去る7月5日~7日、東京ビックサイトで「第28回 国際文具・紙製品展(ISOT)」が開催されました。ISOTは、国内外のメーカーが出展する文具の展示会で、メーカーとバイヤーや販売店の商談の場というのが基本的な性格です。そして各種の新製品が一同にみられる場所として、あるいは、優れた文具に贈られる「日本文具大賞」グランプリ発表の場としても毎年注目されています。

今年は、私もISOT文具PR委員の一人としてSNS上で各社のブースをレポートしました。本連載ではISOTに出展されたものを中心に手帳と文具の情報をお届けします。

ISOT開会直前の様子。この語テープカットが行われ、ビッグサイトは3日間熱気に包まれた

恐るべし! カレンダー手帳

手帳も注目のアイテムが複数登場していました。国内のここ数年の手帳は書かさず見てきたつもりの私にとっても驚きの製品がありました。

その一つが「カレンダー手帳」(カール事務器)です。この製品を監修した文具ソムリエールの菅未里氏はISOT文具PR委員でもあるのですが、「マツコの知らない世界(TBS)」出演で一躍人気者になった感があり、その華やかさに目が行きがちです。

ですがどうして、ネーミングからはうかがい知れないポテンシャルを感じました。以下に説明していきましょう。

カール事務器のブースで自ら説明する菅未里氏

見た目はよくある卓上型手帳だが……

まず外見。ぱっと目を引くリバティ社製の生地を使った鮮やかな表紙には、カラフルなゴムバンドが巻かれています。このバンドは、後述するように立てて使うときの保持機構としても機能します。

カレンダー手帳を正面から見たところ。上部のリングと下部のバンドが印象的。リバティプリントの上に金箔で「CARL」のロゴがある

次に手帳としての形式です。サイズはA5サイズ。予定記入欄は2017年12月~2018年12月までの13カ月分の月間ブロックスタイルです。

月間カレンダー部分。上部(裏面は前月)は4本の罫線で分割されている。また月間ブロック部分の1日のスペースは22mm×24mm。月曜始まりで六曜入り。この点は手帳的。また週は縦に5段だが、どの月も月末で1マスで2日の日(例:「24/31」のような形になること)はなかった。

月の下の部分には、ふせんも貼れる。これは25mm×75mmを縦に貼ったところ

「カレンダー」というネーミングから日曜始まりかと思いきや、月曜始まり。つまり"手帳"であることにウエイトが置かれているわけです。六曜表記もありますが、月齢や二十四節気などはなし。ここまではネーミング通りの印象を裏切るものではありません。

年間カレンダー部分。英字表記のみでシンプルな印象

この手帳が本当にすごいのは、以下の2つの部分です。

ルーズリーフ互換のリング

まずリングです。これは立てたときの視覚的なアクセントにもなっていますが、実はA5サイズの20穴のルーズリーフと互換性があります。

立てたところ。上部のリングが印象的

実際ISOTのカール事務器のブースでは、推奨品としてマルマン社の製品が置かれていました。同じ規格の製品ならば綴じられるはずです。

ルーズリーフノートの部分。3mm方眼のリフィル。15枚が附属する。ルーズリーフのピッチはマルマン社製のものと互換性がある。中央の太い線は、このページが横向きでノートをとるためのものであることを暗示している。そうすればルーズリーフにつきものの記入時のリングの干渉はありえない

つまりこの手帳には、同規格のルーズリーフ用紙各種や自作リフィルなども綴じられるわけです。無地のルーズリーフ用紙に、パソコンとプリンターを使って資料を印刷して綴じることもできるでしょう。ルーズリーフ用紙にはシステム手帳ほどは利用できる用紙の種類が少ないというデメリットがあります。この点はユーザーの工夫にゆだねられているわけです。

リングを開けたところ。特別な器具も不要で手で簡単に開ける

またカール事務器には、普通の紙に20穴の穴を開けるための「ゲージパンチ」という製品もあります。すなわち、既存のA4またはA5の資料に穴を開けて綴じられます。

一見、卓上カレンダー風ながらこんな使い方ができるのが、このカレンダー手帳のメリットでしょう。システム手帳風の重厚さがないのも気軽に使えていい感じです。

スタンドスタイルの2つの利点

そしてこの立てるスタイルです。従来の卓上型カレンダーにもあった特徴ですが、A5サイズであることで、その意味が大きく変わっているといえます。

まず設置面積の小ささです。一般の開くタイプの綴じ手帳は、机上の専有面積がどうしても大きくなります。ノートやマウスと干渉することも少なくないでしょう。その点、このカレンダー手帳は立てておけます。つまり机の面積を最大に活用できます。

スタンド機能を横から見たところ。二重構造の裏表紙2枚をゴムバンドがつなぐことで立たせている

また、常に立てて参照できる点も大きな意味があります。まず納期や目標など、手帳に書いたことがいつも目に入るからです。この効能は決して小さくありません。

二重の裏表紙の重なり具合がわかるカット。2つのハトメ間の距離は約16.5cm。裏表紙の穴の間隔は約15cm。つまり、スタンドモードにおけるゴムバンドは台形になっている

もう一つ、パソコンのディスプレイと交互に見るときに疲れが小さいのも見逃せない効能です。机の上に水平に置かれた手帳と垂直に近い角度で置かれたディスプレイを交互に見る場合は、頭の角度を変える必要があります。

カレンダー手帳の場合、ディスプレイの横に立てておけば、視線を横移動させるだけで済みます。資料ページを参照する場合も同様です。また資料などのために多少かさばることがあっても、持ち歩くときにはゴムバンドがホールドしてくれるでしょう。

ノートパソコンと並べたところ。両方とも垂直に近い角度であり、机の上に開いた手帳よりもディスプレイから視線を移すときに疲れが少ない

立てる手帳は新しいかも

これまでの卓上カレンダーは、サイズそのものが小さく、あるいは記入は最小限で、カスタマイズ性はあまり考えられていなかったように思います。このカレンダー手帳は、ルーズリーフ互換という点で可能性を広げ、立てる独自のスタイルで手帳の新しい形や使い方を提案しているように思えます。

月間ブロックページの上にメモページをのせたところ。リング手前に、メモページ下部をややかぶせるようにすればこんな使い方もできる

カラバリ豊富で、おしゃれ文具のアイコン的なゴムバンドをあしらった部分に目が行きますが、派手に見えて実は恐るべきポテンシャルを持った手帳。カレンダー手帳はそんな手帳ではないかと思います。ユーザーがどんなふうに受け入れて使うのか、非常に楽しみです。

ゴムバンドをホールドするハトメが、表部分の穴に重なるようにできている

執筆者プロフィール : 舘神龍彦

手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

twitter :@tategamit
facebook :「手帳オフ」
Blog :「舘神Blog」