既婚の女性が若いアイドルにハマるのを、「くだらない」「意味がわからない」と言う男はいるだろうか。もし自分の女がそのような行為に出てほしくなかったら、できることはただひとつ。妻の愛情を自分が一心に受け続ければいいのだ。きっちり稼いで、休日は妻や家族のために時間を費やし、妻を気遣って優しくして、話をとことん(←ここ重要)聞いて、妻が心底夫に夢中になれば、浅はかなファン活動はしないだろう。

「そんな面倒なことできねえよ」と思うのならば、妻が何かに夢中になってよそを向くのは仕方がない。女は何かに心を奪われて、一心不乱になりたい生き物なのだ。恋人ができたら恋人に、子どもが生まれたら子どもに、仕事が面白ければ仕事に、趣味に。子どもが手を離れて心がすっぽりと空いたころ、何かの追っかけを始める女も多そうだ。韓流とかな。

まったくそうだよなあ、と思う漫画がある。『風の輪舞』である。とある一人の鬼女のおかげで、どえらい人数が死ぬ話だ。このドロドロっぷりがえらく女の心を捕らえたようで、なんと2回も昼ドラになっている。ちなみに『花衣夢衣』も同じ津雲むつみの作品なので、彼女の描くストーリーはホトホト昼ドラ向けのようだ。

有沢槙と野代浩二は幼いころから婚約者同士だった。しかし第二次世界大戦に出征した浩二が家に帰ってみると、兄の一郎が戦死、その妻子が残されていた。その妻・麻美に「浩二と結婚しろ」と野代のじーさんがKYな命令をするところから、人がバタバタ死ぬ悲劇が起こってしまうのである。

夫の弟とおっとっと、結婚しなければ野代家を追い出される麻美は、必死に浩二に迫り、関係を結んでしまう。で、結局2人は結婚。あぶれた槙は、浩二の弟で槙にずっと恋い焦がれていたブサメンの大介と結婚する。槙と浩二は、お互い想い合いながら一緒になれなかったというわけだ。

で、この浩二と結婚した麻美が、全編を通して厄災を振りまく鬼女役である。少女漫画界はこの手の鬼女モノが結構お好きなようで、『闇のパープルアイ』の曽根原先生や『王家の紋章』の女王アイシスなど、彼女たちがいなかったら話が始まらないくらいの重要人物だ。

麻美もまたそんな鬼女チームのひとり。彼女は、浩二がいなくなるとその愛情を息子の英明に向け、鬼女っぷりを発揮。こうして親子二代にわたり、とんでもない迷惑がまき散らされるのであった。

しかし、どうして女は鬼女が登場する話が好きなのだろう。鬼女は間違いなく主人公の敵だ。読者の女たちは「鬼女憎い鬼女憎い」と思いながら話を読む。だけど間違いなく、読んでいる大半の女たちは、鬼女になる素質を充分に持っているのである。

少女漫画の鬼女キャラは大抵、"好きな男を振り向かせたくて"邪魔な主人公を執拗に追い回す(曽根原先生はちょっと違ったけど)。女の一心不乱な執着心が、ドラマチックに描かれただけの話なんである。鬼女たちがもし韓流アイドルにでも出会っていたら、もしかしたら成田空港に通っていたかもしれないのだ。

さて、自分の妻が韓流アイドルの追っかけになってしまった夫のみなさま。嘆くことはないでしょう。女はいつだって、恋心で頭をいっぱいにさせたいだけなんである。少女漫画の鬼女キャラのようになってしまわなかっただけ幸せだった、と思えばよいのではないでしょうか。

ちなみに『風の輪舞』をWikipediaで引くと、ファンの手によって一心不乱に書き連ねられたあらすじが圧巻である。ちょっと……怖い。
<つづく>