今日のそばは、四ツ谷から「四谷 政吉」を紹介しよう。JR「四ツ谷」駅前、新宿通りと外堀通りが交わる角のひとつ裏通りは「しんみち通り」と呼ばれ、多種多様な飲食店の立ち並ぶストリートになっている。四ツ谷で働くサラリーマンはもちろん、上智大学が近いので学生の食卓にもなっており、時を選ばずにぎわっている印象だ。

  • 「四谷 政吉」の「あなご天そば」(税込550円)

    「四谷 政吉」の「あなご天そば」(税込550円)

見るだけでもおいしいメニューがいろいろ

「四谷 政吉」は、このしんみち通りのちょうど中心にある。駅からは歩いて3分ほど。玄関にはテラス席。丸いテーブルを囲んで、イスが何脚か並べられている。訪れたのは平日の12時半頃、ちょうどランチタイムとあってか、こちらの席は既に埋まっていた。

奥に進み、店内に入ると右手に券売機が。正面は厨房カウンター(右が受け渡し口、左が返却口)で、それ以外の面が立ち食いのカウンターになっている。こちらも9割方埋まっており、人気の高さがうかがえる。

メニューは豊富、かつ、オリジナリティがある。そばは「かけ」「ぶっかけ」「冷つけ」「温つけ」から選ぶ。「つけ」はつけそばのことで、「冷つけ」はいわゆるもりそばだ。メニューの一部を紹介すると、「鴨南蛮そば」「冷し山とろろそば」「レンコン天そば」「ピリ辛肉味噌そば」などなど。字面だけでおなかが空いてくる。この日、注文することにしたのは「温つけ」の「あなご天そば」(税込550円)。あなご天とは珍しい。天ぷらのエース、海老天と並ぶ華やかさがあるタネだ。

厨房に渡してしばし待つ。後ろに並んだ客が次々にそばを受け取っているところを見ると、「温つけそば」ないしは「あなご天」は時間がかかるらしい。と言っても、3~4分のことなのだけれども。受け取る頃にはちょうどカウンターの場所が空いた。

あなご天を侮るなかれ!

一見するとイカ天のようで少し地味。それにもりそばなわけだから「まあ、こんなものか」と思うのは最初だけ。あなご天は待っただけあってサクサクがものすごく、ほっくり甘い。あなごって、お寿司の時に煮穴子でいただく以外はそれほど食べる機会もないと思うが、こんなに甘い魚だったのかとしみじみと感じた。揚げ具合も絶妙なのか、まるで専門店の味だ。

そばも絶品。キリッとした香りと歯ざわりの良さは、食通が多そうな四ツ谷のおじさんたちを満足させるに十分。あくまで私見だが、あなご天はサクサクと甘みを味わうため、つけ汁を使わずに食べるのがいいと思う。ちなみに、わかめとネギはセルフ。

  • 「四谷 政吉」へはJR「四ツ谷」駅から徒歩3分

    「四谷 政吉」へはJR「四ツ谷」駅から徒歩3分

このそば屋も例に漏れず、昼過ぎからは酒とつまみを出す飲み屋になる。天ぷら各種やそばの実を使った料理、そば焼酎のボトルは1カ月だがキープもできるとか。なんとも四ツ谷が恋しくなる店だ。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に銭湯を紹介する同人誌『東京銭湯』『三重銭湯』『尼崎銭湯』などをこれまでに制作。