いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、荻窪の欧風カレー&シチュー専門店「トマト」です。

  • 「トマト」(荻窪)

人気すぎて三度目の挑戦に……!

「荻窪の『トマト』に行ってみたいんです!」

定期的にランチミーティングをしているFくんから、強いリクエストがあったのは昨年の秋ごろ。

そこで、「じゃあ、行こうか」ということになったのですが、その日はまさかの定休日。自分たちのツメの甘さを悔やみつつ、数ヶ月後にまた行ってみたところ、今度は「昼の営業は終了いたしました」との看板が。開店30分以上前だったというのに、さすがは荻窪を代表するカレー専門店ですなぁ。

  • 昼の営業は早々に終了

学生時代に初めてお邪魔したときは、まだ行列ができるような店ではなかったのです。それは1982年の開店直後の話ですから当然ですが、そののち(まだ彼女だった)妻を連れて行った30数年前にも、やっぱり行列はできてなかったんだよなー。

つまりは長い時間の経過とともに、自然な形で知名度が高まっていったということなのでしょう。

  • 手書きロゴに1980年代初頭の香りが

とはいえ、その人気にはやはり驚かされるしかありません。事実、Fくんと「三度目の正直」に期待してチャレンジしたこの日も、予想外の展開にビックリさせられることになったのでした。

トマトは11時30分開店なのですが、待ち合わせたのは10時です。いや正直なところ、「開店の1時間半前から並ぶなんて、極端にもほどがあるよなー」とは思っていたのです。

ところが、10時5分前くらいに到着すると、すでに7人の列が。非常に寒い雨の日だったのに、こんなことになっているとは。

そして僕たちの後ろにもどんどん人の列ができていくのですが、11時を少し過ぎたころに奥様が小走りで出てきて、後ろの人たちになにか話している様子。

どうやら、最後尾の3人は昼の営業には間に合わなかったようです。静かに帰っていく後ろ姿を見ながら、なんとなく申し訳ない気持ちになったりもしました。

いずれにしても、この時点で昼の営業時間に入れる人たちが確定したわけです。たしか、全部で18人くらいだったと思います。店内はカウンター3席、4人用テーブルが2つ、2人用テーブルが2つだったはずなので、計算上は二巡すればおしまいということになります。

ただし、このお店は知らない人同士を無理やり相席させるようなことはしないのです。4人用テーブルに2人だけが案内されたりすることもあるため、誤差が生じるわけです。

事実、一巡目には入れず"次の回"のトップになった僕らが入れたのは、12時ちょうどくらい。結局は、2時間半待ち続けたことになります。がんばったぞ、自分。しかしそのかいあって、いちばん奥の4人席に座ることができました。

カレーを覆うチーズがのび~る!

早速、Fくんも僕も、ともに「和牛ビーフジャワカレー+チーズトッピング」を注文。

並んでいるときから、これに決めていたのですよ。ジャワカレーのおいしさもさることながら、初めての人を連れていく場合は、このチーズトッピングがひとつのトピックになるから。

それにしても、変わらないお店です。茶色いテーブルと椅子、ベージュの壁、手書きのメニューなど、きちんと手入れされたそれらひとつひとつが38年の歴史を感じさせてくれるのです。

  • 手書きの解説からも、誠実な姿勢が伝わります

そしてお客さんも、このお店の楽しみ方をちゃんと理解しているように見えます。当然ながら大声を出すような人もおらず、みんなが静かに「トマトの時間」を楽しんでいるという感じ。いってみれば、この空間で過ごすこと自体に価値があるわけです。

  • ズラリと並んだスパイスが、おいしさの決め手

さて、ほどなくして登場した「和牛ビーフジャワカレー+チーズトッピング」は、カレーを覆うチーズの存在感が圧倒的。予想どおり、Fくんもビックリしています。

  • 和牛ビーフカレー+チーズトッピング

しかも、このチーズの伸び具合がものすごいのですわ。伸びる一方でまったく切れてくれないので、ちょっと困ってしまうほど。いかにもカロリー高めですが、ジャワカレーの爽やかな辛さとのマッチングが絶妙です。

  • チーズの驚くべき伸び具合

カレーに関しては、以前は微かに感じられる苦味が好きだったのですが、今回はスッキリしていて苦味はなかったかなー。それはともかく、そろそろこの辛さにも馴染んできたので、次回は"大辛"か"極辛"にしてみよう。

  • ゴロッと大きなビーフも絶妙

柔らかく煮込まれたビーフも味わい豊かだし、つけ合わせの自家製福神漬け&ラッキョウもいいアクセントになっており、すべてにおいて落ち度のない「欧風カレー」だといえます。

  • 自家製の福神漬けとラッキョウ

個人的には、お店の前で待つようなことってすごく苦手なんですよ。でも、ここは接客も素晴らしいので、「待つのも楽しみだな」と感じさせてくれます。

もちろん2時間も並ぶのは楽ではありませんけれど、それだけの価値はあると思いますよ。


●トマト
住所:東京都杉並区荻窪5-20-7吉田ビル1F
営業時間:11:30~売り切れ次第終了 / 18:30~売り切れ次第終了
定休日:水曜・木曜(不定休あり)

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新)ほか著書多数。最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。6月8日、「書評執筆本数日本一」に認定。