中年女性の不倫がこんなに多いなんて……「別れさせ屋」として仕事を始める前、ワタクシ、工作員Kは夢にも思いませんでした。不倫といえば、「既婚の30代から50代くらいの男性と、若い独身女性」がほとんどだろうという固定観念があったのです。もちろん中には、お互いに既婚者であるダブル不倫や、10年、20年と関係を続けている、昔でいうところの「2号さん」「お妾さん」といった立場の女性も存在しているとは思っていましたが、そういった不倫をしている女性はいわば“日陰の身”である自らの立場と“忍び逢う”恋をわきまえ、家庭を壊すことなくひっそりと愛を育んでいて、別れさせ工作を依頼してくる女性といえば、アラサーからアラフォーくらいの独身女性だろう、とたかを括っていました。

この思い込みは見事に打ち砕かれました。まず、ダブル不倫の多いこと、多いこと。そして道ならぬ、でも真剣な恋に悩み苦しみ、何とか愛する不倫相手と結ばれたいと願う相談者の年齢層の高いこと。40代、50代となった男女が、まるで10代のように恋に身を焦がし、人生を賭ける勢いで何とか結ばれたいと願う様は、世間からは受け入れがたいものかもしれません。でもそういった人が少なくないことは事実なのです。「実は私も…」今、この記事を読んでいる読者の中にも、同じ境遇の方がいらっしゃるかもしれません。大人の恋とは名ばかりの、いえ、後がない大人年齢だからこそ咲く想い。今回は、50代にして「これが最初で最後の恋」と言い切った、ある女性について取り上げます。

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相談者:バツありのアラフィフ女性。離婚理由は容姿下げやレス。女性として見てくれた前彼と不倫。前彼の妻は放任主義で別居している。しかし老夫婦のようなときめきのなさと、事実婚同然の自分より何年も別居している妻に財産を付与することが不満で、今彼との関係を始め、前彼・今彼と二股中。今彼はイケオジのエリートで、よくできた妻と子あり。本気になってしまい、どうしても今彼と一緒になりたい。もっと会いたい。そのために整形、イメチェン、投資、転職に向けスキルアップもしたが、他に何ができる? 何が足りない? どうして彼は私を選んでくれない?


女性としてずっとコンプレックスがあった

世莉さん(仮名)は51歳。勤務先については、いわゆる堅い職場です。ほっそりとした体型、涼しげな顔立ちとマニッシュな服装が、知的さを引き立てます。また手入れされたジェルネイルも美しく、この後は月2回の美容スキンクリニックに行く日なのだとか。収入も貯金も一人で暮らしていくには十分で、趣味はジム通い、ピラティス、ジョギング、そして現在不倫交際している彼氏の影響で始めたジャズ鑑賞とワインソムリエの勉強と多彩です。特に持病もなく、遠く離れた実家の両親の介護は既婚の兄と弟世帯に任せられるとなれば、今の彼女は、都会で生きる大人の独身女性として何も不足がないように見えます。

しかし本人いわく、学生時代は現在よりも太っており、“ガサツな女”として扱われてきた10代20代は、恋愛に縁がなかったそうです。自分はきっと一生独身なんだろうなとうっすら思っていたため、しっかり勉強し、県下でもトップクラスの高校、そして国立大学に進学。好きな男性がいたことはあるけれど、告白したこともされたこともなく、でも性的な好奇心や恋愛したいという気持ち、そしてコンプレックスを克服したいという気持ちはあり、本人が言うところの“冴えない毎日”に突然の変化が訪れたのは、30歳を目前にしたある日のことでした。残業で一緒になった職場のアルバイト男性から、帰りに飲みに誘われたのです。ちょうど12月。街にはクリスマスソングが流れイルミネーションが輝いている季節。お酒のせいだったのか、魔が差したのか、穏やかだけれど彩のない日々を壊してみたくなったのか。自分でもわからないまま、自分から誘い、その夜、世莉さんは彼とホテルに行きました。

