今回紹介する香菜さん(仮名・29歳)のケースは、ファッションに対してあまりに空気を読みすぎたのでは? という実例です。

彼女はスタイルもルックスも人並み以上。露出の多いセクシーなファッションで他の人から注目されるのも好きで、男性にちやほやされることに喜びを感じるタイプでした。実際、当時の彼女は「男性ウケ」を考えることに余念がなかったそうです。

男の視線を意識してがんばってきたのに…

香菜さんは東京の短大を卒業した後、いったん地元に戻ります。就職したのは、自己アピールにあまり興味を持たないタイプが集まる職場。派手なことが好きな彼女にとって、この環境は強いフラストレーションを与えていたようです。

「男性ウケ」を狙い、成功したという香菜さんだが… (写真はイメージ)

そんな状況についに我慢できなくなった20代半ばすぎ、思いきって東京のおしゃれな企業に転職。イケメンの男性も多い職場で、「ここがチャンス!」と一念発起した彼女は、ミニスカに胸元が見える服などを着て、女性らしさを強く打ち出すスタイルを取ることで人気を獲得していこうと決断します。そういう行動は同性からの評判を低下させますが、もちろんそれは承知の上。「男性ウケ」さえあればいいという考えの下、彼女は行動していくのです。

彼女の作戦はうまくいきました。公私問わず男性から人気を集め、一時は彼氏が途切れない時期も続いたといいます。しかし、彼女の人気はいろいろと問題の多いものでした。

まず、彼女に対する人気はきわめて表面的なものだということ、「男ウケすればいい」という気持ちを最も悪い形で見透かされて、口先だけの男ばかり集まってきます。逆に彼女のことを真摯に考えてくれる人はどんどん遠ざかっていきました。彼女の周囲には「勘違い男」も増え、ストーカーめいた男まで近寄ってくるようになりました。

たしかに男性人気は獲得できたものの、香菜さんが望んでいた人気ではなかったのです。当然の帰結なのですが、彼女に近づいてくるのは、「こいつはゆるい女だ」とでも思っているような男が大部分。ただ、自分が願った形の人気とは違うとわかってもなお、彼女は一度手に入れた「人気者」という立場を手放せませんでした。「モテているのに楽しくない」という、不毛な付き合いの日々が長く続いていくことになります。

普段着とおしゃれ着を分けたら「ギャップ萌え」でモテた!

香菜さんを変えるきっかけになったのは失恋です。「モテている」「人気がある」と思っていた彼女が、そのとき付き合っていた相手に浮気された挙句、その原因が彼女にあるように押し付けられ、一方的に捨てられてしまったのです。さすがに彼女も目が覚めたようで、「いまのままではダメだ」と、はっきり気づきました。

とはいえ、いきなり方向転換もできません。かなり悩んだようで、結局、彼女なりの答えを出すまでに1年はかかったようです。

最終的に彼女は何をしたかというと、「会社にいるとき、仕事が関係したときは、意識して『固いキャラクター』を作る。その代わり、プライベートではこれまでと同じように振る舞う」というように、はっきりギャップをつけるようにしたのです。

彼女の周囲には「アンチ」もいて、キャラの路線変更は楽ではなかった様子。それでも「普段着とおしゃれ着をはっきり切り替える」を続けるうちに、「しっかり切り替えられる女性になったんだな」と周囲からも思われるようになり、公私のキャラの違い、いわゆる「ギャップ萌え」も発生することで、少しずつ良い方向へ向かうようになりました。

その後、会社での人間関係も良好になり、香菜さんに近づく男性も、それまでの男性と比べてはるかに彼女のことを思ってくれる人が増えました。未来につながりそうな相手と出会うのも、おそらくは時間の問題でしょう。

目的を分けた上手な着こなしが「レイディ」への第1歩

「素敵なファッションに身を包む」ということに関して、大きく2つの意味があるのではないかと筆者は考えています。ひとつは趣味。好きな服を着て、自分の望む姿になると、すごくテンションが上がりますよね。このときばかりは自己中心的になってもいいでしょう。もうひとつは他者へのアピール。誰かに、または不特定多数に「かわいい」「きれいな人だな」と思ってもらいたい……、そんな思いで着るファッションです。

「自分の好きな服」「他者へアピールする服」は分けて考えたほうがよさそう(写真はイメージ)

片方は内向き、もう片方は外向きの意味合いを持っていて、本質的にまったく別方向のものです。どちらが良い・悪いということはありません。両方とも素敵なことですが、大事なのは混同しないこと。両方を一緒くたにしていると、ファッションをがんばってかわいくなっても、異性からのウケは全然芳しくないという不幸な状態になりかねません。

前回、そして今回と、2つの実例を紹介してきました。まりあさんの場合は独りよがりになりすぎて客観性を欠き、それが悪い展開を呼んでしまいました。つまり趣味に偏り、それを人に押し付けてしまったわけですね。香菜さんの場合は他者を意識して自分をアピールしすぎたために、こちらも悪い展開を呼ぶ結果になりました。まりあさんも香菜さんも、形は違えど、バランスが取れていなかったから失敗した、と言えるかもしれません。

その状態を解決するために、まりあさんは「相手を自分の趣味の世界に引っ張り、ファッションを通じて絆を深める」、香菜さんは「おしゃれをするときと仕事のときをはっきり分け、『常識がありながらおしゃれで魅力的な面もある』ところをアピールする」という方法を選んだことで、魅力的な「ファッション系レイディ」となっていったわけです。両者ともに、「他者の目を正しく意識すること」で、一度踏み外しかけた道を修正できました。

「自分のためのファッション」と「相手を意識したファッション」。ここを分けて考え、それぞれをバランスさせることが、素敵で賢い「ファッション系レイディ」になる第1歩なのでは? 2人の実例を見ながら、こんな結論が導き出せると思います。

ファッションはあなたの魅力を引き出してくれるものです。そんなファッションのパワーを活用するために、目的のはっきりしたファッションを着こなすことは必要不可欠。それだけであなたが本来持つ「おしゃれ力」を十分発揮できるでしょう。魅力的な「ファッション系レイディ」となるため、この機会に自身のファッションについてもう一度頭の中で整理してみましょう。きっと良い結果につながっていくと思いますよ。

※当連載における「レイディ」とは、「女子」「ガール」といった、どことなく少女をイメージさせる存在からもう1歩踏み込み、「若々しさ」だけでなく「歳相応の深み」も持つ"オンリーワンの魅力"を秘めた「淑女(レディ)」をさす。「レイディ」という表現は新井素子氏のSF小説『通りすがりのレイディ』の主人公が憧れる、魅力的な女性への呼び名にちなんだもの

執筆者プロフィール : 来栖 美憂(くるす みゆう)

文筆家(男性)。ジャンルを問わない媒体で執筆中。近代カルチャーに詳しく、自身でもメイド喫茶などのイベントを企画・参加するなど実践派でもある。『アキバ☆コンフィデンシャル』(長崎出版)など編・著書多数。TwitterID「@mewzou