今回は自らの「おしゃれ力」を十分に発揮する女性「ファッション系レイディ」の一例を紹介しましょう。まりあさん(仮名・27歳)は昔からゴシック・ロリータ、いわゆる「ゴスロリ」ファッションが大好きな女性です。

ずっと大好きで、信じていたゴスロリファッションが……

TPOを考えてファッションを使い分ければ、異性からの好感度もアップするはず(写真はイメージ)

中学時代からこつこつお金を貯め、ネットオークションや専門中古ショップなど、さまざまなルートで衣装をそろえたまりあさん。とてもかわいらしい顔立ちで、ゴスロリの衣装も似合います。人からほめられることも多く、それが自信にもなっていたのでしょう。

普通、ああいう華美な衣装は、イベントやビジュアル系バンドのライブや、同じ趣味の人が集まる「お茶会」など、特別なイベントのときに着ていくものなのですが、彼女は休日などにもそういう服を着て出かけていました。筆者が彼女に初めて会ったときもそう。正直少し引いたのですが……。彼女はそれがおかしなことだとは思っていなかったようです。

そんな彼女が、ファッションに対する考え方を改める大きな転機になったのは、とあるハロウィン・パーティー。たまたま仕事関係で知り合った男性(しかも彼女のタイプ)の誘いで、都内の高級ホテルでのパーティーに参加できることになったのです。

はりきった彼女は、持てる「おしゃれ力」のすべてを注いでパーティーへ。この日のために買い足したものも多く、出費もかなりのもので、決して安くはなかったパーティーの参加費を含めると、貯金を削らなければいけないくらいの額だったようです。

ところが。彼女が出かけたパーティーは、あくまでも"一般常識"内でのおしゃれな人が集まる場所で、彼女のファッションは完全に場違い、いわゆる「アウト」なものでした。

後から考えてみれば、彼女も参加する前から多少の不安は感じていたのだそうですが、「ゴシックとハロウィンは相性がいいから大丈夫」と言い聞かせて参加したのだそうです。その結果は、周囲からは華麗にスルーされ、自分の周りにいた友達も遠ざかっていき、自分を呼んだ男性にまで敬遠され、その後は距離が大きく空いてしまう……、という散々な結果になってしまったそうです。

彼女はそれこそ泣きながら家路につくことになってしまいました。そうして何が失敗だったかを考えた彼女は、ようやく、「自分の感性が全然通じない場所があるんだ」という結論に至ったのでした。「自分と考え方、感じ方の違う人はいる」というのは、理屈ではわかっていたものの、そのとき初めて実感として理解したのです。

ファッションの使い分けで、人間関係にも変化が

その後、まりあさんはどうしたかというと、「ゴスロリでアウェイの場所には行かない」と心がけるようになりました。外を出歩くときには友達と一緒に行動し、ゴスロリ衣装はあくまで趣味として楽しむ、というように、わりきって考えられるようになりました。

それが彼女にとって非常に良かったようで、友達関係がうまく整理され、行動に落ち着きが出るようになっていきました。ちょうどその頃、彼女とフィーリングの一致する男性と出会えたのも、悔しい思いをした出来事などを乗り越え、成長した証だと思います。

彼女が出会ったその男性は当初、ゴスロリファッションのことはよく知らなかったそうです。そのため彼女は、ハロウィン・パーティーでの苦い思いを繰り返さないように、最初のうちはゴスロリ趣味を隠し、慎重に理解を求めていったようです。そうして、趣味のひとつとしてゴスロリのファッションが好きだと慎重に伝えていった結果、彼は予想以上にすんなりと受け入れて、彼女がそういう衣装でイベントに出かけていくのも認められるようになりました。ときにはゴスロリファッションの買い物にも付き合ってくれるそうで、良い関係が作られているみたいです。

ファッションに関して、「私はこれがいい!」「この服が私に似合う!」というように、自分本位のチョイスで選ぶ人は多いでしょう。周囲を気にせず"ドヤ顔"でいれば、本人にとって満足感もあり、楽しいだろうと思います。

でも一方で、恋愛をはじめとする人間関係を築く上で、大事なものが見えなくなってしまいがち。その場で友達はできても、「一緒にいよう」とお互いが思えるようなパートナーはできにくいのです。彼女は偶然にも自身を客観視できるきっかけをつかみ、上手にバランスが取れるようになったことで、人間関係がうまくいった典型例だと筆者は思っています。

さて、次回はもう1人、まりあさんとは逆に、「相手のウケを気にしすぎていた人」のお話を紹介したいと思います。彼女の体験から学べるものは、きっと多いはずです。

※当連載における「レイディ」とは、「女子」「ガール」といった、どことなく少女をイメージさせる存在からもう1歩踏み込み、「若々しさ」だけでなく「歳相応の深み」も持つ"オンリーワンの魅力"を秘めた「淑女(レディ)」をさす。「レイディ」という表現は新井素子氏のSF小説『通りすがりのレイディ』の主人公が憧れる、魅力的な女性への呼び名にちなんだもの

執筆者プロフィール : 来栖 美憂(くるす みゆう)

文筆家(男性)。ジャンルを問わない媒体で執筆中。近代カルチャーに詳しく、自身でもメイド喫茶などのイベントを企画・参加するなど実践派でもある。『アキバ☆コンフィデンシャル』(長崎出版)など編・著書多数。TwitterID「@mewzou