その後、世莉さんの部屋に彼が転がり込む形で同棲がスタートし、4ヶ月後にはスピード入籍。特に結婚式や披露宴もしなかったそうですが、どうやらその理由は彼の経済力のなさだけではなさそうです。エンゲージリングもなくとりあえず世莉さんが結婚指輪だけは買い、入籍前と後で何も変わらない新婚生活がスタートしました。しかし最初からほぼレスだった上に、性格に一癖も二癖もある彼は、世莉さんの容姿を貶す発言も多く、「結婚してみたかった」世莉さんが愛想を尽かし、人生をこのまま無駄にしたくないと離婚を決意したのは自然な流れだったのかもしれません。

離婚後、15年間の不倫恋愛は燃えない関係

離婚後、世莉さんは、自分の中にあった「けなされ、否定されることへの怒り」に気づきます。カウンセリングを受けたり、ハードなダイエットを始めた世莉さんに寄り添ってくれたのが、前の交際相手である鈴木氏(仮名)です。彼は既婚者で世莉さんよりずっと年上。妻子がいるものの、仲間と海外や登山に行くと数ヶ月家に帰らないなど、根っからの自由人でした。

離婚前から世莉さんを知っており、「容姿で選んでいない」と断言する彼の存在は、半分父親のようで心地よいものでした。彼の妻が「お金のことと子供のことさえちゃんとしてくれたら、後は好きにしてください」という主義だったことも幸いし、世莉さんは不倫相手という言葉では表せないほど密な関係を彼と築きます。「奥さんと、どちらが長く一緒にいるかわからない」というほど多くの時間を一緒に過ごし、友人や実家などにも紹介され、法律上は違っても実質的にまるで妻のような立場が約15年継続しました。これはこれで、長年の夫婦のような安定感がある関係なのですが、トキメキや情熱はなく、また彼のこだわりとして「記念日にプレゼントはしない」「全財産は罪滅ぼしに本妻と実子に」「婚外子は作らない」といった発言をされるたび、世莉さんの中で萎える気持ちが生まれたそうです。

燃えないし萌えない関係。「でももう今更新しい恋も難しいし、このまま彼と続くのかな……」そんな風に「諦めていた」世莉さんでしたが、49歳になる1ヶ月前にまさかの新しい恋に落ちたのです。それも電撃的に、激しい恋に。

こんな気持ちは初めて、こんなに傷つくのも初めて

SNSを介した異業種交流会にたびたび参加していたという世莉さん。出会いへの下心が全くなかったといえば嘘になりますが、これまで特に惹かれる男性には出会えませんでした。ただ異業種交流会で知り合った人とSNSでつながるにつれ、その人たちの友人や知人からも友達申請がくるようになりました。その中にいたのが、今彼の利根川氏(仮名)です。 利根川氏は世莉さんより少し年上ですが、いわゆるハイスペック男性、外資系勤務で自他共に認める「イケオジ」タイプ。本人もイケメンやモテを相当意識していて、髪型やファッションへのこだわりも強く、「メタボは甘え」「1.2kg増、今週末は断食デトックスで体と精神の余分なものを削ぎ落とし、クリアでシャープな己を保つ」といった発言が多い男性です。「彼の全部が好みでした」と世莉さんは言います。顔が好み。体型が好み。尊敬できる男性でないと好きになれないいう世莉さんにとり、利根川氏の社会的ステイタスや年収は眩しく見えました。

世莉さんからのアプローチで始まった2人の関係ですが、プレイボーイを自称する利根川氏もまんざらでなかったらしく、関係は1度では終わりませんでした。彼は「自分の都合の良い時にふらりと」、世莉さんの部屋に足を運ぶようになります。とはいえ、2人の関係は明らかに世莉さんの前のめりな想いの比重が高く、利根川氏からは牽制球が次々と投げられます。次にいつ来れるかはわからない。誕生日含め記念日や特別な日は一緒に過ごせない。またSNSにも「家族が一番大事」「妻は家庭を運営する共同パートナー、遊びは外で」といった投稿が定期的にみられました。

