いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、高円寺のアジア料理店「バーミィー」です。

  • 「バーミィー」(高円寺)(写真:マイナビニュース)

    「バーミィー」(高円寺)

 想像を超える、レコードであふれた店内

「アジア料理店」と聞くと、ほとんどの方はイマドキっぽいおしゃれなお店を連想するのではないでしょうか? アジアも含めたエスニック料理には、どこか洗練されたイメージがありますしね。

でも、そんな既成概念を抱いたまま高円寺の「バーミィー」を訪れたとしたら、確実に驚かされることになるはずです。

  • 高円寺南口のガード下

なぜって、おしゃれ要素はゼロだから。しかもアジア料理店なのに、ロックを中心としたレコードが2万枚もあるから。

ぶっちゃけ、レコードの壁に挟まれて料理をいただくような感じです。しかも、お世辞にもきれいではありません。けれど、それがたまらなく心地よい。まさに中央線沿線、高円寺のツボと呼ぶべきディープ・スポットなんだな。

  • どうやって取り出すのか不思議な「レコードの山」

  • カセットテープもこのとおり

ところで実をいうと僕は、このお店のオーナーである横田勇さん、佐藤留美子さんとはかれこれ40年近いおつきあいになります。というところで、話は1970年代へ。

バーミィーの歴史を紐解く

「ロフト」といえば老舗ライブハウスとして有名ですが、70年代には、高円寺から2駅先の荻窪にも「荻窪ロフト」がありました。細野晴臣、坂本龍一、はちみつぱい、シュガー・ベイブ、RCサクセション、矢野顕子など、そうそうたるアーティストがステージに立った伝説の店です。

横田さんは同店のスタッフだったのですが、1980年に「荻窪ロフト」が閉店したときに店を買い取り、「HEAVEN」というロック・バー(というか、ロック居酒屋というか)をオープンしたのでした。

僕は「荻窪ロフト」へ行ったことはなかったのですが、「HEAVEN」にはかなり通い詰めていました。

で、あるとき横田さんから「今度、高円寺で店を開くから来てよ」と告げられ、足を運んでみたらそこに「バーミィー」が開店していたのです(厳密にいえば、その前に同じ高円寺でバーを出していた気もするのですが)。

それが1987年のことで、僕の知る限り、ここはその当時から時間が止まっています。トレンドなんかはいざ知らず、"我が道"を貫き通しているのだからすごい。

詳しいことは書けませんが、さまざまな著名人が出入りしている店でもあり、佐藤さんにお話を聞くと、「あの大物ミュージシャン」や「この伝説的アーティスト」のエピソードがサラッと出てきたりするのでビックリ。壁に貼られているスナップ写真をじっくりチェックしても、意外な人を発見できます。

  • 壁に貼られたスナップ写真には意外な人も?

なぜ、この店にそれほどまでの吸引力があるかといえば、まずはおふたりの人柄、横田さんのジャンルを超越した音楽知識、そして料理のおいしさということになります。

ロックを楽しみアジアを食べつくす

そう、ただロック好きがレコードをため込んだだけの店ではなく、タイ、ベトナム、ミャンマー、果ては中近東までに広がるアジア/ユーラシア料理を網羅しており、ひとつひとつがとてもおいしい。

端的にいえば、行ったことのない地域の料理さえ、「ああ、こういう感じなんだろうな」と感覚的に意識させてくれる味。素材本来の味を生かしながら、日本風にアレンジしたりせず、その地域の味をきちんと再現しているような印象があります。

  • どのメニューにも、素材の持ち味が活かされていま

個人的には、カリッと香ばしいサモサをかじりながら、軽い口当たりのビンタンビールを飲む時間が大好き。そんなふうにインドとインドネシアを味で行き来できるのも、この店ならではの魅力だといえます。

  • サラッと飲みやすいビンタンビール

  • サモサの香ばしさにビールが進む

選曲もしている横田さんが料理を手がけているので、出てくるまでに少し時間がかかることもありますが、それでも充分に許せてしまうレベル。

さっき、「HEAVEN」のことを"ロック居酒屋"と表現したのも、そんな理由があるからです。「HEAVEN」で出てきたのはアジア料理ではありませんでしたが、ひとつひとつのメニューがすごくおいしかったのです。

つまり「バーミィー」は、当時にまで遡る横田さんの料理スキルが活かされた店であるわけです。

以前、誰もが知る某有名おしゃれ雑誌の編集長をここに招待したことがありました。その雑誌の雰囲気、ましてやトップである編集長の都会的な印象とは正反対の場所に連れ込んでしまったわけですが、その結果、ちょっと素敵なことが起こりました。

お店をすっかり気に入ってしまった彼が、中学生時代にいかにローリング・ストーンズが好きだったかなど、自身の音楽に関する思いを熱く語り始めたのです。それって間違いなく、お店の持つ力が伝わったということですよね。つまり、それだけの説得力がここにはあるのです。

しかも、それでいて押しつけがましさはなく、おふたりとも、とってもフレンドリー。横田さんは少しシャイですが、打ち解けるととっても楽しい方だとわかるだろうと思います。

高円寺に行くことがあったら、ぜひ立ち寄ってみてください。南口を出てガード下を荻窪方面に進むとすぐ、左手のビルの2階に"Bamii"という文字が見えてくるのですぐわかるはず。

道沿いにも、「アジアの料理と酒」と書かれた看板が出ています。

  • レコードはリクエストも可能


●バーミィー
住所:東京都杉並区高円寺南3-58-18 山本ビル2F
営業時間:18:00~2:00/3:00(金・土)
定休日:基本的に無休

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。