株主優待をお得に手に入れるための手段のひとつとして「クロス取引」があります。投資歴が長い方は聞きなれた用語でも、初心者の方にとっては「どのような取引なのか?」「自分でもできるのか?」など疑問は尽きません。そこで今回は、初心者の方でもわかりやすいように「クロス取引」についてじっくり勉強していきましょう。

株主優待とは

  • 「クロス取引」とは?

    「クロス取引」とは?

株主優待とは、企業が株主に対して自社の商品やサービスを株数に応じて年に数回提供されるものです。株主優待をもらうにはまずは株主になることが前提ですので、企業の銘柄を権利付最終日までに購入し、権利確定日までに株主となります。

株主優待の最大のデメリット

上記で解説したように、権利付最終日までに銘柄を購入しないと株主にはなれません。人気のある銘柄は優待欲しさに株価が上がりますが、権利が確定するとその後は株価が下がる傾向にあります。そのため権利付最終日と権利落ち日では株価に差が生じることがあります。

  • カンロの株価チャート

    カンロの株価チャート

こちらはカンロの株価チャートです。カンロは12月末が権利確定日となっています。昨年末は12月30日が権利確定日でしたので、28日・29日が土日のために26日が権利付最終日でした。チャートからは26日の取引が急激に上昇し、株価は1,658円。対して、27日の権利落ち日には株価が下がり1,613円となりました。

株主になることができたら、銘柄を売却してしまおうとする動きからこのようなチャートになるのです。しかし26日の権利付最終日にギリギリに購入すると、人気銘柄は駆け込み需要もあるので、株価を高値でつかむことになり、その後株価が下落し売却した場合は損失が発生してしまいます。

そこで株主優待がもらえてリスクを抑える売買として有効なのが、「クロス取引」です。

デメリットを防ぐために「クロス取引」が有効!

クロス取引とは同一銘柄・同数量の買いの注文と売りの注文を同時に行い、同じ価格で約定することを言います。まずは現物株(※1)と信用取引(※2)の信用売りで同じ銘柄を同じ株数だけ成り行き(※3)で注文します。買いと売りの注文で同銘柄数持つことを両建てと言いますが、これは株価が変動した場合でも損益が相殺されるのでリスクがありません。

※1 実際に受け渡しができる株
※2 株式や現金を担保に証券会社からお金や株券を借りて、株式の売買取引をすること
※3 値段を指定しない注文

クロス取引の順序

(1)権利付最終日の取引が始まる前に同一銘柄、同株数を現物株の買いと信用売りを成り行きで注文する
(2)権利付最終日の始値で取引成立し、そのまま現物株は保有したままにする
(3)翌営業日の権利落ち日以降に取得した現物株を現渡し(※4)して決算する
(4)権利付最終日には現物株を保有していたので、権利確定日に株主となる

※4 信用取引の決算方法のひとつ。信用売りで証券会社から借りていた株券を返却することで決算できる方法

  • クロス取引の順序

    クロス取引の順序

「クロス取引」は信用取引になるので注意が必要

クロス取引には注意点もありますので、きちんと確認しておきましょう。

(1)クロス取引は信用売りの信用取引となりますので、一般口座ではなく信用取引口座での取引となる
(2)現物買いと信用売りの両方の手数料がかかる
(3)配当金はもらえずに配当調整金との差額が出た場合コストがかかる。

(4)信用売りは株式を借りる取引なので、株式を借りた日数分だけ貸株料がかかる。
(5)逆日歩が発生することがある。

「クロス取引」最大の敵は「逆日歩」

逆日歩は品貸料とも言い、制度信用取引の場合に信用売りで貸すことができる株式が不足したときに発生します。クロス取引の信用売りの需要が増加したことで貸せる株式が不足すると、証券会社は損害保険会社や生命保険会社などの機関投資家から株式を調達することになり、その調達には手数料がかかります。この手数料が品貸料、つまり逆日歩というわけです。

しかし、この逆日歩は株不足だからと言って必ず発生するわけではありません。逆日歩が発生するのは下記のような場合となります。

  • 逆日歩が発生する場合

    逆日歩が発生する場合

では、逆日歩はいったいどのくらいかかるのでしょうか?

逆日歩は、入札が実施されてから株不足が解消になった価格で決まるため、翌日にならないといくらになるのかわかりません。

逆日歩の計算方法

株数×逆日歩×日数

<日数の計算>

  • 日数の計算

    日数の計算

信用売りの2営業日の受け渡し日と、返済の2営業日の受け渡しの前日が同じ日の場合はこの1日だけ日数がかかります。連休や土日を挟んだ場合はもう少し日数がかかることになりますので注意しましょう。

クロス取引で逆日歩を気にしないためには?

逆日歩が発生しない「一般信用取引」で行うことです。「一般信用取引」とは証券会社が直接、投資家と取引をするため、貸株が不足した際の逆日歩は発生しません。

一方で、「制度信用取引」は証券取引所が指定する銘柄を対象としていますので、安全性が比較的高いのですが、貸株が不足した際は機関投資家から株を調達しますので、逆日歩がかかるのです。

「クロス取引」の注意点

クロス取引の際の注意点を簡単にまとめてみましょう。

・信用取引口座を開設する必要がある
・現物買いと信用売りの両方の手数料が必要
・配当金はもらえない
・現物株の配当金と信用売りの配当調整の差額の手数料が必要
・貸株料がかかる
・逆日歩の発生→逆日歩の発生リスクには一般信用取引を行うことが有効

クロス取引は違法性が疑われやすい取引でもあります。相場操縦や作為的価格形成が特に注意点が必要です。

例えばザラ場(※5)中に行われるクロス取引は、価格形成に影響を与える可能性が高く、法令で禁止されている「仮装売買」と判断される可能性があります。優待狙いの場合は寄付き(※6)の成り行きで行いましょう。

※5 寄付き後の取引時間のこと。取引の流れとして、寄付き・ザラ場・大引けがある。 ※6 証券所取引において最初に成立した取引のことで、始値とも呼ばれる。

まとめ

昨今は株主優待の長期保有株主への内容が充実してきていることから、クロス取引がお得だと感じないこともあるかもしれません。また取り扱っている証券会社が多くはないため、口座開設できる証券会社は限られてしまいます。クロス取引を行う際は必ず取引コストを確認し、注意点もきちんと理解してから始めましょう。