しかしながらすっかり利根川氏に惚れ込んでしまった世莉さんは、誰にも止められません。どうしても彼と一緒になりたい。私を一番好きになって欲しい。もっと会いたい。他の女性を見ないで。そういった募る気持ちを抑えきれず些細なことで感情を爆発させては、落ち込み、謝ってはすがり……そんなメンヘラ化していく世莉さんを利根川氏は雑に扱うようになったばかりか、残酷にも年齢や容姿をネタに軽んじるような発言をみせます。

狂おしいほどの愛しさと、悔しさ。何とか彼を見返そうと、世莉さんは美容にお金をつぎ込み始めました。美容整形、服やコスメを買い込み、イメチェンできないかとパーソナルカラーの講座を受けました。利根川氏がいわゆる痩せフェチであることから、4kgも痩せ、未だダイエット続行中なのだとか。また専業主婦である奥さんに勝ちたいという思いから、経済力と能力ある女性になるため投資を学び、転職に向けスキルアップも。また奥さんとは義務的に月一度しか夜の営みはしていないという話を聞いてからは、ベッドでのテクニックも磨こうと、ネットで情報収集してグッズも買い揃えたほど。何も知らない人からは「頑張っている前向きな女性」に見えるでしょう。反対に全ての事情を知っている人から見たら、痛々しいあがきに見えるのかもしれません。

なぜなら世莉さんがどれだけ泣こうがわめこうが、耐えようが努力しようが、利根川氏はマイペース。少し距離が近づいたかと思えば、離れていく。まるで波のようにつかみどころがないのです。美しくなれば、経済力のあるハイスペに私もなれば、彼も私に一目置いてくれるはず。そう思っていた世莉さんは、追い詰められていきます。他に何ができる?何が足りない? どうして彼は私を選んでくれないの?

鈴木氏にも利根川氏との関係がバレ、ふられてしまい、何ヶ月も何ヶ月も悩み苦しんだ末、世莉さんはついに決心します。「奥さんが利根川さんから去ってくれれば。そのためにプロにトラップを仕掛けてもらおう。」

あきらめられない女は不幸なのか、幸せなのか

ここまでで、工作員としてはいくつか世莉さんに、やめさせないといけないことや変えなければならない考え方が思い浮かびます。相手の事情や性格、価値観などをじっくりと掘り下げるのはもちろん、絶対にしてはいけない地雷ポイントを踏まないという基本すら、世莉さんにはできていないのが現状だからです。また正直、これまでの努力や行動に対しても、違う違うそうじゃない! とツッコミたくなる点も少なからずあります。

世莉さんの恋が成就する可能性はあるのか。また成就させるべきなのか。それにはさまざまな意見があるでしょう。50歳の女性が、既婚の男性に恋し、どうしても諦められない。つかの間の逢瀬を楽しむのではなく、何が何でも彼を自分のものにしたい。周りから見れば無謀かもしれません。非常識で不道徳かもしれません。心ない人たちからは、いい歳をして……と陰口を叩かれるものです。でもどうしても諦められなかったら? くる日もくる日も、考えないでおこうとしても考えずにはいられなかったら? この恋のためなら死んでもいいと思うなら? 人生最後の恋だという彼女の想いを、「無理」の一言で済ませることはできません。

もちろん、年齢とともに、恋愛や性愛への興味が薄れる人もたくさんいます。もうそういうのはいらない、年をとって楽になったと言う女性も珍しくありません。でも逆に、世莉さんのように、50、60、もしかしたら70を迎えても、燃えるような恋をする女性はいるのです。略奪を望む世莉さんを見苦しいと感じる人もいるでしょう。でも私たち工作員には、諦められないほど好きな人に出会え、この愛に残りの人生を賭けてもいいと思えるほど本気になれる彼女が女性としてとても幸せに見えるのです。諦めてしまえば楽なのかもしれない。でも諦められない。いや、あの人を諦める方が、今の苦しみよりもっと辛い。そんな諦められない女は不幸なのか、幸せなのか。読者の皆さんはどう思われますか。