本連載の第102回では「ロジカルシンキングは全てのビジネスパーソンが身に着けるべき素養」と題し、ロジカルシンキングが如何に重要か、というお話をしました。今回も引き続きロジカルシンキングに着目し、コミュニケーションを効果的に行う上でロジカルシンキングが不可欠な理由についてお伝えします。

ロジカルシンキングはビジネスでは欠かせないスキルです。最近では関連するテーマの書籍が多く出版されているので認知が上がってきているのか、一昔前よりできる人が増えているように思います。その一方で、得意でないという方もまだまだ少なくありません。

そして「自分にはロジカルシンキングなんか必要ない」と豪語し、実際にこれまで活躍されてきた方には逆風が吹いてきています。その逆風とはテレワークです。

オフィスで一緒に仕事をしていれば、情報を一から十まで言語化して伝えなくても顔の表情や声のトーン、ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションで補完することで、相手になんとなく理解してもらうことができたのではないでしょうか。むしろ相手が理解できないと「空気が読めないのか」とか「察することができないやつだ」と、自分の言いたいことが伝わらないのを相手のせいにしていたという人もいるかもしれません。

しかし、テレワークでは非言語コミュニケーションでカバーできる範囲が対面と比べて狭くなってしまいます。それは言い換えると、相手に言葉で明確に情報を伝える力が相対的に上がったということに他なりません。そして言語で情報を伝えるには語彙力に加えてロジカルシンキングの力が欠かせません。逆にロジカルシンキングが苦手だと、自分の考えが相手に伝わりにくいとも言えます。

これには2つの要因があります。1つはそもそも「自分の考えが整理できない」ためで、もう一つは「適切に伝えられない」ためです。

1. 自分の考えが整理できない

こちらについてはロジカルシンキングが出来ていない、即ち物事を論理立てて考えられないということなので、伝えるべきことの内容自体が論理破綻してしまいます。

そうすると、例えば上司から新入社員に仕事を教えるように指示されたときに「仕事は沢山あるけれど、どこから教えたらよいのだろうか」と途方に暮れてしまったりします。

一方、ロジカルシンキングが出来ていれば「そもそも新入社員はいつまでに何ができるようになっているべきか」というところから定義して「では、それを実現するために何を教えるべきか」を考え、さらに「ではそれをどうやって教えるか」などと順序だてて考えることができます。

2. 適切に伝えられない

2つ目の「適切に伝えられない」については、もし伝えるべき内容が適切なものであったとしても、論理立てて伝えられないことで結局何を言っているのか相手が理解できないという事態を招いてしまいます。ここで勘のいい方は、そもそもロジカルシンキングができていない人は適切に考えられないから、内容が適切だけど論理立てて伝えられないケースは存在しないのではないかという疑問を抱くかもしれません。

しかし人に何かを伝える際には「自分で考えたこと」だけを伝えるわけではなく、上司などから聞いたことや何かの資料に書いてある情報など、他の人の考えや情報を相手に伝えるということもあるので、このパターンに当てはまるケースは存在します。

さて、先ほどのケースで説明すると、適切に伝えられない人は新入社員に仕事を教える際に職務記述書やマニュアルに書いてある細かい内容をそのまま最初のページから一字一句順番に伝えようとすることがあります。

もちろん記述内容や記述方法にもよりますが、この伝え方は相手にとっては分かりにくい上、苦痛でしかありません。新入社員に仕事を教えるのであれば、「会社全体における、その職務の位置づけ」や「その職務で果たすべき役割」といった大枠から伝え、次に「その役割を果たすために何の業務が存在するのか」、そして「各々の業務手順はどうなっているのか」を伝え、「ツールの使い方」や「イレギュラー発生時にはどう対応するべきか」などの細かい内容に移っていくのがセオリーでしょう。

これは伝え方の一例ですが、「大枠から理解してもらって徐々に詳細を知ってもらう」ことで情報伝達の漏れを防ぐとともに、個々の仕事の位置づけや目的を把握してもらってから内容に移ることで腹落ちさせる狙いがあります。

ここまで見てきたとおり、ロジカルシンキングができないと「自分の考えが整理できない」、「適切に伝えられない」という2つの要因によって相手に自分の考えが伝わりにくくなってしまいます。そして特に言語コミュニケーションの重要度が増すテレワークにおいてはその傾向が益々顕著になっています。これを機にロジカルシンキングを意識して効果的・効率的なコミュニケーションを取れるようになっていただけたら幸いです。