来春の運行終了が告げられた寝台特急「トワイライトエクスプレス」。乗客たちにはそれぞれの事情があり、誰もが幸福というわけではない。今夜の展望スイートの男女にも後ろめたい事情があるようで……。おもに佐藤浩市と中山美穂のふたり芝居。鉄道ファンの鎌田敏夫脚本で、大人の恋とせつなさを描く。

『終着駅~トワイライトエクスプレスの恋』は、2013年3月20日にTBS系列で放送されたドラマだ。BD・DVD化はされていない。しかし、TBSオンデマンドをはじめ、amazon、dビデオ、Huluなど有料ネット配信で現在も視聴できる。ディスク化されていない佳作ドラマが高画質で見られるとは、本当に良い時代になった。

幼なじみの男女が「トワイライトエクスプレス」で不倫の旅

トワイライトエクスプレスの食堂車が登場する(写真はイメージ)

大阪駅。啓介(佐藤浩市)が札幌行の寝台特急「トワイライトエクスプレス」の展望スイートに乗車した。しかし、同乗予定の女は来ない。新大阪、京都……、このままひとり旅かとあきらめかけた頃、千絵(中山美穂)が乗ってくる。千絵には子供がいて、旅先で現実に戻されないように用事を済ませてきた。携帯電話も置いてきたと言い訳をする。安堵した啓介は、「そんな説明はよせ」と呆れる。

ふたりは恋人同士。正確には不倫の関係だ。しかし、啓介から別れ話を切り出した。入手困難といわれる「トワイライトエクスプレス」の展望スイート、そのチケットが取れたら別れの旅をしよう。後ろめたくもつかの間の幸せを楽しもうとする千絵、かたくなに思い出話を拒む啓介。啓介のセリフは「よせよ」ばかりで、数えてみたくなるほど。それはともかく、久しぶりの豪華列車の旅に2人は高揚する。そして列車とふたりのゴールが刻々と近づいて……。

物語は中年の不倫カップルの別れ話。非道徳な設定で、個室寝台の会話のシーンが多く、派手な展開もなかったせいか、ネットでの視聴者の感想は芳しくないようだ。しかし、主人公たちと同世代なら、CM抜きでじっくり鑑賞すると次第に引き込まれていくだろう。2人の境遇が少しずつ明らかになり、男性なら佐藤浩市が演じる男に共感するし、女性も中山美穂が演じる女性になにか感じるかもしれない。豪華寝台列車を舞台にした叙情的な作品といえる。

食堂車「ダイナープレヤデス」の厨房が描かれる

この作品では、ロケーションビジネスに熱心なJR西日本が全面協力している。客室の描写は展望スイートだけ。ただし、スイートの設備が主人公たちによってやや説明的に映し出されるほか、食堂車、ラウンジカー、ミニロビーも紹介される。まるで、「トワイライトエクスプレス」の宣伝ムービーのようだ。この「列車の宣伝+不倫ドラマ」という構成が、鉄道ファン、恋愛ドラマファン、主演俳優ファンの目には中途半端に感じられたかもしれない。

それでも、鉄道ファンの視点で見ると、来年春に引退する「トワイライトエクスプレス」の記録映像としても興味深い仕上がりになっている。食堂車を運営するジェイアール西日本フードサービスネットが協力しているだけあって、ディナーの料理をひと皿ずつ、調理過程も含めて見せてくれる。現役食堂車のキッチンの映像は珍しい。冒頭には宮原運転所構内の機関車連結と出発回送シーンがある。これも鉄道ファン向けのサービスカットといえそうだ。

宮原運転所でも撮影が行われた(写真はイメージ)

物語の終盤に入ってからの撮影は工夫が多い。「トワイライトエクスプレス」が深夜に運転停車し、物語に重大な転換が起きる。ちらりと映る時計の時刻から推察するに、羽越本線の酒田~秋田間だ。しかしロケ地は北陸本線の泊駅。JR西日本管内のみで撮影したからだろう。駅名を隠しているため、もっと青森寄りの駅という設定のようだ。実際の「トワイライトエクスプレス」は、泊駅を明るい時間帯に通過する。

この駅では朝の場面も撮影されており、9時5分に発車して京都駅に15時40分に着く特急列車と、その後に発車する青森行の急行列車も登場する。どちらも架空の列車で、車両は特急「しらさぎ」用の683系2000番台である。JR西日本の公式サイトにドラマのロケ紹介のページがあり、撮影用の列車を走らせたと書かれていた。

このロケ紹介ページでは、展望スイートの撮影の一部がスタジオセットだったことも明かされている。揺れていないシーンがあるから、「きっと宮原運転所で停車している車両を使ったのだろう」と思った。じつは精巧に作られたスタジオセットとのこと。本当に良くできている。当連載第30回『約三十の嘘』も「トワイライトエクスプレス」の客室セットで撮影されている。こちらは架空の客室だったけれど、実物の雰囲気が良く出ていた。本作品で、あらためてドラマの美術スタッフの職人魂に感心した。

※写真は本文とは関係ありません。

ドラマ『終着駅~トワイライトエクスプレスの恋』に登場する鉄道風景

「トワイライトエクスプレス」 大阪~札幌間を結ぶ寝台特急。近年の豪華寝台列車の元祖
EF81形電気機関車 「トワイライトエクスプレス」の牽引機関車。冒頭の宮原運転所は104号機、大阪駅入線時は103号機
スロネフ24形客車 「トワイライトエクスプレス」のスイート用客車。ふたりは展望スイートで旅をする
スシ24形客車 「トワイライトエクスプレス」の食堂車
オハ25形客車 ロビーカー「サロンデュノール」。千絵が子供へのお土産にスタンプを押す。「蟹田で車掌が交代する前に…」というミニ知識を披露
オハネ25形客車 B個室寝台車。ミニロビーの場面がある
683系電車 2000番台。JR西日本の交直両用特急形電車。日本海側の駅から大阪行の特急、青森行きの急行という設定で登場する
221系電車 JR西日本の直流近郊形電車。展望スイートの車窓に映る。この場面では保線車両も見える
281系電車 関空特急「はるか」用電車。「トワイライトエクスプレス」の新大阪駅到着時の場面で停車中
北近畿タンゴ鉄道KTR8000形気動車 「トワイライトエクスプレス」の京都駅到着時の車窓に映る
宮原運転所 ドラマの冒頭に客車と機関車の連結シーンがある
大阪駅 ドーム屋根の下、10番のりばや時空の広場などが映る
京都駅 0番のりばは日本で最も長いホームとしても有名。回想シーンで大階段のエスカレーターなども登場
泊駅 羽越本線のどこかの駅という設定。時計の針は23時30分すぎをさしている