キヤノンITソリューションズは、6月29日に本社品川で「ネットde手帳工房」の発表会を開催。その後ISOTにも出展しました。同サービス最大のポイントは、"自分だけのオリジナル手帳(「ワタシメイド手帳」と呼称)が1冊から作れること"です。

6月29日の「ネットde手帳工房」発表会の模様

手帳のバリエーション

印刷物は何でもそうですが、"1冊だけ"を作るのは難しいものです。そして手帳ほど、利用する人によって望むものが異なるものもありません。大きさ、レイアウト、六曜の有無、月齢、時間軸の有無と長さ、デザイン、フォントとそのサイズ、メモページの罫のタイプ、紙の色とタイプ、ページ数etc……。

自分にぴったりのものがあればいいけれど、仕方がないからなるべくそれに近いものを探して、最小限の妥協をする。そのために文具店や雑貨店の店頭で必死にチェックする。

「ネットde手帳工房」で作られた手帳サンプル

この辺のこと、すなわち市販の綴じ手帳にはどんなページが含まれているのかを徹底的に洗い出したのが、拙著『手帳の図鑑』(えい出版社 2008)です。その後類書が出ていることでわかるように、手帳の細部にわたって、事前にチェックしたい、コアな手帳のユーザーは少なくないと思われます。また、手帳の用途もかつてのビジネスの予定管理中心から、健康管理やライフログなど多岐にわたってきました。

自由に組み合わせて作れる「ネットde手帳工房」

「ネットde手帳工房」のサービスは、この問題に正面から取り組んだサービスといえます。1冊5,400円(税込み)で、予定記入欄やメモページに至るまで自由な組み合わせが可能です。記入欄やメモページを組み合わせるだけでなく、例えば、月間ページは15カ月といったカスタマイズもできるそうです。

製作の実際の画面。これはISOT出展時のもので、選択肢の豊富さを一覧させるために縦長のディスプレイが用意された

同時にユーザー自身が用意したPDFをページに含めることができます。例えば、顧客管理名簿や、健康管理の記録ページなど、自分がデザインした記入欄をPDFとして用意し、予定記入欄やメモページとともに1冊の手帳としてまとめることも可能です。

手書きの絵もPDF化すれば手帳に取り込める

初年度はサイズがA5版のみ、総ページ数は200ページなどいくつかの制約はあります。それ以外の点では、原理的には完全に自分が望む仕様の手帳を作り上げられるのです。

手帳の作り方

作り方の手順は以下になります。まず、サイトでユーザーの情報を登録します。

製作サイト入り口

そして用意されたフォーマットを選択、カスタマイズしていきます。これを繰り返して複数の予定記入欄やメモページを組み合わせます。

一日一ページフォーマットの例

メモページには特殊な用途に対応するものもある。これは囲碁用のメモ

記入欄はこのように選択して追加していく

各種記入欄を組み合わせて作ってみたところ

最終確認画面

実際に作成した手帳のイメージはPDFファイルとしてダウンロードし、確認できる。ただし「印刷不可」のすかしが入っている

この画面のすべての項目にチェックを入れることで、初めて注文手続きには入れる。ここに至るまでに入念な確認をしよう

またPDFファイルも挿入できます。実際にやってみるとなかなか楽しいものです。ちなみに、手帳のカスタマイズと構成だけならば、無料でできます。

綴じ手帳の手軽さと利便性

手帳のカスタマイズで思い浮かぶのがシステム手帳です。システム手帳ならば、そのバインダーの規格にあうどんなリフィル(記入用紙)でも綴じることができます。だから、システム手帳でもいいという意見があるかもしれません。たしかに自作リフィルなども利用すればもっと手軽にワンオフの手帳を作れます。実際システム手帳ユーザーでは、すべてのリフィルを自作するような人もしばしばいらっしゃいます。

ただし、システム手帳は基本的には、手帳の上級者のものです。すなわち自分がどんな予定記入欄が必要か、メモページはどれだけかなどをすべてわかってからリフィルを組み合わせて使います。

また、システム手帳は避けて通れない問題があります。リフィルを綴じるためのバインダー中央のリングの存在です。リングが記入時に手に当たるのを嫌う人は少なくありません。

セールスパーソン向けのバーチカルフォーマット。12時の時間帯が他にくらべて広く取ってある。会社の休み時間に複数の顧客にアポを取ってアプローチするため。こんなカスタマイズもできる

「ネットde手帳工房」は、手帳にまつわるこれらのもろもろの点を解決している点で画期的です。

新しい年玉手帳のベースとしても

また、「ネットde手帳工房」は年玉手帳に新たな可能性を開くものかもしれません。

年玉手帳とは、企業が自社の従業員に対して配布する手帳で、その多くは社是・社訓などが書かれています。これは、専用に作られるものもありますが、多くは手帳メーカーが企業を対象に自社の製品の扉部分、メモページなどに、クライアントが求める情報を盛り込む形のカスタマイズを施して販売しているものも多いからです。外見は「能率手帳」だけれど、中身は特定の会社向けにカスタマイズされた手帳を見たことがある人も多いでしょう。

年玉手帳は、平成不況をきっかけに経費削減の対象として減少し、それが現在の市販の手帳の隆盛につながってもいます。

そして「ネットde手帳工房」のカスタマイズ可能な点は、この社是社訓や資料ページをPDFとして含むこともできるので、新しい年玉手帳のベースとして利用される可能性も持っています。特に、起業間もなくメンバーが少ない会社が、従業員に持たせるものとして作ることができる可能性があるでしょう。

今後のサービスの行方は?

一般ユーザーの視点で言えば、手帳におけるカスタマイズの必要性は、ある程度手帳を使い込んだ人に限られます。「ネットde手帳工房」のサービスの成否は、そういう層にサービスの存在をどれだけ知ってもらい、あるいは今後のサービス内容を使いやすいようにチューニングしていけるかにかかっているでしょう。

また、現段階においても不十分と思われる点もあります。例えば見開き一週間レフト式のフォーマットには横方向の時間軸がありません。六曜、月齢の有無は選択できても、二十四節気などは含まれていないようです。見開き一週間のバーチカル式でも、時間軸の開始時間は選択可能ですが、幅としては12時間、16時間、24時間の3種類です。

手帳を構成する要素を完全にゼロからフルオーダーというよりは、人気のフォーマットを幅広くそろえた、いわばセミオーダー的なサービスと考えた方がいいかもしれません。

レフト式手帳のカスタマイズ画面。フォントや罫線の種類は変更可能。また罫線の濃さは色の選択を買えることで対応している。予定記入欄に横方向の時間軸を加えることはできない。また時間軸が用意されているバーチカル型でも、時間軸の幅そのものを変更することはできないなど、まだまだ自由度の幅には限界がある

実際のサービスが開始されるのは、本年9月4日。それまではネット上で気が済むまで手帳をカスタマイズしてみましょう。オンライン上でのカスタマイズはすべて無料です。

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

twitter :@tategamit
facebook :「手帳オフ」
Blog :「舘神Blog」