「合成着色料」という響きは怖いですが……

着色料。食品や化粧品などの日用品に用いられることがありますが、着色料と聞いただけで「発がん性があるのでは?」という考えをお持ちになる方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は着色料について知っておくべき最低限の話をまとめましたので、着色料にまつわる時代遅れの知識に振り回されないようにご活用ください。

天然着色料と合成着色料

食品を選ぶ際、色合いを見て買う人も多いのではないでしょうか。人間は舌だけでなく、臭覚や視覚の情報も含めて総合的に味を感じているので、真っ青にしたご飯やカレーを見ると、人によっては拒絶反応を起こして食欲がなくなったり、まずく感じたりするわけです。それだけ「色」と「食」は密接な関係にあるため、着色料は人が感じる味を大きく左右する添加物の1つといえます。

着色料は「天然着色料」と「合成着色料」とで大きく分けることができます。天然着色料には、コーラやプリンを茶色くするカラメル由来のカラメル色素や漬物などを赤くするパプリカ由来のパプリカ色素などがあります。

一方の合成着色料はタール系色素と言われるものが多く、添加物の中でも使用量に注意が必要な「指定添加物」の扱いを受けているものが大半です。そう言われると不気味に感じる人も多いと思いますが、その安全性をご紹介しましょう。

安全性は大丈夫?

「合成着色料不使用」なんて言われると、合成の着色料は体に悪くて天然のものは安全と思ってしまいそうですが、どちらも安全です。安全と言い切る根拠もしっかりあります。

着色料は毎日様々な食品に使われているため、国内のみならず世界中でその使用の安全性について協議がされています。世界機関である国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で管轄する組織「Joint Expert Committee on Food Additives」(JECFA)に世界中から寄せられた安全性データを基にして、「1日に摂取しても安全な分量」とする「Acceptable Daily Intake」(ADI)が決められているわけです。

「燃焼パワーでダイエット」と標ぼうしているサプリメントの自社モニター調査による結果や、身元のよくわからない人が女性誌に寄せている絶賛コスメ情報を信じる一方で、世界中の何百何千という研究者による実験結果を精査して決められた基準は「怖い」というのはおかしなことですよね? JECFAの基準を信じないと言い出すと、化学製品は何も触れることができなくなってしまいます。

信頼たりうる機関が発信している情報なので、そこで定められた値が守られている限りは、何ら影響ないと考えてもよいわけです。仮に多少オーバーしても問題ないというのは、以前、「人工甘味料などの添加物に潜む本当の「危険性」って何なの?」中の、ADI(一日摂取許容量)について説明した通りです。

この世の口に入るあらゆる物質には、人体にとって無害な量、利益のある量、毒性が見られる量、そして致死量というものがあります。ADIは生涯毎日摂取しても大丈夫なように、「ここからここまでの分量なら摂取しても人体には無害」という範囲を示す「無毒領域」の量の100分の1になるように定められています。元々、それらの着色料や添加物などを摂取するにしても微量なケースが多いため、多少オーバーしても問題ない、ということです。

「発がん性色素」と言われる青色1号も……

ちなみに「有害色素」「発がん性色素」と言われることもある着色料「青色1号」ですが、脊椎損傷の治療薬としても研究がされているくらいで、有害どころか薬としての効果まで研究されています(ただし治療中は肌が青くなるようですが……)。当然、添加物としての微量の使用では肌が染まることもありませんので、気にする必要はありません。

合成着色料、タール系色素など、名前だけで「怖い」「避けないと」と考えるのは、近代的な考えとは到底言えないわけです。

※写真と本文は関係ありません

筆者プロフィール : くられ

『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)がある。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」ツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。