おじさんは孤独だ。
自分が中年になって、あらためてそう思う。20代はほとんど学生時代の延長だったのが、30代あたりからそれぞれ仕事が忙しくなったり結婚したり子供ができて、深夜に誰かのワンルームマンションに集まって『ウイイレ』しながらカップ焼そば……みたいなノリが難しくなる。
いわば、青春が終わり、人生が始まるわけだ。で、「ひとりの時間」が多くなる。そう言えば、映画館も若い頃は男友達同士やちょっと仲良くなりたいおネエちゃんとよく出かけていたのが、最近はひとりで劇場へ行くことが増えた。平日の夜、仕事終わり。会社もスマホも忘れて、暗闇の中でコーラ片手にスクリーンを眺める。これが案外気持ちいい。しかもチケット料金は1,000円代だ。本連載はそんなおっさんソロシネマライフにオススメの映画をお届けしていこうと思う。
基本的に取り上げる作品は試写招待ではなく、日本公開中の映画を選んで自腹で観に行くつもりだ。だって、ラーメンも上司に奢ってもらうのと、ネットで下調べして自分のサイフからお金を出して行くのでは気合いが違うからね。人は自腹を切るとシビアに真剣にモノを見る。
というわけで、記念すべき連載1回目はヒューマントラスト渋谷の「未体験ゾーンの映画たち2020」で上映されていた『ザ・ビースト』だ。
主演の“猛獣ハンター”フランク役には、俺らのニコラス・ケイジ。ブラジルのジャングルで幻のホワイトジャガーを捕獲したフランクは、自ら捕獲した自慢の動物たちと貨物船でプエルトリコに向けて出航するが、その船内には移送中の殺人鬼ラフラー(ケビン・デュランド)が乗っていたのだ。手際よく捜査官を始末して姿を消すラフラー、さらに危険な猛獣や毒蛇たちも人間たちに牙を剥く。いったい海上の逃げ場がない密室の船内で誰が生き残るのか……ってハイもうこの時点で間違いない。
まだNetflixもAmazonプライムもないあの頃、バイトから帰って深夜テレビで眺めた大雑把なアクション映画を彷彿とさせる男汁したたるプロット。しかも上映時間97分というのもポイントは高い。あらゆる面でストレスフリーだ。
だって、仕事終わりにさ、やたらと長い超大作とか暗いアート系作品はちょっと重いよ。まず気楽にスカッと楽しみたい。かと言って、予定調和と思いきや、主要登場人物がどんどんおっ死んでいくのでまったく油断ができやしない。
ニコラス・ケイジは、今も昔もアクションスターにしては筋肉も髪の毛も薄く見た目が弱いが、その弱さが映画にある種の緊張感をもたらしているのも事実だ。今作でも武器はマシンガンではなく、狩りで使う毒矢というチョイスも絶妙。粗暴だけど結局いい奴的な役がハマるこの男はやっぱり信用できる。だって96年に『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を獲った直後の出演作品が『ザ・ロック』『コン・エアー』『フェイス/オフ』だよ。さらに25年近く経って56歳でいまだに『ザ・ビースト』をやっている。ちなみに本作ヒロインの女医エレン役のファムケ・ヤンセンは55歳だ。
俺らもまだまだ青い。「青春は青だよ、青いということはまだまだ伸びる要素があるということだ」なんつって唐突に春季キャンプの原辰徳コメントを思い出す一本である。
お前さん、この映画を見なくていいのか?
【ソロシネマイレージ 78点】
※ソロシネマイレージとは、おじさんひとり映画オススメ度の判定ポイント。なおこの点数が高いほどデートムービーには向かない。
■『ザ・ビースト』青山シアター(オンライン上映):2/28~3/12、シネ・リーブル梅田:4月1日~
フランク(ニコラス・ケイジ)は、凄腕の猛獣ハンター。ブラジルのジャングルで稀少な“ホワイト・ジャガー”の捕獲に成功したフランクは、貨物船ミマー号でプエルトリコに向け出港する。ミマー号船倉の独房には、アメリカ情報部が逮捕したテロリストのラフラー(ケビン・デュランド)も収監されていた。ラフラーは元米特殊部隊の暗殺者で、究極の戦闘スキルを持つ異常殺人鬼だ。ミマー号がカリブ海を航行中、ラフラーが監視員を殺害して逃亡。ホワイト・ジャガーやアナコンダの檻も破壊され、船内は恐怖の猟場と化した。護送部隊の兵士たちは次々とラフラーに倒され、あるいはジャガーに襲われて殺されてゆく。神出鬼没の殺し屋と、獰猛な野獣に支配されたミマー号。フランクは2匹の“獣”を倒すため、女医のエレン(ファムケ・ヤンセン)と共に危険な戦いを挑む
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