家庭、友人関係、仕事、趣味など…生活における読者の「お悩み」に寄り添う、さらには解決してくれるかもしれないドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー、リアリティショーなど、配信サービスの映像コンテンツを、コラムニストの長谷川朋子が“処方箋”としておすすめする「長谷川朋子のエンタメ処方箋」。
第3回は、大人の恋愛のお悩みにリアリティ番組『あいの里』(Netflix)を紹介します。
「複数の女性から「好き」と言われ、正直、少し困っている」(神奈川県在住・58歳男性)
なんとも羨ましい話ですが、同時に、少し危うい香りもします。モテ期というのは、実のところ“幸福の絶頂”ではなく、“人生の棚卸し期間”なのです。若い頃なら「誰を選ぶか」で悩めばよかったかもしれません。でも、中年になった今は、「誰となら素の自分でいられるか」「何を大切にして生きたいか」を問われる。恋の数より、これからの生き方の質が試される時期です。
そんな時こそ、Netflixの恋愛リアリティ番組『あいの里』をおすすめします。
“恋愛を口実にした人生ドラマ”
『あいの里』は、かつての人気番組『あいのり』をリブートした番組です。けれど、これは単なる懐かしの復活ものではありません。参加者は35歳から60歳。舞台は“ラブヴィレッジ”と呼ばれる古民家で、男女が自給自足の暮らしを共にしながら、人生最後の恋を探します。そこには、キラキラした恋の駆け引きではなく、酸いも甘いも知る大人たちの、少し照れくさくて、時に切ない本音のぶつかり合いがあります。
「恋愛リアリティ番組」と聞いて、少し身構える人もいるかもしれません。でも『あいの里』が描いているのは、“恋愛を口実にした人生ドラマ”です。恋をすることはもちろん、傷ついたり、立ち直ったり、誰かの優しさに救われたり──。そのプロセスが丁寧に描かれていて、むしろドキュメンタリーに近い。だから恋愛番組が苦手でも、気づけば自分の人生を重ねてしまうのです。
離婚、介護、子どもの独立、孤独、そして再出発。参加者たちは自分の過去をさらけ出して語ります。眠れぬ夜の睡眠薬の数をめぐって51歳と60歳の男性が言い合うシーンなど、中年ならではの“あるある”を笑いに変える余裕も。若者中心の恋リアのようなゲーム性や駆け引きはなく、静かに進む会話の中に、年齢を重ねた人だけが持つ味わい深さがあります。
なかでも印象的なのが、シーズン1で登場する60歳の男性、“中さん”。明るく、人懐っこく、どこか少年のような純粋さを持ちながら、恋に向き合う姿が番組の象徴です。ネタバレになるので詳細は控えますが、彼が「ピンクの鐘」を鳴らす瞬間は、恋というより“生き方の覚悟”を感じさせる名場面として記憶に残り続けるはず。誰かを好きになる勇気を、人生の後半でもこんなに美しく見せてくれる人がいると、そう思わせてくれる存在です。
「自分の中の素直さ」を取り戻したような静かな余韻
『あいの里』は、複数の恋の選択肢に迷う人ほど、刺さる作品です。参加者たちは“好かれる”ことより、“愛する”ことを選びます。たとえ自分を想ってくれる相手が複数いても、その中で「自分が誰と生きたいのか」を真剣に見つめる。恋を“数”ではなく“深さ”で考える姿勢が、各シーズンを貫いているのです。
恋愛は、とかく「相手からどう見られるか」に傾きがちですが、『あいの里』を観ていると、愛されることより、愛することのほうがずっと難しく、そして豊かだと気づかされます。モテることに慣れた人ほど、ふと孤独を感じる瞬間もあるのかもしれません。
そんな時、ラブヴィレッジに集った大人たちが気づかせてくれるのは、「選ばれる喜び」ではなく、「選ぶ勇気」のほうです。実際、彼らの会話は驚くほど現実的です。「もし子どもを望んでもできなかったら?」「介護の時、支え合えると思う?」など、恋の理想論ではなく、生活の現実を見据えた会話が自然に出てきます。恋をロマンチックに語るより、現実の課題を一緒に考えられる関係こそ、本当の“相性”なのだと思います。
そして不思議なことに、この“リアルさ”がとても温かいのです。見終わった後に残るのは、誰かを選ばなければいけないプレッシャーではなく、「自分の中の素直さ」を取り戻したような静かな余韻です。番組内で誰かが誰かを諦める瞬間でさえ、その姿に不思議な安らぎを覚えます。年齢を重ねたからこそ、別れにも優しさがあります。
だから、今、複数の女性から想いを寄せられているあなたにこそ、この番組を。恋を“減らす”のではなく、恋の“意味”を増やしてくれるはずです。『あいの里』を観ながら、自分の心に一番響く“あいの鐘”の音色を探してみてください。その時、誰の名前を思い浮かべるのか──それが、あなたの答えです。


