2016年第20週(5月9~15日)は、京急電鉄、東急電鉄、相模鉄道、西武鉄道から2016年度の鉄道事業計画が発表された。今年度、重点的に取り組む対象は何か、どのくらい投資するかという情報だ。これらはおもに投資家、株主向けの情報開示だけど、鉄道ファンにも興味深い内容も含まれている。
京急電鉄が5月11日に発表した「平成28年度 鉄道事業設備投資計画」によると、車両の新造は新1000形が32両、更新は2100形が16両となっている。新1000形は2016年3月から運行を開始した1800番台で、4両編成8本と思われる。
新1000形1800番台は従来の前面デザインを変更し、左寄りだった非常扉の位置を中央に移した。連結面になったときはこの扉を開けて幌でつなぎ、通路になる。1800番台は4両編成で普通列車として使われるほか、連結して8両編成で都営浅草線にも直通できる。なぜなら、地下鉄線内では、火災などの非常時に車両間での移動を可能にする必要があるからだ。従来は新1000形4両編成と新1000形8両編成を使い分けていた。1800番台の活用で、電車を効率的に運用できる。投資家向けに新規投資とコスト削減を表明した格好だ。
2100形は2013年度から実施している車体更新を継続する。ドア上部に液晶ディスプレイの設置、ドアチャイムの設置、車内照明のLED化、冷房装置の交換などだ。2100形は1998年から2000年にかけて製造された。製造から15年をめどにした機器更新を実施している。新技術の採用と省エネが主眼になっている。
東急電鉄は5月13日に「鉄軌道事業設備投資計画」を発表した。注目は「田園都市線の新型車両」だ。2017年度の導入をめざし、製造に着手するという。「故障の予兆を早期に発見できる監視システム」「全車両にフリースペース設置」とのキーワードがある。東急電鉄の車両はかつての関連会社「東急車輌製造」を継承した総合車両製作所が担う。
総合車両製作所はJR東日本の関連会社となり、ステンレス車両のコンセプト「サスティナ」を掲げる。共通プラットフォームによる低コスト化、衝撃吸収構造と客室内ロールバーによる安全性向上の構造部から、吊り手デザインなど乗客設備まで行き届いたテーマだ。かつての親会社である東急としても、「サスティナ」コンセプトの究極モデルと意気込むに違いない。
田園都市線の新型車両はJR山手線のE235系に近い設備を持ち、地下鉄乗入れのための前面非常扉を設置したデザインになりそうだ。東急電鉄の形式番号で空いている数字は4000番台と8000番台。伝統的に4000番台は使っていないようなので、新8000系か、もしかしたら初の5ケタか。登場を期待する反面、おそらく入れ替わりに消えていくであろう名車8500系の最終運行日も気になる。
西武鉄道は5月12日に「鉄道事業設備投資計画」を発表した。車両の新造は30000系8両編成1本と新形式40000系10両編成2本だ。30000系の製造は今年度で終了。コンセプトは新形式の40000系に継承される。西武鉄道のイメージチェンジの進展を感じさせる年になりそうだ。なお、3月に発表された「新型特急車両」の導入は2018年度になるため、今回の計画には反映されていない。
30000系は「スマイルトレイン」のキャッチフレーズで2008年に誕生した。内外装に女性社員の意見を取り入れ、デザインのモチーフは「生みたてのたまごのようなやさしく、やわらかなふくらみ」だった。歴代、ラズベリーレッド&ベージュ、黄色、ステンレス&ブルーと変遷した同社車両の車体色は、30000系で清々しい白とブルー&グリーンのグラデーションに変わった。現在は10両編成・8両編成・6両編成・2両編成があり、西武鉄道のほぼ全線に対応する。
新形式40000系は、計画書によると「30000系の後継」となっている。しかし運用は異なるだろう。その理由は前面に設置される非常扉だ。30000系は前面扉がなく、西武線内専用だった。40000系のイメージイラストには非常扉の境目を示す溝が描かれている。東京メトロ副都心線・有楽町線への直通運転を想定しているだろう。製造計画も10両編成となり、地下鉄直通サイズとなった。
40000系は車いすやベビーカー、大きな荷物を持った人に配慮した「パートナーゾーン」を用意する。一部編成はロングシートとクロスシートを転換できる設備を持つとのことで、東武東上線を走る「TJライナー」のような有料座席を想定しているかもしれない。ダイヤ改正への期待も高まる。
相鉄グループは5月13日に「鉄道・自動車設備投資計画」を発表した。鉄道車両の動向は既存車両の更新のみ。2015年度に9000系車両1編成がリニューアルされ、外装を「ヨコハマネイビーブルー」とし、座席の改良、車内の液晶画面設置などを実施した。2016年度はさらに2編成をリニューアルする。8000系についてはモーター制御装置(VVVFインバータ)と補助電源を更新し、冷房装置を大容量化する。
相鉄は西谷~羽沢~新横浜間の新線建設に注力している。しかし羽沢駅乗入れがJR東日本側の都合で延期となってしまい、先行投資の回収も延期となってしまった。新型車両の誕生は都心乗入れ向けの時期までお預け。現状は既存車両を延命する方針のようだ。
相模鉄道はJR東日本・東急直通を含めて、路線改良に注目したい。星川~天王町の連続立体交差工事も進捗している。完成は2018年度。高架区間の車窓は見晴らしが良さそうだ。
これらの鉄道事業者の他にも、名古屋鉄道、東武鉄道、小田急電鉄がすでに設備投資計画を発表済み。鉄道車両の動向の他に、路線や駅の改良、改築情報もある。かつては記者クラブや株主、投資家のみに配布され、新聞記事などを通して知るしかなかった情報だったが、現在はホームページを通じて鉄道ファンでも見られる時代になった。
筆者がいまも営業マンを続けていたら、取引先担当者の話題のきっかけにしただろう。鉄道ファンだけではなく、沿線の人々との話題作りにも役立ちそうだ。投資家向けとはいえ、硬い文面ではないので、読み物のひとつとして楽しもう。