いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、武蔵境の喫茶店「かふぇ 芙蓉」をご紹介。
-
武蔵境で50年続く喫茶店「かふぇ 芙蓉」(武蔵境)
“いい店”って、こういうお店のことかも
武蔵境駅北口正面の「すきっぷ通り」を直進し、数分でぶつかる「アジア大学通り」を左折。すると数軒先の左側に、ほどよくレトロな雰囲気の喫茶店が現れます。そこが、今回ご紹介する「カフェ 芙蓉」。
-
木製看板も味わい深い
実は、三鷹に住んでいるころからずっと気になっていたのですが、結局は伺う機会が訪れないまま引っ越してしまったんですよねー。そののち足を運んだこともあったのですけれど、コロナ禍の影響で臨時休業だったりして。
そんなわけで、なかなか縁がないなぁと思っていたのですけれど、ある平日に改めてチャレンジしてみたところ、今度はしっかり営業中でした。やっと願いが叶ったという感じです(おおげさだね)。
-
街に溶け込んだ外観
決して派手さはないのだけれど、「かふぇ 芙蓉」と筆文字で書かれた木製の看板、道路に面したガラス窓など、ひとつひとつのエレメントがほどよく調和しています。この日はまだ花が咲いていなかったけれど、入り口右側にこんもりと盛り上がる緑はアジサイかな?
-
手書きの看板もやさしい感じ
入って右側がカウンターになっており、常連さんらしき方がひとり。マスターは、向かいの厨房スペースにいらっしゃいました。
-
ほどよい広さの店内
左側部分には段差があり、その先には数卓のテーブル席が並んでいます。広すぎず、狭すぎもせずといったちょうどいい感じ。ひとりでゆっくりくつろぐには適していて、静かな音量で流れるクラシックも心地よく感じます。
-
外光が入ってきて快適
他にお客さんがいなかったこともあり、左側の窓際席へ。外光がたっぷり入ってきますが、シェードでほどよく目隠しされているので人通りを気にする必要もありませんね。
-
バリエーション豊かなメニュー
雰囲気はコーヒー専門店っぽくもあるのですけれど、メニューを見てみると料理も充実しています。トーストやサンドウィッチはもちろん、パスタ、カレー、ハンバーグなどなんでもアリ。「SWEETS」と書かれたところに目をやると、ホットケーキの下に「田舎しるこ」があったりするのも渋いぜ。
ちょうどお昼前だったので、食事をすることにしました。しかし、これだけバリエーションが豊富だと迷ってしまうな。初めてだし、オーソドックスにピラフかカレーにでもするか? いや待て! よく見れば、「きのこ雑炊」とか「あつあつおでんとおにぎり」なんて予想外のものまであるぞ。どうしたらいいんだ?
と、なんだかよくわからなくなってしまい、最終的には「無難なところで」と「ポークジンジャー ライス付き」に決定。なにが無難なのかよくわかりませんが、そこはまあご愛嬌(どうとでもいえるよね)。ドリンクは(こちらも勢いで)アイスコーヒーをチョイスしました。
常連さんとマスターは古い友人のようで、地元の共通の知り合いの話などをしている様子。かと思えば、「俺、このあとすることないんだよ……」という常連さんの声も聞こえてきたりしもします。なるほど、ここはリタイアした世代の憩いの場でもあるのかもしれないな。
何十年も忙しく働いてきて、いまはゆったりとした時間を過ごしていらっしゃるわけで、いずれ僕もそうなりたいものだなぁ。
-
ポークジンジャー ライス付き
などと考えている間にも、常連さんのことばの向こう側では調理をする音が。そしてしばらくすると、おいしそうなポークジンジャーが運ばれてきました。たっぷり生姜の絡んだ豚肉は大ぶりで、ドレッシングとマヨネーズがかかったサラダも食欲をそそります。
-
たっぷりの生姜が絡んだ豚肉
際立った特徴があるわけではなく、むしろ、昔よくあった個人経営のレストランで出てきたような正統派のポークジンジャー、いや、豚肉の生姜焼きといった印象。でも、それがいい。味つけも絶妙で、調理に慣れていることがはっきりわかります。
-
食後にはアイスコーヒーを
ずっと続いている店だから間違いはないだろうと思っていたのですけれど、これは予想以上かも。 “いい店”って、こういうお店のことをいうんでしょうね。
帰り際、前から気になっていたことを伝えたうえで、「ここは、いつからあるんですか?」とお聞きしてみました。すると、「50年になります」との返事が。それを聞いた常連さんも「50年なの?」と驚いた様子でしたが、地元に密着したこのクオリティなら、それだけ続いても不思議はないですね。
●かふぇ 芙蓉
住所：東京都武蔵野市境2-2-15
営業時間：10:30～19:00(5月11日時点)
定休日：月曜
