いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、吉祥寺のダイニングバー「MUKU」をご紹介。

  • 46年前から吉祥寺で ダイニングバー「MUKU」(吉祥寺)

外観も店内に見るからに昭和レトロのまま

井の頭通りと吉祥寺通りが交差する「吉祥寺駅前」交差点の、「すき家」の一本裏手。駅からめちゃめちゃ近いのに、ちょっと目立たちにくくもある。しかも、華やかなお店が多い吉祥寺にしては地味な存在かもしれない。しかしそれでも、いや、だからこそ魅力的。

そう感じずにはいられないのが、今回ご紹介するダイニングバー「MUKU」です。

  • 静かな路地裏

見るからにレトロな外観ですが、それもそのはず。なにせ初めてお邪魔したとき、僕はまだ学生でしたからねえ。つまり、それだけの歳月を乗り越えてきているお店なのです。競争の激しい吉祥寺(しかも駅前)だというのに、これはすごいことだぞ。

でも、店内に足を踏み入れてみれば、その理由ははっきりとわかるはず。あとからお聞きしたところ今年で46年目ということなので、開店は1976年ということになりますが、見るからに当時のままなのです。

  • 昔から変わらない店内

茶色を基調とした店内には、年季の入ったテーブルと椅子がズラリ。いちばん奥の厨房をカウンター席が囲み、奥にも半個室っぽい雰囲気のテーブル席が。入口のレジの後ろにはアナログレコードが並んでいて、よく見ればカセットテープが積まれていたりもします。

  • アナログレコードやカセットテープが

レコードをササッとチェックしたら、ラリー・グラハムとかマイケル・ワイコフ、アース・ウィンド&ファイア、シャーデー、10cc、ZZ TOP、サンタナなどが。それらを確認しただけでも、ブラック・ミュージックをベースにオール・ジャンルを網羅するマスターのセンスのよさが伝わってきます。

ちなみにオープン時刻を狙ってお邪魔したこの日は、テレビのニュースがかかっており、同時にスピーカーからはデヴィッド・サンボーンなどのフュージョンが流れているというプチカオスな状態でした。

  • とてもいい雰囲気

でも、それが落ち着くんだわ。「昭和の吉祥寺って、こういう個人経営のレストランや喫茶店がたくさんあったよなー。っていうか、あのころと全然変わってないじゃん」と、当時を思い出さずにはいられない抜群の雰囲気なので。

なおダイニングバーというだけあって夜も営業しているようですが、僕は昼間にしか伺ったことがありません。でも、昼間もなかなか侮れないんですよ。なぜって、ランチメニューの充実度がものすごいから。なにしろハンバーグやカレーライス、肉野菜炒めまで、ランチメニューだけで27種類もあるんですぜ。

  • メニューが充実

しかも、それら以外に「日替ランチ」まで用意されているのですから驚き。ってなわけで、ここは日替わりの「ソーセージステーキとスクランブルエッグ ライス スープ ドリンク付」でいくことにしましょう。ソーセージステーキとか、なかなか渋くて引かれるものがありますからね。

とても感じのいいお店の女性がオーダーを伝えると、ほどなく厨房からは調理の音が。ニュース番組のアナウンサーの声、そしてBGMとがいいバランスで絡み合い、店内に心地よいリズム感が醸成されていきます。

  • アイスティー

やがて、まずはドリンクにお願いしたアイスティーが運ばれてきて、その少しあとにランチのプレートとライス、味噌汁が登場。細かい話で恐縮なんですが、コンソメスープとかではなく、豆腐とわかめの味噌汁が出てきたことが妙にうれしかったです。日本の洋食って、やっぱりこうじゃなくちゃね。

  • 日替ランチ

しかもその味噌汁、だしがしっかり効いていてとてもおいしい。心が温まるわー。

  • ボリュームたっぷり

メインのプレートには、厚切りのソーセージステーキが3枚とトロトロのスクランブルエッグ。真っ赤なトマトケチャップがかかっています。さらにその後ろには、野菜サラダとポテトサラダ。いかにも食欲をそそられちゃいますねえ。

ソーセージステーキにしてもスクランブルエッグにしても、とくに華やかなわけでもない、普通のメニューじゃないですか。けれど、いい意味で普通だからこそいいのです。こうじゃなくちゃいけない、といいたいくらいに。

  • スクランブルエッグはトロトロ

そして当然のことながら、食べてみればていねいな仕事に感心させられます。ソーセージの焼き具合やスクランブルエッグの熱の通り方、サラダなどへの配慮など、随所から仕事への誠実な姿勢が感じられるのです。

印象的だったのは、ひとりで幸せ気分に浸りながら食べている間にも、ぽつりぽつりとお客さんが入ってきたこと。単独客から老齢のカップル、サラリーマンの2人組などさまざまですが、みんな、このお店の魅力を理解しているように見えました。そりゃーそうだよね。雰囲気、接客、メニューの豊富さ、味と、すべてが揃っているのだから。

「これは46年も続いて当然だな」

そんなことを思いつつ、厨房から聞こえるマスターの「ありがとうございました」という声に軽く会釈をして店を出たのでした。

●ダイニングバー MUKU
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-11-3 三全ビル1F
営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:30)、18:00〜24:00(L.O.23:30)
定休日:日曜日