鉄道・運輸機構は5月31日、「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)計画段階環境配慮書」を国土交通大臣に送付し、公表した。建設ルートのうち、具体的な環境調査に着手する地域か明らかになった。国定公園や地下水、寺や埋蔵文化財の影響を避けるべく環境調査を深め、2022年冬までに評価書を作成する予定としている。着工はそれ以降、完成は早くても2030年代後半になりそうだ。

  • 北陸新幹線敦賀~新大阪間の事業想定区域図(地理院地図を加工)

    北陸新幹線敦賀~新大阪間の事業想定区域図(計画段階環境配慮書をもとに地理院地図を加工)

北陸新幹線は1972(昭和47)年6月に基本計画が策定され、7月に告示された。ルートは「東京~長野市付近~富山市付近~大阪市」とされた。1973年の整備計画では、経由地に「小浜市付近」が追加された。このうち、東京~長野間は通称「長野新幹線」として1997年に開業。長野~金沢間は2015年に開業した。残る区間のうち、金沢~敦賀間は1996年までにルートが公表され、2012年に着工。開業は2022年度末を予定している。

当時、敦賀駅から大阪市までのルートは確定していなかった。沿線自治体の誘致運動があり、経済界からも早期建設や建設費節約を求める声があり、複数のルートが議論された。その結果、2016年に小浜市を経由し、京都市へ南下するルートが採用された。京都市~大阪市については、ほぼ直行となる「北回りルート」と、ほぼ同等の距離で中間駅を通過する「南回りルート」が検討され、2017年3月に「片町線松井山手駅付近に駅を設置する南回りルート」に決定した。

ここまでは「未着工区間の経由地域を確定した」だけだった。着工するためには、経由地域を結ぶ線路の位置など、具体的な施設予定地を確定する必要がある。そのために、「建設にふさわしい地域・地質」と「開業後の環境への影響」を確認する必要がある。

5月31日に公表された「計画段階環境配慮書」は、地域や地質に関する予備調査を踏まえ、「建設にふさわしい地域を明示し、環境調査をする事業想定区域」を示した報告書となる。駅の位置を決定し、駅間で環境面の影響が少なければ一直線で路線の設計図が描かれるだろう。しかし、実際は自然や住環境への配慮があるため、示された範囲で線路を迂回させるなどの配慮が行われる。

もっとも、予備調査を反映した事業想定区域図は、ほぼ経由地を直線で結んだ形になっており、大きな迂回が必要な活断層、水源がなかったように見える。建設区間の8割をトンネルとし、都市部では大深度地下を利用するためだ。

事業想定区域の設定にあたり、鉄道・運輸機構が配慮した事項は次の通り。

(1) 高速走行を可能とするため、なるべく直線ルートとする
(2) 最小曲線半径は4,000m、最急勾配は15‰を基本とする
(3) 活断層や脆弱な地質、主要な河川や湖沼・ダム湖を回避する
(4) 市街地化・住宅地化が進展している地域を回避する
(5) 然環境の保全の観点から、自然公園区域等を回避する

(1)を最優先としつつも、(3)の場合は(2)の条件を考慮して迂回。(4)は大深度地下など、(5)はトンネルなどを使って影響を小さくする方針としている。

  • 国定公園などの位置を参照すると、事業想定区域図はこれらを避けて設定されたとわかる

事業想定区域図では、ラムサール条約にもとづく登録湿地の「三方五湖」や「若狭湾国定公園」を避けた。区域内の京都丹波高原国定公園はトンネルとし、原生林が広がる第1種・第2種特別地域の「芦生の森」を避けたルートにするという。

京都新聞の6月1日付の記事「北陸新幹線ルート案、京都市中心部や伏見酒造エリアなどは回避」によると、京都市は事業想定区域図の中にあり、実際のルート選定にあたっては、中心市街地と伏見区の酒蔵が集中するエリアを回避するという。京都駅は外せないと思われるけれど、大深度地下になると予想される。京都市市街地の地下水の影響も配慮し、建設にあたっては寺や埋蔵文化財などに配慮した工事施工法を採用する予定とのこと。

鉄道・運輸機構は計画段階環境配慮書について、7月1日まで環境面に関する意見書を受け付けている。今後、約4年で環境影響配慮書を作成し、2023年に金沢~敦賀間の開業し次第、着工したい考えだ。

北陸新幹線敦賀~新大阪間について、1歩進んだ形になるけれども、ここから先も長い。たとえば金沢~敦賀間の場合、ルート公表は1996年、環境影響評価書の策定は2002年、着工は2012年で、開業予定は2022年となった。ルート公表から26年もかかっている。この期間をそのまま当てはめると、北陸新幹線の全線開業見込みは2045年になる。リニア中央新幹線の新大阪開業は2037年の予定とされているから、その8年後だ。

なお、大阪市の位置については、2016年4月に与党プロジェクトチームが新大阪駅と定めた。また、国土交通省は国土交通省生産性革命プロジェクトで「地方創生回廊中央駅構想」において、新大阪駅で山陽新幹線の地下ホーム増設を検討している。将来のリニア中央新幹線の新大阪駅接続やなにわ筋線との乗換え、北陸新幹線と山陽新幹線の直通運転も視野に入れている。北陸新幹線の全線開業は、大阪の交通体系大変革の総仕上げになるだろう。