いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、中野の喫茶店「カフェ・ジャム」をご紹介。
カオスで落ち着く、読書にも最適な空間
中野駅南口、以前ご紹介したことのある「六曜舎」がある「中野レンガ坂」を登り切り、突き当たりの商店街を左へ。そのまま進むとすぐ左側に、見落としてしまいそうになるほど目立たない小さな路地があります。
足を踏み入れにくくもあるそこを入ると右側に、「cafe JAM」と書かれたお店があることに気づくはず。
ここ、ずーっと気になっていたんですよ。見るからに昭和な感じだから、雰囲気のいい店に決まってる(断定)って。
だから中野に用があった先日、ついに伺ってみることにしたのでした。
店名の書かれた黄色い日除け看板の煤け具合からも、重ねられてきたのであろう時の長さを感じます。そのわりにアルミ製のドアは新しめなので、ちょっと不釣り合いでもあるかな。ともあれ、やっぱり最初はちょっと入りにくいかも。
しかも意を決してドアを開けてみると、目の前には思っていた以上にカオスな空間が広がっていたのでした。
中央にカウンターがあり、その右側が厨房スペース。
左側の壁には、家庭用の冷蔵庫などと一緒に低い本棚が。そこには「サライ」「太陽」「BRUTUS」などの雑誌がぎっしり並んでいたので、なんとなくマスターの好みがわかる気がします。
なお、その上部の壁にはハンガーがあるのですが、本来であればコートなどをかけておくためのそこに下がっているのは、紙袋(551 HORAIの豚まんのバッグもあったよ)や謎の瓢箪など。さらにその壁には寺山修司作品を中心としたポスターがズラリと貼ってあったりもして、いかにも昭和の時代から時間が止まっているような感じです。
「そちらへどうぞ」の声に導かれ、右側のソファー席へ。「たばこは吸われますか?」と聞かれたので吸いませんとお答えしましたが、つまりは喫煙OKのお店。
壁が茶色く煤けているのは、たばこの影響なのでしょうね。ただ、このとき喫煙者はいませんでしたし、たばこの匂いを感じたりもしませんでした。
ソファーに座って右側を見上げると、そちら側の壁の棚にも年季の入ったコーヒーの缶や古い文献や雑誌が。
「世界ジャズ人名辞典」「史上最強のジャズ・レーベル ブルーノートのすべて」などジャズ関係のムックなどがあるところをみると、ジャズがお好きなのでしょうか?
たしかにジャズが似合いそうな雰囲気ではありますね。店内に流れていたのはラジオ(たぶんNHK第1)でしたけど。
なお看板に「自家焙煎珈琲」と書かれているあたり、コーヒーに関しては専門店としてのこだわりがありそう。ですから本来なら熱いブレンドコーヒーを頼みたかったのですが、外の暑さに耐えきれずアイスコーヒーを頼むことにしたのでした。
マスターが準備している間、ふたたび店内を見渡します。店内が雑然としていてカウンターの奥が見えず気づかなかったのですが、よく見ればカウンターにお客さんがひとりいらっしゃいます。そうか、だからソファー席をすすめられたのか。
その方はおそらく常連さんだと思われますが、かといってマスターと会話をするわけでもなく、店内はとても静か。たしかに、常連さんとマスターがワイワイやるような雰囲気ではありませんね。
でも、そこがいい。モノであふれた空間なので好みが分かれるかもしれませんが、個人的にはとても落ち着けたなー。
これは、読書をするには最適な環境だ。ってなわけで読みかけの新書に集中していたら、やがてマスターがアイスコーヒーを持ってきてくださいました。
見た目にはさしたる特徴もないし、量もやや少なめ。でも、いただいてみたら、「やはり専門店だな」と実感できました。高校時代にアルバイトしていたコーヒー専門店でアイスコーヒーをつくっていた経験が僕にはあるので、氷が溶けることを想定して濃いめに出していることがわかり、非常に納得できたのです。
などと書くと偉そうですけれど、つまりはコーヒー専門店としてすべきことを守り通しているということ。だからこそ、お店を続けてこられたのではないか? そんなことを感じさせてくれたのです。
いずれにしても、「いつかお邪魔してみたい」という長年の思いをやっと達成できたぞ。何度か通ってみて、いずれカウンター席にも座ってみたいものだ。そのときには、マスターと無理なく会話できるかな?
●カフェ・ジャム
住所: 東京都中野区中野3-35-5
営業時間: 10:30~19:00
定休日: 無休