本連載の第155回では「会議の後に議事録を作りこんで送るのが残念な理由」と題し、会議の議事録を後から時間をかけて作りこむことの問題点をお伝えしました。今回はこの話をさらに進め、会議中に資料を仕上げてしまいませんか、という話をします。

「会議で話したこと、後で資料にまとめて送ってください」

上司からこのような指示をされたり、後輩に指示したりすることはごく一般的なのではないでしょうか。会議中は議論の内容をメモしておき、後でそれを資料化して関係者と共有する。このような仕事の仕方が疑問視される職場はあまりないでしょう。しかし、本当にそれが最善の仕事の仕方なのでしょうか。まずはこの進め方について見てみましょう。

様々なパターンがあるとは思いますが、一般的な流れとしては以下のような流れになるのではないでしょうか。

(1)会議でメモを取る→(2)メモを基に資料化する→(3)参加者に資料のドラフトを確認してもらう→(4)必要に応じて修正する→(5)参加者に正式な資料を共有する

会議中に取ったメモを基にした資料化が1時間で済んだとしても、参加者への資料ドラフトの確認と修正には半日や1日ほどかかることはあるでしょう。そのため、最終的に正式な資料を共有するのにはどうしても会議の翌日以降になるのではないしょうか。

ビジネスはスピードが命です。会議で幾ら秀逸な議論や意思決定を行ったとしても、その結果の共有に時間がかかってしまっては会議の価値が減ってしまいます。

また、メモを取ったり資料化したりする人の労力はもとより、それを確認したり修正を指示したりする人の時間と労力を消費してしまうことも無視できません。仮に会議の関係者が10人いたとして、それぞれが資料の確認とメールのやり取り等に10分費やせば、それだけで合計100分に相当する労力が余分にかかってしまう計算になります。そして会議の数が2つ、3つと増えればそれに比例して労力も2倍、3倍と増えていってしまいます。

ここまでで、スピードと労力の両面から、会議後に資料をまとめることの問題点を説明してきましたが、それを踏まえてどのように対応すればよいのでしょうか。

その答えはシンプルで、会議中に議論を資料化すればよいのです。会議終了と共に資料がほぼ出来上がっていれば、その後で多少の誤字脱字の修正や図を整えるといった作業を行ったとしても会議直後から、遅くとも当日中には関係者に資料を共有できるはずです。

しかし、そうすると「参加者が資料を確認する機会がないのでは」という疑問を持つ方もいるかもしれません。確かに、会議中に資料を自分だけが見られる状態で作成すると、会議後に確認してもらう手間が発生します。このような手間を省くために必要なのは、「自分がパソコンで資料を作成しているところをプロジェクターやモニター、画面共有などで参加者にリアルタイムでシェアすること」です。

資料を作成段階からシェアできていれば、参加者は気が付いたことをその場で指摘して修正したり追記したりできます。また、作成した資料を会議の終わりに全員でざっと確認して合意することで、「後から別途メールなどで資料を確認して修正点を指摘する」といった手間は完全に省けます。

それでは、会議の場でリアルタイムに画面を投影しながら資料を作成するには何が必要なのでしょうか。それには「議論を的確に理解する力」と「理解した内容を構造化する力」、それに「構造化した内容を瞬時に資料に反映させるパソコン操作力」の3つがあります。

一つ目の「議論を的確に理解する力」ですが、これはさらに3つに分解できます。議論を聞きながら、或いはリードしながら「何について話しているのか」、「何を主張しているのか」、「どのような論理なのか」という3つを理解する力です。議論が白熱してくると、参加者が自分の意見を好き勝手に言うだけになって収集がつかなくなることがあります。そのような場合にも、これら3つのポイントを意識して議論を聞き、不明点があれば質問して明らかにしましょう。

二つ目の「理解した内容を構造化する力」ですが、これは「議論の要約」と「要約した内容同士の関係を結ぶ」ことの2つで構成されます。参加者の話が長かったとしても、そこから「要はこういうことですね」といって要点を簡潔にまとめるのが前者です。そして、そのまとめたもの同士が因果関係にあるのか、包含関係にあるのか、或いは対立関係にあるのかなどの関係性を突き留めるのが後者です。この2つができると議論の内容を構造化することができます。

そして最後、三つ目の「構造化した内容を瞬時に資料に反映させるパソコン操作力」ですが、これは読んで字のごとく、議論を聞いて頭の中で理解・構造化しながら、同時並行でパワーポイントやGoogleスライド、或いはKeynoteなどのツールで表現していくことです。そのためには高速で操作するためのショートカットキーの習得は言うまでもないですが、さらには「議論の構造によってどのようなフォーマットを使うのか」という引き出しを沢山持っておくことが不可欠です。それは例えば時系列での業務の流れなら「プロセスフロー図」、2つの要素の掛け合わせなら縦軸と横軸で構成される「マトリクス」、或いは「表」を用いるといった具合です。

会議中での資料作成は、やったことがない人にとっては恐らく大変困難な作業かと思います。しかし、こればかりは場数を踏まないとできるようにはなりません。長い時間がかかるかもしれませんが、積極的に手を挙げて挑戦し、マスターしてもらえれば嬉しく思います。