「それはいかん!手を打たなければ」となりそうですが、必ずしもそうとは限りません。落ち着いて、本当にそれが問題なのかを問い直しましょう。

本当に問題なのか問い直してみた結果、次の事実が分かったとします。

(1)現在、社を挙げて新規事業に参入しようとしている。

(2)新規事業ではターゲット顧客層が大きく変更され、これまでの大企業メインのルート営業からベンチャー企業を中心とした新規顧客開拓にシフトしようとしている。

こうした背景があるならば、既存の営業職員の相当数が変化についていけずに退職することはやむを得ないかもしれません。このような背景があるならば、「離職率の上昇」自体を問題として捉えるのは適切ではないと言えます。環境や事業の変化に合わせた組織の新陳代謝はむしろ必要なことでしょう。

このように、問題に見える事柄でも実は問題として捉えるべきではないということがあります。何らかの事柄が発生したときに条件反射的に問題として捉えてしまうと、それをどんなに上手く解決したとしても全く意味がありません。むしろ本来解くべき問題に割くべき時間や人手、労力を無駄にしてしまう分だけ、何もしないよりタチが悪いとさえ言えますし、本来解くべき問題を悪化させてしまう恐れすらあります。

最初の例では、たとえば「商品Aの売上低下を食い止めるべく販促を拡大する」という打ち手を取ると、商品Aは売上が回復するかもしれませんが新商品Bの売上増加を鈍化させるという副作用が伴う恐れがあります。そのため、最終的には利益率の向上を阻害してしまうでしょう。

2つ目の例では、たとえば「離職率の低下に歯止めをかけるために、辞めそうな営業職員への処遇を改善する」という打ち手を取ると離職率は下がるかもしれませんが、新規事業に最適な人材の採用に回すコストの確保が難しくなり、ひいては新規事業を軌道に乗せるのが計画より遅れてしまうということが起こり得ます。

このように、一般的には問題として捉えて解決すべき事柄であっても、それを取り巻く状況や会社・部署の方針などによっては問題として捉えるべきではないものがあるということです。常に「それは本当に問題なのか」と捉える姿勢を取ることで、真に解くべき問題を見極めて対処しましょう。