香川県高松市、瀬戸内海を望む倉庫街がリノベーションされて2001年に誕生した北浜アリー。レトロな外観とおしゃれな店舗は多くの人を惹きつけ続けています。

前編では管理者の井上さんにその設立の経緯やコンセプトなどを伺いましたが、後編では施設の今後の展望や現在のお勧めポイントを紹介します。

施設が今後目指すものについて

井上さんが語る「施設を運営する際に重要視している事」はとても興味深いものでした。

「これまでも、そしてこれからも『人を集める』場所を作るのではなく、『人が集まる』場所を目指すということ」。

言葉にすると些細な差に思えますが、よくよく考えてみると二つの言葉の持つイメージはかなり違うことが分かるでしょう。

  • 北浜アリーが目指すのは、「人が集まる」場所

オープン当時北浜アリーには8つのお店が入りましたが、その枠に対して50のテナント応募があったと言います。

他にも、倉庫を壊して住宅のようにする等、話も出たのが、井上さんは倉庫という建物の形は変えないという強いこだわりから断ったそうです。それは、商業施設にすれば「外から多くの人が来て、そこで商売をする人もいる。その人たちの動きが地域の活性化につながる」と考えからだと話します。

そういう施設であれば地元の人たちはもちろんのこと、観光客も立ち寄るスポットとしてどんどん活気づく、という目論見があったとのことですが、オープンから約20年がたった今振り返れば、その考えは正しかったと言えるでしょう。

  • 男木島や女木島など、施設内からでも瀬戸内海に浮かぶ島々が見えます

2010年には、直島や豊島など周辺の離島や岡山の宇野と一緒に作る大規模なアートイベント「瀬戸内国際芸術祭(通称:瀬戸芸)」もスタート。3年に一度の開催で大きな賑わいを見せていますが、その上昇する人気と重なり、北浜アリーでも海外からの観光客がより多く見られるようになったと言います。

  • 北浜住吉は和を感じるプライベート空間 画像提供:瀬戸内ステイ

2015年には北浜アリー内に宿泊施設もオープン。「北浜住吉」という純和風の築100年を超える古民家の一棟貸し宿で、最大6人まで泊まることができる宿泊施設です。利用している人の半分は海外からのお客さんで、瀬戸芸など近くの離島へ行く拠点として、あるいはブラブラと北浜アリーや周辺でゆったりと過ごすといった利用が多いようです。

北浜アリーのお勧めポイント

最後に井上さんの思う北浜アリーのお勧めポイントに関しても聞いてみました。まず井上さんが挙げてくれたのは「鷗宿(かもめじゅく)」。「北浜住吉」に次ぐ二つ目の宿泊施設として2020年の春にオープンしました。和を強く感じさせる古民家一棟貸しの北浜住吉と、現代長屋をイメージして新たに作られた鷗宿。利用の人数やシチュエーションに合わせて使い分けてほしいと井上さんは語ります。

  • 2020年の春にオープンしたばかりの鴎宿 画像提供:瀬戸内ステイ

鷗宿は計3部屋あり、メゾネットタイプ2棟とワンルーム1棟の2種類の部屋タイプが提供されています。

インバウンドから国内需要に転換を図る試みとして「体験型の宿」を目指しています。その一つが、香川県の自転車メーカー・タイレルのレンタル自転車で町を散策してもらうプログラム。北浜アリーという複合商業施設の中で、「宿が果たす役割」を他のお店と共に考えながら、場所の魅力を伝える手段になれば良いと考えているそうです。

  • 北浜アリーの中にはオリジナリティ溢れるチャペルまであります 画像提供:北浜alley

他にもウェディング&イベントスペースを提供している「KITAHAMA W」は特別感のある結婚式を挙げられる場所として好評となっています。従来の結婚式の常識に縛られない見た目からもその魅力は感じられると思いますが、こだわっているのは内装だけに限りません。

窓の外には船や島々が望め、北浜アリー全体を利用しての挙式ができるため、とても自由度が高く新郎新婦の思い通りの一日を創り上げることが可能。ウェディング事業の主なテーマとしては北浜アリーの成り立ちに基づき、「港・出航」とされていて、人生を新しい段階に進める場所としてピッタリではないでしょうか。

  • 北浜アリーの名前の由来でもある「路地」「裏通り」を感じる風景

北浜アリー名前に込められた意味も、ここを楽しむヒントになるとのこと。アリーというのは英語の「alley」から来ていて、意味は「路地」「裏通り」といったもの。神戸であったり広島の尾道であったり、狭い路地の散策が楽しい町は例外なく観光客に人気がありますが、同じように北浜アリーを歩いていると町の片隅でちょっと狭い裏路地をブラブラと散策しているような楽しみを味わえます。

また、元々が倉庫ということもありますが、トタンで作られた壁やそこにサビが多く見えることなども、ちょっとした隠れ家で遊んでいる気分になれ、大人も子供も魅了する空間となっているのです。

  • 瀬戸内海を望める、カフェ「カンティーナ」のテラス席

さらにその隠れ家では、至る所から海が見えるという嬉しいおまけ付き。カフェ「カンティーナ」には海を目の前にしたテラス席がありますし、カフェ「umie」やバー「黒船屋」は2階にあるため、カウンター席に座れば窓外に海が見えています。

「それぞれのお店から見える海が少しずつ違うから、自分の好きな景色を見つけてみてほしい」と井上さんは語ります。

  • ふと気付いたら窓外には青い海が

すべての場所から海が見えているわけではありませんが、北浜アリーの中を散策しているとふとしたタイミングで視界に海が入ってくるという、さりげない楽しみ方もぜひ体感してほしいというのが井上さんの提案ポイントです。確かにカフェでゆったりと海を眺める時間を過ごすのももちろん楽しいのですが、ふと気付くと海が見えるという環境は癒やしを与えてくれること間違いなしです。

  • 「206」には種類豊富なキッシュが並びます

さまざまなジャンルのお店があることが北浜アリーの魅力というのはすでにご紹介した通りですが、飲食店もカフェだけではなく、四国ではまだ珍しいキッシュ専門店「206(ツマム)」であったり、本屋「BOOK MARÜTE」には写真集やアートブックなど一貫したコンセプトのある本が並んだりしています。

他にも、香川や瀬戸内のものを中心にそろえた雑貨屋「Kitahama blue stories」など、それぞれの違った魅力があって、眺めているだけでも新しい発見や楽しみのタネが至る所に転がっていることがよくわかります。


今回取材にいって筆者が実際に強く感じたのは、北浜アリーが個々の店の魅力だけで人気となっているのではないということ。全体で一枚岩のように、北浜アリーという場所を作り上げているという雰囲気が、最大の魅力なのではないかと思える瞬間が何度もありました。

もちろんお店のジャンルはさまざまではあるのですが、北浜アリー全体を楽しむという意識を持って訪問すれば、より楽しく時間を過ごせるように思います。それはきっと井上さんの持つビジョンが北浜アリー全体に浸透していることの証拠とも言えるでしょう。

  • バス停からも感じられる昭和レトロ

人が集まる高松のウォーターフロント「北浜アリー」で、自由な裏路地散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。