禁煙宣言書にサイン

たばこの有害性や依存性について理解を深めたところで、突如「禁煙宣言書」なる紙が登場する。読んで字の如く、禁煙の宣言を証明する書類である。ここに署名をして、改めて禁煙への決意を固めるのだ。

もちろんこれも取材用に用意されたものではなく、一般の患者にも同じように署名を求めているという。「書類ってやっぱり怖いですもんね」と目が泳ぎながらもペンをとったもぐら氏は「これにサインすることでお金が発生したりはしないですか? 禁煙に失敗してもお金取られない?」と動揺しつつ、村松院長に見守られながら正式に禁煙を宣言。これでもう後戻りはできなくなった。

  • 禁煙宣言書には「私はニコチン依存症であることを認識し、喫煙の害ならびに禁煙の効果を十分に理解した上で、禁煙することを宣言します」という文言が記されている

とはいえ、「この紙にサインしたので今日から1本も吸わない」ということではなく、禁煙治療はたばこを吸いながら行ってもかまわないと村松院長は話す。

基本的に禁煙外来は、約3カ月かけて計5回の通院が必要となる。その間に、ニコチンなしでも身体がバランスを取れる状態へと戻していくのだ。

  • 禁煙治療のスケジュール

次に行われるのは、「ニコチン依存症スクリーニングテスト」。「自分はたばこに依存していると感じることがありましたか」「たばこが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか」といった10個の質問に、「はい/いいえ」で答えていく。

  • 5点以上の場合はたばこ依存症である可能性が高いという「ニコチン依存症スクリーニングテスト」(出典:厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 策定「禁煙支援マニュアル」)

もぐら氏は9つに「はい」と回答。「はい」の数が多いようにも感じるが、ヘビースモーカーとしてはめずらしくない点数だという。

その後は、吐く息の中に含まれる一酸化炭素の濃度を測定する。一酸化炭素は、たばこの煙に含まれる有害物質のひとつである。初めに村松院長が測定してみると、測定器に表示された数値は「0 ppm」。測定値の目安は以下のとおりとなっている。

ノンスモーカー:0~7 ppm
ライトスモーカー:8~14 ppm
ミドルスモーカー:15~24 ppm
ヘビースモーカー:25~34 ppm
超ヘビースモーカー:35 ppm以上

続いてもぐら氏の測定へ。「まあ最近まで禁煙してましたからね」と強気な発言をしてみせた同氏の結果は、「7 ppm」でギリギリ「ノンスモーカー」の範囲内に。当日の喫煙本数が少なかったためか思いのほか低い数値とはなったが、あくまでも目指すべきは村松院長と同じ「0 ppm」だ。

  • 大きく息を吸って10秒間止めたあと、測定器のマウスピースからゆっくり息を吹き込む

禁煙補助薬を処方

ひと通りデータが揃ったところで、禁煙補助薬を処方する段階へ移る。前述のとおり、我慢だけの禁煙は成功しない。

例えば、今まで1日に40本吸っていたたばこを急に1日10本に減らしてしまうと、ニコチンの血中濃度が下がった状態で喫煙することになるため、余計にたばこがおいしく感じることもあるのだ。空腹状態で食事をしたらおいしく感じるのと同じ構造である。

そのようなことを引き起こさないためにも、禁煙補助薬を正しく使い、できるだけ無理のない形で治療を進めていくのが望ましい。パイポの一本槍でゴリ押してきたというもぐら氏も、それなら続けられそうだと胸をなでおろす。

禁煙補助薬は大きくわけて2種類が存在する。「ニコチンパッチ」と呼ばれるシール状のものと、ニコチンの類似物質を含んだ「飲み薬」だ。

ニコチンパッチは、肌に貼っておくことで皮膚から微量のニコチンを吸収できる仕組みになっており、たばこを吸いたいというイライラを感じなくなるとのこと。一方、飲み薬には、たばこをおいしくないと感じさせる作用があるという。ニコチンと同じような刺激を脳に与えるが、この飲み薬に依存してしまうということはないらしい。

村松院長と相談し、もぐら氏は飲み薬をチョイス。次回の診療は2週間後の予定だが、村松院長は「飲み薬の服用と並行してたばこは吸い続けてもかまわない」と話す。

  • 禁煙補助薬を使いながら無理なく治療を進めましょうと優しく提案する村松院長

最後に、気になるお金の話で村松院長はとどめを刺しにかかる。

禁煙外来にかかる費用が高いと思っている人も多いかもしれないが、3割負担で考えれば1日あたりの負担は約230円。たばこ半箱分にも満たない金額だ。

  • 禁煙外来の費用は1日約230円

そして、たばこ1箱を500円だとした場合、1日1箱吸うとすると、1年間でその金額は約18万円にものぼる。20歳から70歳まで50年間吸い続ければ、単純計算で900万円以上をたばこに支払っていることになる。途中で値上げがあれば1,000万円を超えてくるだろう。多いときは1日3箱以上吸っていたというもぐら氏は、その金額の大きさに目を丸くした。

  • たばこにかかるお金を計算したことがある喫煙者も多いはず

村松院長は立て続けに、1,000万円の札束の画像を目の前のモニターに表示。もぐら氏の手がおもむろにモニターへと伸びる。

  • もぐら氏は「札束は写真で見るだけでも最高ですねぇ。お金を貯めるならM-1で優勝するよりたばこやめたほうが早いじゃないですか! 」と、衝撃の事実に気付いてしまったようだ

やめられる自信はさておき、今回の診療を通して、もぐら氏の「たばこをやめたい」と思う気持ちはより確実なものになったはずだ。

「愛している彼女・たば子ちゃんがいて、好きなのに別れちゃったらまた会いたくなりますよね」
「はい、どんな手を使ってでも」
「ですから最終的には嫌いになることが重要なんです。無理にやめると未練も残りますから」

最終的には恋愛相談のようなやり取りにまで発展した初回の診療。帰り際、もぐら氏はクリニック内のベンチに腰を掛け、「まだ好きな女ですからね……」とつぶやきながらポケットから取り出したたばこを見つめていた。果たして禁煙は成功するのだろうか。残り3回の連載を終えたとき、禁煙が続いていることを祈る。

  • 思わず励ましの声をかけたくなるほど物憂げな表情でたばこを見つめるもぐら氏。今回こそ禁煙を成功できるのだろうか。(写真:マイナビニュース)

    思わず励ましの声をかけたくなるほど物憂げな表情を浮かべるもぐら氏は、今回こそ禁煙を成功できるのか。乞うご期待