私は以前から、「手帳は時間軸OSをインストールしたノートである」という仮説を提唱してきました。記入ページを綴じた構造を持つ記録媒体であるノートに、時間軸というOSを入れることで、時間軸と親和性の高い、予定管理、日記、ログ、タスク管理などの各種用途(=ソフトウェア)に使えるというわけです。
そしてノートの各種罫線もまたソフトウェアだと考えています。もう少し説明すると、罫線自体が示唆する記入のパターンが、罫線それぞれにあります。罫線はユーザーにそれを喚起する存在としてあり、それゆえにソフトウェア的な役割を持つものと見なしうると考えています。
今回は、10周年を迎えて限定バージョンも登場したMDノートの各種罫線をもとにそれを説明してみます。
MDノートのバリエーション
MDノートは、「プロフェッショナルダイアリー」などの各種綴じ手帳や、同社のダイヤメモなどにも使われている、デザインフィルの手帳用紙「MD用紙」を使ったノートです。その基本イメージは書籍。サイズが文庫、新書、A5、A4変形の4パターンだったり、パラフィン紙が巻いてあったりするのはそのためだそうです。
10周年記念製品のバリエーションは、「ドット罫」「ジャーナル罫」「横罫 8分割」「絵コンテ罫」「グラフ罫」「方眼罫 白」「横罫 余白」「方眼罫 余白」「原稿罫」「縦罫」となっています。
上記の仮説を敷延して言えば、MDノートのこれらのバリエーションは、"無地のMDノートに各種ソフトウェアをインストールしたもの"です。
その最もわかりやすい例は、絵コンテ罫でしょう。ぱっと見るだけでもこれが、マンガや映画などビジュアルな表現媒体のラフを描くためのものであることがすぐにわかります。
罫線はまた、そこから想起されるオーソドックスな使われ方とは別な利用法を生み出すためのきっかけでもあります。上述の絵コンテ罫で言えば、四角い枠が見開きの面に16あることを利用して、Webぺージの遷移図として利用することもできるわけです。
手帳においては、例えばガントチャートが本来の想定用とである進行管理に使われるだけでなく、ハビットトラッカー、すなわち日々の習慣がきちんとこなせているかどうかのチェックを○×を記入して記録するために使われたりもします。
そして例えば、MDノートでは、横罫8分割ならば、分割された1つのブロックのそれぞれを見開き1週間の1日に見立てることで手帳や日記としても利用できるわけです。
この仮説を知ってか知らずか、MDノートは、そのコア・コンピタンス(中核となる強み)が罫線であり、書き心地の良い紙質であると言わんばかりに、簡素な出で立ちです。具体的には、表紙に「MD PAPER」というロゴが控えめにエンボス加工であるだけです。
一般的なノートのような表紙や装丁はなく、スリップも背の上部にむき出しです。高価格帯に属するであろう小売価格は、パラフィン紙にくるまれていなければ、ユーザーによっては疑問に思うかもしれません。
オーソドックスな使い方も自分なりの使いこなしも許容する
まとめると10周年記念のMDノートのどの罫線の種類もユーザーにオーソドックスな使い方をオススメしつつも、そこからの逸脱=自分なりの使いこなしも許容しているように思えます。そして簡素な出で立ちはその一助になっていると感じられます。
また、付属するラベルの存在も、このノートが単なるアナログ記録媒体、もっと言えば学生用の学習記録のための存在とは、異なる次元にあるものであることを主張しているようです。
タイトル欄があり、「いつから使い始め=START」、「いつ使い終わったのか=FINISH」、そして「何冊目なのか=VOLUME」。「FROM THE LIBRARY OF」という文言は、このノートが明らかに知識を蓄積する媒体であることの表現だと思えます。
MDノートの10周年記念モデルは、オーソドックスなものから個性的なものまである、しかしその応用範囲をユーザーの想像力に大胆に委ねてくるような罫線のバリエーションを持っています。
その一方で従来の紙質やシンプルな装丁、そして意識して使うことをユーザーに求めてくるラベルなどの全体、そして単価の高さによって、ノートという、多数のメーカーがひしめく文房具の中の一大ジャンルの中にあって、スタティックでクールな個性を主張しているように見えます。
今回発売された10周年限定のいくつかのタイプは、ひょっとしたら今後の定番として定着するのかもしれません。それでもMDノートのこの装丁はずっと踏襲されるはずです。それはMDノートを代表とする、知識の蓄積のためのノートの最も大切な部分は、書き心地の良い紙質であり、ユーザーの想像力をかき立てる罫線だからなのでしょう。
舘神龍彦
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