これまで7回にわたり、1980年代のスクーター、スズキ「ジェンマ50」をレストアしてきた。今回はボディを塗装し、ついに完成となる。塗装は根気が必要で時間もかかるが、作業内容は単純。スクーターのような適度に複雑な形状のものは素人でも塗りやすく、比較的きれいに仕上げられる。
塗装の大敵は急ぐこと - 慌てなければ誰でもできる
塗装はレストア作業の中でもメインイベントといえる作業だが、これまでの整備、機械いじりの作業とは趣がかなり異なる。整備というより、むしろ染め物や焼き物のような工芸に近いといえるかもしれない。難易度もそれなりに高いのだが、幸いにもバイクはクルマより格段に塗りやすい素材。極上をめざすなら話は別だが、そこそこの仕上がりでよければ、初めての人でも心配は無用だ。
作業の流れとしては、まず塗装する面に400番程度のサンドペーパーをかけて、「足付け」をする。塗料がしっかり密着するように表面を荒らす、つまり、塗装の足元がしっかり付くようにする、だから「足付け」だ。次に、プラサフという塗料の下塗りをする。
プラサフは、塗料の密着を良くする・微細な傷を埋める・塗料の発色を良くするなど、さまざまな役割がある。プラサフが十分に硬化したら、400~600番くらいのサンドペーパーをかける。この作業は「削る」や「磨く」ではなく、「研ぐ」という。水を流しながら作業する「水研ぎ」をすると効率がよく、粉塵を吸い込む心配もないのでおすすめだ。ただし、作業後は十分に乾燥させる必要がある。
取り外したパネル類から、モールやエンブレムを外す。これらは両面テープで付いているので、ヒートガンで暖めながらゆっくり剥がす |
大きな傷や凹みのあるパネルはパテ埋めして整形。こういった樹脂パーツに対しては、柔軟性のあるバンパーパテというものを使う |
プラサフを塗る。カー用品店で販売しているプラサフの色はグレーと白があり、白や黄色で塗る場合は白いプラサフを使う |
プラサフが完全に硬化したら水研ぎ。ていねいにやるなら水研ぎ後にもう一度プラサフを塗り、水研ぎすると良い |
色は非常に悩んだが、レッドマイカで塗装することにした。元の赤よりえんじ色に近い色だ。この写真はまだ1回塗っただけなので、本来の色ではなく、3回くらい塗リ重ねる必要がある |
今回はメタリックカラーなので、3回塗った上からさらにクリア塗装を重ねて仕上げた。最後はボディに各パネルを組み付けていく |
最後に塗料を塗る。これも、塗っては研ぎ、塗っては研いでいくことで美しく仕上がるが、そこそこの仕上がりでよければ、ただ塗るだけでも大丈夫だ。ちなみに、塗装はソリッドカラー(メタリックでない単純な色)の濃い色が簡単に塗りやすい。黄色や赤はやや難しく、メタリックカラーはまた別の難しさがある。
完成! 30年前のバイクが現代に蘇った
塗装ができたら、すべてのパーツを組み付け、市役所でナンバーを発行してもらえば完成だ。じつは、ホイールキャップやエンブレムがどうしても入手できず妥協したのだが、楽しむための趣味のレストアなのだから、こだわるのはやめよう。とにかく、1980年代のバイクが見事に現代に蘇った。ぱっと見てきれいで、ちゃんと走れば問題ない。
これはガソリンタンク。とくになにもしないつもりだったが、他のパーツがきれいになり、非常にボロボロに見えるようになったので、錆を落として黒で塗装した |
完成。当連載第1回の写真と見比べていただくと、違いがよくわかるはず |
張り替えたシートは新品そのもの。ノーマルのシート表皮はもっと手の込んだ作りだが、このようにシンプルなシートも悪くない |
「ジェンマ50」の大きな特徴であるフロントサスペンション。ベアリング交換で苦労させられたが、このかっこよさを見ると報われた思いだ |
リアのホイールキャップがなかったので探したが、メーカーでは欠品、ネットで探してももついに見つからなかった。心残りだが、これに気づく人も少ないだろう |
シートを開けると見えるガソリンタンクも新品同様。3リットルほどしか入らないのが玉に傷だが、当時のスクーターはみんなガソリンタンクが小さかった |
早速走行させてみたが、前後片持ちサスペンションと3速オートマチックの走りは独特の味がある。たったの3.5PSのエンジンなので、速さを求めてはいけないが、田舎道をのんびり走ると気分は最高だ。ヘルメットを入れるスペースはないものの、その代わりに非常にスマートでかっこよくなった。
この「ジェンマ50」はしばらく筆者が楽しんだ後、知り合いの女性が買い取ってくれた。毎日、買い物の足として活躍中だ。
レストアにかかった総費用は?
品名 | 金額 |
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車両購入(スズキ「ジェンマ50」) | 1万100円 |
中古マフラー | 91円 |
メインスタンド | 34円 |
中古マフラー、メインスタンドの送料 | 1,404円 |
パーツリスト(送料210円込) | 1,216円 |
ミッションカバーガスケット | 1,512円 |
キックレバーシール | 140円 |
マフラーガスケット | 378円 |
ミッションカバーガスケット、キックレバーシール、マフラーガスケットの送料 | 1,150円 |
タイヤ(2本) | 3,332円 |
タイヤバルブ(2本) | 494円 |
シート表皮 | 3,456円 |
ベアリング(2個) | 1,230円 |
Oリング(2個) | 80円 |
ブレーキワイヤー | 1,701円 |
塗料・プラサフ(1本) | 980円 |
塗料・レッドマイカ(2本) | 2,422円 |
塗料・クリア | 980円 |
合計 | 3万700円 |
3万円以内を目標にレストアしてきたが、完成後に計算してみたところ、総費用は3万700円と、わずかに目標を超えてしまった。決して高いパーツを交換したわけではないので、やはり3万円という目標が少し厳しかったというべきか。といっても、700円オーバーしただけなので、大体予定通りと喜んでもいいだろう。
前述の通り、レストアを完了した「ジェンマ50」は知り合いに売却したのだが、じつは当初、とあるネットオークションに出品していた。しかし、かなり格安のスタート価格にもかかわらず、入札がなく、それを踏まえて知り合いに2万円で売却したのだった。自賠責も込みなので、単純に考えれば2万円ほどの赤字だが、たった2万円で数カ月間たっぷり楽しめたと考えれば、安上がりな趣味だともいえる。