羽生先生がくれたもの

今回のインタビューではシンプルな質問コーナーのあとに1年のタイトル戦の振り返りをしていただきました。 夢の対決となった羽生善治九段との第72期王将戦のお話です。

私の質問はこうです。

――大先輩との番勝負で将棋の内容以外のところで学ぶこともありましたか?

これに対する藤井先生の答えは心に残るものでした。

藤井「そうですね。対局が終わった後すぐに羽生先生が気持ちを切り替えられていたのが印象的でした。インタビューの時にはもう切り替えが終わっているようでした。あと、第1局の終局後のインタビューで持ち時間が8時間あっても足りないということをおっしゃられていて、やっぱり、そういう気持ちで考えないといけないんだなというところも勉強になりました」

このとき、話されている藤井先生の表情がとても穏やかだったことを覚えています。

藤井先生の答えは大きく分けて2つです。
1、気持ちの切り替えの速さ
2、時間いっぱいまで考える姿勢

でもこれ、考えてみると、両方とも藤井先生にも当てはまることなんですよね。 藤井先生も負けた後、次の対局までには気持ちを切り替えられてますし(だから連敗しない)、時間があればあるだけ考えるというのは藤井先生の真骨頂で、師匠の杉本先生も賞賛するところです。

だからなんとなくですけど、藤井先生は羽生先生との番勝負を通じて「自分はこのまま進んでいいんだ」という気持ちになれたんじゃないかなと思うのです。

自分が心がけていること、自分が考えていることを偉大な先輩が先にやっている。 羽生先生は直接教えたわけじゃなくても、大事なことを藤井先生に伝えてくれたんだなと思って

・・・本当のところはお二人にしかわからないですけど、羽生先生が藤井先生にいい道を示してくれたことは間違いないと思うのです。

  • 藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第1回です

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