政府が2014年に「地方創生」を打ち出し、国を挙げた東京一極集中是正への取り組みが開始、日本各地でさまざまな施設や事業が展開されています。本特集では、旅ライターとして国内外の多くの場所を見てきた筆者が、地元である四国で注目すべき「地域活性化に取り組む」場所やその魅力を解説します。

今回訪れたのは、徳島県西部に位置する脇町(わきまち)にある「うだつ上がる」。築150年の古民家を改装し、みんなの複合文化市庭(いちば)として2020年5月に開業したこちらの施設は、ユニークな名称と先鋭的な取り組みから注目されています。

施設の発案者で、運営も行う高橋利明さんより、クラウドファンディングで誕生した経緯や、施設の見どころを伺ったので、2回に分けてご紹介します。

  • 銀の箔があしらわれた藍染の布がうだつ上がるの目印

「うだつ上がる」とは?

うだつ上がるは脇町の観光スポットである「うだつの町並み」の中にあり、施設内では、雑貨店・古着屋・本屋・カフェなど多ジャンルの店舗が営業。建築家である高橋さんの設計事務所も入っています。

雑貨店の商品は高橋さんが店主として自ら仕入れていますが、それ以外の店主は別で、さまざまな人が施設のスペースで自分のお店を持てる形で運営されているのです。

高橋さんによると、「いろんな人に暮らしの『うだつを上げて』ほしかったから。そして、『うだつ上がる』循環を作り出したかったから」というのがこの運営方式の理由だそう。

これだけを聞いて意味を理解できる人はほとんどいないでしょう。まず「うだつが上がる」というのはどういった状態を指すのか、そのあたりからご説明しましょう。

  • うだつ上がるの外観

「うだつが上がらない」という慣用句は、「出世しない、稼ぎが少ない」といった意味で使われますが、そもそもうだつとは何のことかご存知でしょうか。

うだつとは、建物の二階部分の隣家との境目に立てられた衝立のようなもののことを指し、もともとは火事が起こった際に延焼を防ぐという目的で付けられていたものでしたが、後には装飾としての意味合いが強くなりました。家屋にうだつを付けるには相応のお金が必要。しだいに、うだつ自体が裕福さの象徴とされるようになり、「うだつが上がらない=裕福ではない」という言葉ができたというわけです。

  • 脇町には多くのうだつが残っています

脇町でハードルの低いスタートアップを

脇町は江戸時代に藍染産業で栄えた土地で、多くの家がどんどん大きくなり、うだつを上げる家も増えていき、現在も残るうだつの町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

とはいっても、知る人ぞ知るところで、観光地としての人気はまだそれほど高くないという現状。古民家を再利用する動きも少しずつ進んでいますが、まだ空いているところも残っています。

そんな空き家の一つをリノベーションして誕生したのが本施設であり、高橋さんの言う「さまざまな人にうだつを上げてほしい」には未来への思いが名前に込められているのです。

  • うだつ上がるの企画者であり、建築家の高橋さん

「何か新しいことをやりたいと考える人は徳島でも多いですが、例えば本屋や古着屋など、店舗を出すには、資金はもちろん、必要な時間や労力まで把握しないといけない。失敗したリスクも考えると、なかなか一歩を踏み出せない。そんな人たちにできるだけハードルの低いスタートアップの形を用意してみたら面白いよなと思ったんです」。

  • 古着屋の店主がここに来るのは週1・2回だそう

そうした考えもあり、営業する古着屋と本屋の店主が店に出るのは週に数回で、メインの仕事は別にあるとのこと。

お客さんが来ても、店主以外の、高橋さんを含む誰かがいればお店は営業できるし、会計もその時にいる人がやる運営方式。店舗の家賃はこの建物の借り主である高橋さんに納めますが、負担が少なく始められるビジネスの場は、全国的にもあまり見られないのではないでしょうか。

こういった変則的な取り組みができるのは、高橋さん自身が建築家でありながら雑貨店を運営してきた経験を持つということも大いに関係しているようです。徳島で独立した後、平日は建築家、週末は雑貨店主という働き方という経験が、この方式につながっているのは明白でしょう。

  • 2階はコワーキングスペース兼、地元の中高生の自習用のスペースとして解放

さらに2階はコワーキングスペース兼、地元の中高生の自習用のスペースとして解放され、今後は家具屋とギャラリーになる予定とのこと。どんどんと多くの人が関わって大きな輪になっていきそうです。

クラウドファンディングで目標の2倍以上の支援額を達成

現在はそういった形で運営されているうだつ上がるですが、オープン前にクラウドファンディングで多くの人の支援を受け、目標額の2倍以上となる資金を集めたことでも注目されました。

クラウドファンディングを開始したのは2月下旬で、目標額の100万円を達成したのはなんとわずか4日後。支援を募るページでは、高橋さんの構想などがかなり詳しくわかるように説明されています。

古民家を改装して豊かな暮らしの風景を作る複合文化施設として運営する、という企画は全国的にもあまり例がないそうで、結果から見ても高橋さんの考えたコンセプトが多くの人の関心を引いたことは間違いないでしょう。

  • 1階奥は会議などにも使えるフリースペースになっています

果たして無事にクラウドファンディングは目標額の2倍を達成し、オープンへと進むこととなります。かなり順風満帆な道のりのように見えますが、その裏では高橋さんの強い思いやしっかりと練り上げた構想と、脇町という場所がマッチしたことも大きな要因の一つと言えます。

脇町はもちろん、徳島市内や四国全体を見てもほとんど前例のない施設の誕生は、当然クラウドファンディングで共感してくれた人たちだけの話題に留まる事なく、地元住民が注目する場所にもなりました。

現に、まだオープンして数ケ月ですが、地元住民のランチやカフェ利用であったり、商工会がフリースペースを会議に使ってみたりと、さまざまな利用がなされています。今後は2階にもお店が増えることもあり、さらなる人の出入りにつながるのは間違いないでしょう。

  • フリースペースそばには見事な中庭が

では、そんな点を踏まえて高橋さんはこれからのうだつ上がるにどのような未来を見ているのでしょうか。後編はそういった今後の展望と、施設内のお勧めのポイントをご紹介します。