本連載の第145回では「思考を可視化してメタボ思考をスリム化しよう」と題し、「目的」と「複雑性」の観点から同じ議論や思考が繰り返される原因と、その対処方として「思考の可視化」をお伝えしました。今回はがらりとテーマを変えて、今後のキャリアを見据えて今のうちにやっておきたいことについてお話します。

3月も残りわずか。4月になると新入社員が入ってきたり、部署異動があったりと何かしら職場に変化があるものです。この年度替わりの節目のタイミングで、自身のキャリアのためにやっておくとよい「3つの棚卸し」をお伝えします。

自分の得意・不得意の棚卸しをしよう

自分が何のスキルを持っているのか、この一年で身に着けたスキルは何か、といった事柄は上司との会話で割とよく話すのではないでしょうか。スキルはもちろん大事ではありますが、それに捉われず自分が得意なこと、不得意なことをそれぞれ棚卸してはいかがでしょうか。

スキルだけでは「何ができるか」は分かっても、それを最大限に活かせるかどうかは環境などの要因によって変わってしまうことがあります。たとえばあなたが「高いプレゼンスキルを持っている」という評価を得ていたとします。しかし「5人くらいまでの少人数の場であれば問題ないが、それを超える人数の前では極度に緊張してしまう」のであれば、後者のような状況では重要なプレゼンを引き受けるリスクが高いと判断すべきでしょう。もちろんこの場合においても「リスクの高さを認識した上で、それでもプレゼンをやるべき」という意思決定はあり得ます。

また別の例で考えてみましょう。仮にあなたが一人で集中して作業すると高い生産性を発揮するものの、大勢で頻繁にコミュニケーションを取りながら作業をするのが苦手ということであれば、できるだけ一人で作業できる環境に身を置くようにすることが今後のキャリアを考える上で重要かもしれません。

このように、「何ができるか」というスキルと併せて「どのような環境で力を発揮できるか、またはできないか」という得意・不得意を棚卸ししておくと、4月から環境が大きく変わったときでも極力、自分の力を発揮できる環境や状況を作ることができると考えられます。

経験の棚卸しをしよう

得意・不得意と併せて棚卸しておきたいのが、この一年間で経験したことです。誰と何の仕事をしてきたのか、その際に発生した課題は何だったのか、どうやってそれに対処したのかといったことを箇条書きでもよいので書き出してみるとよいでしょう。

将来的に昇進して新しいポジションに就く場合でも、異動や転職をする場合でも、「自分に何ができるか」と併せて「どういう経験をしてきたのか」を話せるようにしておくことは自身の価値について説得力を持って相手に伝える上で必ず役に立ちます。

なお、単に「何をやってきたのか」という経験だけではなく、仕事の遂行を妨げる課題の発生や、その要因についての自分なりの分析、課題に対応する際に行った工夫などについても具体的に書き出しておくことをお勧めします。それによって、新しい仕事を始めたり今とは異なる環境で仕事を始めたりする場合でも、自身が柔軟に対応して価値を出せることを信ぴょう性を持って周囲に伝えることができます。

なお、書き出す経験の抽象度が高すぎると「一般論」になってしまい、自分の経験談として手触り感のある話ができなくなってしまいます。後からまとめるために抽象化するのはよいですが、最初に書き出すときにはあくまでも具体的なものにしましょう。

とはいえ「わざわざ書き出さなくても」という疑問を抱くかもしれません。今は鮮明に覚えているから必要性を感じないかもしれませんが、数年経ってから振り返った時に今と同じ解像度で思い出すことは困難なので記録に残しておくのです。

関わった人の棚卸しをしよう

そして3つ目は、この一年間で関わった人たちのことです。たとえ異動や転職で今の職場を離れてしまうとしても、今の職場で出会った人達の中には今後どこかで意外な形で再会することがあるかもしれません。また、それ以上に自分が苦難に見舞われたときに助けてくれることもあるでしょう。

但し、このようなことはあくまでも偶然の産物です。自分が困ったときに適切な相手が適切なタイミングで都合よく現れて助けてくれることを期待するのはあまりに虫が良すぎます。

そこで、この一年間で関わった人たちにどういう人がいたのか、その人は何が得意なのか、何に興味があるのか、自分とはどのようなかかわり方をしたのか、自分に対して好意的かそうでないか、などといった情報をざっくりと書き出しておくのです。

もちろんLINEやFacebook、Linkedin、Twitter、InstagramなどのSNSで繋がっておくと連絡が取りやすいので、今後も連絡を取る可能性が高い人とはそうしたツールで連携できるようにしておくのもアリでしょう。

しかし自分がいざ困ったときに誰に連絡したらよいかを判断するには、書き出しておいたリストを見返すことが役に立つはずです。人との関係性は自分にとって財産です。その財産をしっかり管理することは、この後のキャリアにとって必ずやプラスになることでしょう。

なお大前提として、そのような相手が困ったときや助けを求めてきたときには、無理のない範囲で自分が相手の力になってあげることは人として大事なことです。どちらか一方が得をしたり損をしたりするのは健全な関係とは言えません。双方にとってメリットのある形を作れるように考慮しましょう。

以上、今後のキャリアを見据えて今の内にやっておくべきことをお伝えしました。年度末の忙しい時期ですが、時間を見つけて対処してはいかがでしょうか。