トヨタの新型「プリウス」が12月9日に発売される。押しも押されぬ看板モデルのフルモデルチェンジはそれだけで大事件だが、この4代目「プリウス」はそれだけにとどまらない重大な意味を持っている。これまでとはちょっと違う、新しいトヨタの尖兵でもあるのだ。

トヨタ新型「プリウス」。東京モーターショーを皮切りに、国内主要都市で開催されるモーターショーにも出展されている

「プリウス」といえば、いわずと知れた人気モデル。トヨタのラインアップの中でも特別な存在だ。しかし、特別な秘蔵っ子であるがゆえに、他のモデルとはやや異質というか、孤高の存在といった感がなくもなかった。弟分の「アクア」とともに、他のトヨタ車との間に距離が感じられるのだ。

しかし、4代目として生まれ変わった新型「プリウス」はそうではないらしい。なにしろトヨタの新世代プラットフォーム「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用した第1号モデルとなるのだ。「TNGA」はプラットフォームだけではなく、クルマづくりの概念や生産方式までを意味する言葉。「トヨタはこれからこうやってクルマを作っていきます」という指針であり、豊田章男社長の掲げる「もっといいクルマをつくろうよ」というキャッチコピーを綿密に定義したものでもある。

ということは、新型「プリウス」はこれからのトヨタ車のリファレンスとしての役割を担うことになる。これまでのやや異質なイメージから、トヨタブランドをリードするというまったく逆の立ち位置になるのだ。このモデルを見るとき、「プリウス」の最新モデルとして見るか、「TNGA」の最初のモデルとして見るかで、印象は微妙に変わってくる。

「プリウス」としてみれば、それは文句なく良いに決まっている。初代「プリウス」が、参考出品として東京モーターショーに登場したのは1995年。それから20年も経過している。途中でコンセプトを変えることもなく、つねに燃費一途で改良と熟成を加えてきたのだから、悪いはずがない。一方、「TNGA」の最初のモデル、つまり「これからのトヨタ車はこうなる」という見本としてみると、かなり衝撃的だ。

世界一になっても攻めるトヨタの意思表示

まずはそのエクステリアデザイン。スーパーカーでもないのにアクが強い。ヘッドライトはとんでもない形状になっているし、シルエットはまるで2ドアクーペのようだ。こうしたデザインのテイストはプラットフォームに制限されるのもではないが、「TNGA」第1号の「プリウス」がこの顔で出てきたということは、やはりこれからのトヨタはこうしたクセのあるデザインをあえて使っていくということなのだろう。

新型「プリウス」は従来モデルよりアクの強いエクステリアデザインに

「TNGA」によるクルマづくりの構造改革が行われ、一部グレードでJC08モード40km/リットルの低燃費も実現するという

この10年ほど、トヨタはずっと丸っこい形、クルマの後ろにストローを刺し、プッと膨らませたような形状を良しとしてきた。それは女性や高齢者にも受け入れられやすい、親しみやすさを感じさせる形状であり、また限られたスペースを最大限に活用するための形状でもあったのだろう。それがここ数年、フロントマスクのデザイン処理でシャープさを強調するようになってきたと思っていたら、新型「プリウス」のこの形状だ。レクサスのようなプレミアムブランドではない、トヨタブランドがここまでやるとは。

驚いた点の2つ目は、新型「プリウス」がこれまでになくハンドリングの良さをアピールしていること。しかも、これはサスペンションセッティングレベルの話ではなく、「TNGA」のプラットフォームが低重心を意識しているのだという。トヨタのハンドリングは安全性や乗り心地からいえば問題ないが、面白みという観点で見た場合、退屈そのものといえるものだった。それが方向転換したわけだ。

これはいくつかの見方ができる。ひとつは社長である豊田章男氏が大のスポーツカー好きであること。社長個人の好みと企業の方針は本来関係がないのだが、豊田章男氏は積極的に表に出て、自らが広告塔となるタイプ。レースにも出場する社長の下、ハンドリングにこだわったクルマづくりを進めるというのは企業の戦略としてありうる。

もうひとつは欧州市場を睨んだものではないかということ。日本や北米、それに南米やアフリカでも高いシェアを誇るトヨタだが、ヨーロッパではさっぱり人気がない。ヨーロッパのユーザーは走りにうるさいから、ハンドリングに面白みのないトヨタは売れない……と、そんなに単純なものでもないのかもしれないが、しかし、これからトヨタがヨーロッパでシェアを伸ばすには、ハンドリング改善が必須であることは間違いない。

言うまでもないことだが、ヨーロッパにはフォルクスワーゲンがいる。トヨタとフォルクスワーゲンはここ数年、生産台数世界一の座をかけて熾烈な争いを繰り広げてきた。少し子供じみた見方ではあるものの、ハンドリング改善は打倒フォルクスワーゲンのため、という分析もできないことはないだろう。2015年も世界一の座の争いは熾烈だが、フォルクスワーゲンが思わぬところでつまずいたこともあり、トヨタが世界一の座を獲得しそうだ。もしそうなれば、4年連続となる。

だが、トヨタは守りに入る気などまったくないようだ。それどころか、世界一になっても攻めて攻めて攻めまくる。そんな意思表示が、今日発売される新型「プリウス」から見て取れるのではないだろうか?