「スポーツカー」と名の付くクルマで、軽量であることを自慢しないモデルはない。車重が軽ければ同じエンジンパワーでも加速が鋭くなり、ブレーキやタイヤへの負担は少なくなる。相対的にグリップが増すからコーナリングも良くなるし、燃費が向上するというおまけまで付く。「軽量」であることはスポーツカーの必須条件なのだ。

スポーツカーは軽量であることが必須条件とされているが…(写真はイメージ)

しかし、「軽量」をうたうスポーツカーも、実際はそこまで軽くないこともある。前回のコラムで取り上げたレクサスLFAは、CFRPという「超」の付くぜいたくな素材でボディを作りながらも、その車重は1,480kg。軽量で知られるポルシェ911にしても1,400kg前後あるし、GT-Rは1,700kg前後ある。

それに対して、ロータス エリーゼは車重690kgという衝撃の数値で登場し、たちまち大人気モデルとなった。世のスポーツカーと比べて、エリーゼはなぜそれほどまでに軽いのか?

やや乱暴な極論を承知で言えば、"足し算"で作るか"引き算"で作るか、という違いがある。従来のスポーツカーはパワー至上主義なので、まずエンジンパワーを大きくする。するとエンジンそのものも重くなるが、そのパワーを受け止めるボディはもっと重くなる。サスペンションやブレーキもそれに応じて強化するから、また重くなる。あまり重いと増強したエンジンパワーが帳消しにされてしまうので、それを補うためにさらにエンジンをパワーアップする。するとボディをさらに強化する必要が生じ、ブレーキもますます巨大化し……、"足し算"でクルマを作ると、連鎖反応的にどんどん車重が増えてしまう。

一方、エリーゼは"引き算"で作られたクルマだ。既存のクルマから、「あれも要らない、これも要らない」と余計なものをなくし、全体を軽量化した。軽量だから搭載するエンジンも軽量なものでよく、サスペンションやブレーキも負担が少ないので、小さく軽いもので十分。だからもっと軽くできる。多くのクルマとは逆に、「あれを軽くするからこれも軽くなる」といった軽量化の連鎖反応が起きるのだ。

軽量であることで、走行性能にとどまらないメリットももたらす。エリーゼの場合、そのエクステリア、存在感、走行性能において、「スーパーカー」といって差し支えないものでありながら、車両価格は非常に安く、タイヤなどの消耗パーツも常識的な価格。排気量が1.6~2.0リットルなので、自動車税はファミリーカー程度で、重量税に至ってはほとんどのファミリーカーより安い(エコカー減税を考慮すると話は別だが)。

エリーゼは一般的な給与所得者でも購入、維持できる唯一のスーパーカーといってもいいかもしれない。定員2名という制約を別にすれば、トランクもそれなりに確保されており、燃費も良好なのでファーストカーとしても使える。実際、エリーゼで毎日通勤している人もいる。それもこれもエリーゼが軽量だからこそ。ガソリンをがぶ飲みしたり、タイヤ交換に50万円もかかったりするようなスポーツカーでは、こうはいかない。

ただし、690kgでデビューしたエリーゼも、現行モデルの車重は900kgに達している。当初は装備されなかったエアコンやパワーウインドウが装備され、エンジンパワーも増強、それに応じてタイヤやブレーキも巨大化していった。新車開発時こそ"引き算"で作られたエリーゼだが、その後のモデルチェンジはやはり"足し算"的発想に陥っているのだ。

どんな名車も売れなければ存続できず、売るためにはハイパワー化や装備の充実は必須。しかし、軽いから売れたモデルを重くすることは、自己否定と見られかねないこともまた事実だ。願わくば、ロータスがその微妙なさじ加減をうまくコントロールしながら、今後もエリーゼをライトウェイトスポーツカーとして存続させていくことを望みたい。