JR北海道が9月15日に発表した来春のダイヤ見直しで、「廃止の方向で関係自治体と協議中」とされた7駅(函館本線5駅、花咲線1駅、宗谷本線1駅)について、北海道新聞と函館新聞が駅名を報道した。北海道新聞電子版の9月16日付「無人7駅廃止方針 JR北海道 函館・花咲・宗谷各線」および9月18日付「JR函館本線 廃止協議は流山温泉など5駅」によると、函館本線の5駅は池田園駅、流山温泉駅、銚子口駅、石谷駅、本石倉駅の5駅、花咲線は糸魚沢駅、宗谷本線は歌内駅だという。
これら7駅はすべて無人駅で、自治体の反応は同意、存続要望などさまざま。一方、JR北海道は12月までに存廃を決定するとしている。12月といえば、翌年3月に実施するダイヤ改正の内容を公式発表する時期でもあり、それまでに決着するつもりだろう。
JR北海道は経営危機からの脱却をめざし、「経営資源の選択と集中」を実践している。北海道新幹線や特急車両の更新、線路設備の保守を重視する一方で、利用者の少ない路線や駅を廃止してきた。2021年3月ダイヤ改正では、札幌より北側の宗谷本線、石北本線、釧網線、函館本線など18駅を廃止した。2022年春の廃止対象はおもに札幌より南側の駅で、いずれも駅別乗車人員が1日平均3人以下となっている。
- 函館本線 池田園駅 : 函館駅から30.4km。森・長万部方面5本/日、函館方面7本/日
函館本線の大沼~駒ヶ岳~森間の急勾配を迂回するために敷設された砂原支線の駅として、1945(昭和20)年6月に開業した。大沼駅の隣の駅で、大沼の湖岸から約600mほどの位置にある。「池田園」という駅名は開拓者の名前に由来し、「園」は当時の大沼道立公園の隣地として観光開発する計画があったためという。しかし周辺は自然が残され、小規模な集落があるのみ。JR北海道によると、5カ年(2015~2019年)で1日平均乗車人数は3人以下だという。
- 函館本線 流山温泉駅 : 函館駅から32.6km。森・長万部方面3本/日、函館方面4本/日
池田園駅の隣の駅で、2002(平成14)年開業。比較的新しい時期に作られた理由は、JR北海道が関連会社を設立して開発した温泉施設「流山温泉」の最寄り駅だったからだ。大沼国定公園、温泉施設、鉄道をイメージしたレストラン、ダチョウ牧場、彫刻広場パークゴルフ場、キャンプ場などが併設された。鉄道ファンには東北新幹線で活躍した200系や、津軽海峡線の快速列車に使われた50系客車が保存展示されたことでも知られている。
しかし、流山温泉施設の経営は思わしくなく、JR北海道はすべての施設を現地法人に譲渡。駅だけは現地法人の観光牧場へのアクセスルートとして残したが、5カ年で1日平均乗車人数は1人以下。アクセスルートの役目を果たしていなかった。
- 函館本線 銚子口駅 : 函館駅から33.8km。森・長万部方面5本/日、函館方面7本/日
池田園駅と同様、砂原支線と同時に開業した。「銚子口」は付近の集落の名前で、大沼の東端が神酒を注ぐ銚子に似ていたからという説がある。明治維新の前から本土より移り住む人がいて、明治時代は開拓が進んだ。砂原支線が開通するまでは、大沼からこの地を通って沿岸部の鹿部町を結ぶ大沼電鉄があった。北海道開拓の街を結ぶ拠点のひとつだったと思われる。しかし、5カ年で1日平均乗車人数は1人以下だった。観光目的、駅巡りの不定期客だろう。この駅では朝に普通列車同士の行き違いが1回だけある。
- 函館本線 石谷駅 : 函館駅から56.1km。長万部方面6本/日、森・函館方面6本/日
1930(昭和5)年に信号場(行き違い設備)として設置され、翌年から仮乗降場として旅客扱いを開始。戦後に駅に昇格し、貨物扱いも始まった。森~鷲ノ巣信号場(旧鷲ノ巣駅)の複線区間内にある。駅舎側に単式ホームが付属し、島式ホームも併設された2面3線の配置。丘と海岸の細い隙間に道路、細長い宅地集落、線路が並び、海の車窓が楽しめる。付近には漁港もある。5カ年で1日平均乗車人数は3人以下だった。
- 函館本線 本石倉駅 : 函館駅から60.0km。長万部方面6本/日、森・函館方面6本/日
石谷駅の隣の駅。1944(昭和19)年に信号場として設置され、1948(昭和23)年から仮乗降場として旅客扱いを開始。1964(昭和39)年に旅客扱いを廃止したが、1973(昭和48)年に再び旅客扱いを開始している。1987(昭和62)年のJR北海道発足を機に正式な駅になった。付近は石谷駅と同様、小さな漁港のある集落。5カ年で1日平均乗車人数は3人以下だった。
- 花咲線(根室本線) 糸魚沢駅 : 釧路駅から57.2km。根室方面4本/日、釧路方面5本/日
1919(大正8)年の鉄道開通と同時に開業。現在は単式ホーム1面だが、かつては単式ホーム2面で行き違い可能な設備があった。駅周辺に集落があるほか、北側に広大な農地がある。しかし鉄道利用者は少なく、5カ年で1日平均乗車人数は1人以下。花咲線で最も少ない駅だった。
