いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、三鷹のコーヒー&レストラン「プリモ」です。
どこかモダンなお店で楽しむ日替わりランチ
三鷹駅を北口に出て、中町新道を吉祥寺方向へ数分進むと、右側にレトロな喫茶店が現れます。それが、今回ご紹介する「プリモ」。
いま喫茶店と書きましたが、正しくは「コーヒー&レストラン『プリモ』」です。"喫茶"でも"カフェ"でもなく、"コーヒー&レストラン"ってーのがいいじゃないですか。外観も歴史を感じさせはするものの、どことなくモダン(あえてこの表現を使いたくなります)。
実は10数年前、三鷹に住んでいたころから、ずっと気になっていたお店です。けれど当時の家から近かったので「いつでも行けるわ」程度に考えていたのです。
が、そうこうしているうちに引っ越すことになり、結局は行かずじまいに。よくあるパターンではありますが、だから以後もずっと、頭から離れなかったということ。
この日はランチタイムの12時半ごろに到着しましたが、ドアを開けてみれば先客はなし。つまりは貸し切り状態なので、なんだかちょっとトクした気分。せっかくなので、店内を見渡せそうな奥のほうの席に座りました。
「きょうのランチはハンバーグです」
水の入ったグラスと紙のお手拭きを置きながら、マスターが笑顔で声をかけてくれます。なるほど壁に貼ってあった日替わりランチのメニューに目をやると、たしかに水曜日だったこの日は「ハンバーグステーキ」と書かれていますね。
「ハンバーグ」ではなく「ハンバーグステーキ」というところに、ちょっとしたこだわりを感じもします。ちなみに月曜はオムライス、火曜はエビフライ、木曜は若鶏からあげ、金曜はポークカツピカタって、大人も子どもも大好きなメニューばっかりですね。これはうれしい。全部食べてみたくなりますが、いずれにしてもハンバーグをオーダーしてみました。
マスターは、歳のころ70代後半くらいでしょうか。白いシャツをラフに着こなしていて、「この人は絶対、若いころにモテただろうなー」という印象です。
ジューシーなハンバーグステーキを堪能
それにしても、落ち着く……。
ハンバーグを焼く音を耳にしながらドアの方向に目を向けたとき、気持ちがゆったりするのを感じました。テレビがかなりの音量でかかっているのですが、それも気にならないのが不思議。いつか来たことがある場所に戻ってきたかのような、そんな懐かしさがあるのです
ちなみに帆船模型とか、イカリとか舵とか浮き輪とか、店内の至るところに船に関するグッズが。もしかして海に関係することをされていた方なのかなと思ったりもしたのですが、あとで聞いたら「趣味です」という答え。なるほど、なるほど。
なお、このあと常連さんらしきお爺さんが入ってきて、2つ横の席に。その人もハンバーグを頼んでいたので、同じタイミングで出てきました。
肉厚のハンバーグステーキに、目玉焼き、サラダ。そしてお皿に盛られたライスと、豆腐とネギの味噌汁。これは、非常に正しい日本のハンバーグステーキですねえ。
さて、いただいてみましょう。ナイフとフォークが出てきましたが、どちらかというとお箸で食べたくなるハンバーグ。ナイフを入れてみると、じゅわっと肉汁があふれ出ます。
ひと口食べてみたら、ちょっと感動してしまいました。
なぜって子どものころ、親に連れて行かれた洋食屋さんで食べた、昭和のハンバーグそのものだったから。デミグラスソースの濃厚な味が、数十年前の記憶を蘇らせてくれたのです。つまり、何十年も変わらない、昔ながらの仕事。
あとからも、ぽつりぽつりと数人のお客さんが入ってきましたが、彼らもきっと、そんなおいしさを知って訪れているのでしょう。僕よりもかなり年上の人たちばかりでしたから、みなさんこの店の歴史をご存知なのかもしれません。
お会計のとき少しお話を聞いてみたところ、「昭和60年ぐらい」から続いているのだとか。昭和60年といえば1985年ですから、バブルの時代に開店したことになります。
でも、あの時代特有のチャラい空気感とは無縁で、むしろ誠実に続けてこられたんだろうなと思わせてくれるような雰囲気。
次回は、違うランチメニューにも挑戦してみたいと感じたのでした。
●プリモ
住所:東京都武蔵野市中町1-34-8
営業時間:10:00~22:00
定休日:不明