- 宗谷本線 歌内駅 : 旭川駅から170.3km。稚内方面3本/日、名寄方面3本/日
1923(大正12)年の鉄道開通と同時に開業。1951(昭和26)年に現在の駅名に変更された。いまは単式ホーム1面だが、かつては単式ホーム2面で行き違い可能な設備があった。2019年、JR北海道から「廃止」または「維持費の自治体負担」を求められ、「維持費の自治体負担」で存続している。5カ年で1日平均乗車人数は1人以下だった。
■自治体の反応は…
函館本線の池田園駅、流山温泉駅、銚子口駅は七飯町、石谷駅、本石倉駅は森町にある。函館新聞の9月22日付「JR北海道が七飯町内、森町内の5駅の廃止を協議」を見ると、七飯町は2020年1月にJR北海道から廃止の意向を伝えられたようだ。2021年1月に住民向け説明会が行われ、「廃止はやむを得ない」との認識だという。説明会出席者は8人だった。森町では2021年5月に通知され、町が住民に聞き取り調査を実施した。通学、通院、買い物で利用する町民がいるため、8月に存続を求める要望書を提出したとのこと。
前出の北海道新聞の記事によると、歌内駅を維持をしてきた中川町は、負担が大きいことを理由に駅の廃止意向をJR北海道に伝えていたという。廃止後は駅周辺住民が隣の駅までハイヤーを安く利用できる助成制度を創設して対応する。糸魚沢駅がある厚岸町では、すでに糸魚沢駅と厚岸駅を結ぶデマンドバスを運行している。
鉄道ファンとしては残念なことだが、これら7駅は廃止になりそうだ。
■抜海駅は存続、3人以下の駅はまだある
JR北海道は、5カ年で1日平均乗車人数3人以下の駅に対し、自社負担では存続できないという考えで、対象となる駅は廃止または自治体負担による維持管理を求めている。
2016年に石北本線などで8駅、2017年に函館本線などで9駅、2018年に根室本線で1駅、2019年に根室本線で3駅、2020年に釧網本線などで2駅が廃止された。2021年には、宗谷本線などで18駅が廃止され、宗谷本線の17駅と石北本線1駅を自治体管理に移行するという大ナタが振るわれた。自治管理駅のうち、歌内駅は1年で廃止となってしまうが、その他の自治管理駅は引き続き維持される。
とくに抜海駅は、自治体などが参加する「宗谷本線活性化推進協議会」で廃止容認と報じられた後、地元の存続運動と開業100周年記念行事(2024年予定)の取組みを受けて、稚内市が維持管理を決定した経緯がある。ただし、自治体維持管理駅は年度予算で承認されなければ消えていく運命だ。廃止の危機は継続している。
これらの他にも、1日平均乗車人数3人以下の駅がある。処遇が報じられていない駅についてまとめた(※は1日平均乗車人数1人以下)。
- 函館本線 : 山崎駅、中ノ沢駅、二股駅、比羅夫駅
北海道新幹線札幌延伸の並行在来線区間にあるため、駅ごとの存廃よりも路線の存廃論議が優先されているようだ。並行在来線会社の設立が決定した場合に駅の存廃が検討されるだろう。
- 日高本線 : 浜田浦駅
日高本線は高波被害で被災し、鵡川~様似間の廃止・バス転換が決まった。浜田浦駅は鉄道存続区間で最も平均乗車人数が少ない。
- 根室本線 : 野花南駅、布部駅、厚内駅、姉別駅、別当賀駅
布部駅は倉本聰脚本、田中邦衛主演のテレビドラマ『北の国から』に登場した。現在も観光客が訪れるという。他の駅も集落の中心にありながら利用者は少ない。
- 留萌本線 : 北一已駅(※)、北秩父別駅(※)、真布駅、恵比島駅、峠下駅(※)、幌糠駅(※)、藤山駅(※)、大和田駅
留萌本線は起点の深川駅、終点の留萌駅、途中駅の石狩沼田駅と秩父別駅を除く8駅で1日平均乗車人数3人以下。さらに8駅中5駅で1日平均乗車人数1人以下となっている。各駅の存廃より路線の存廃が論議されている。恵比島駅にはNHK連続テレビ小説『すずらん』の舞台、明日萌駅のロケセットが残る。
- 富良野線 : 鹿討駅
富良野線で最も乗車人数が少ない駅。普通列車の一部も通過する。
- 宗谷本線 : 瑞穂駅
宗谷本線は1日平均乗車人数3人以下の駅のほとんどが廃止または自治体維持管理で決着しているが、瑞穂駅だけは処遇が報じられていない。
- 釧網本線 : 緑駅、美留和駅、細岡駅(※)
釧網本線の存廃に関する報道はない。JR釧網本線維持活性化実行委員会とJR北海道の連携により、釧網本線自体が観光路線として注力されている。今年は釧網本線全通90周年記念の行事が控えており、駅の存廃より優先されているように見える。
JR北海道は、2018年7月に国から経営改善を求める監督命令が出された。2019~2020年度の第1期集中改革期間が終わり、2021~2023年度の第2期集中改革期間に入った。2022年度のダイヤ見直しと駅の廃止は、第2期集中改革期間の取組みのひとつ。2023年度中、つまり2024年3月までに、駅や路線の存廃問題が決着するとみられる。今後も動向を注視したい。