女ってのは、どんなに強気の女でも、男と相対すると突然主体性がなくなったりすることがある。めちゃくちゃ酒好きの私ですら、酒の飲めない男を好きだったときは「お酒なんてナンセンスよ」的なことを言い出したものである。結局、そいつとはどうにもならなかったので、元の酒好きに戻ったのであるが、惚れた男のためなら、どんな意見も覆すのが女というものなのかもしれない。

ちなみに、好きでもないヤツから説教されたりすると腹が立つ。以前、「君は仕事とプライベートの境目がなくなってるのでよくない」的なことを言われたことがあるが、「それがフリーランスってもんなんだよ!」と心の中で大爆発した。会社員がえらそうに何様だっ! みたいな。もちろん、人に説教しようなどと思わなければ、相手の環境にいちゃもんつけようなどとは思わない。意見の相違も大人しく聞いたに違いない……まあ、あとは好きな人に言われたのなら、ちょっとは反省点を探してみたりしたかもな、と思ったりもしますが。

とまあ、惚れた弱みというか、あばたもえくぼというか、惚れた男がこうだと言ったら疑問もなくそのとおりになるのが、女という生き物である。このケが強いヤツほどダメンズ度が高いと思うが。しかし、いくら女のほうにダメンズ気があったとしても、寄ってくる男が優秀ならば問題はない。『マリーベル』は、そんなダメンズっ気満々のマリーベルが、いい男たちに恵まれて幸せに暮らす話である。

時はフランス革命直前。マリーベルはイギリスの田舎に、兄のフロレル兄さんと一緒に捨てられる。貴族の病んだ少年ロベールが、マリーベルのおかげでまっとうな少年に育ち、二人に恋心が芽生えるところで話が始まる。

貴族ときたら、少女漫画で大好きな「身分違い」だ。捨て子のマリーベルは、大貴族の少年ロベールに自分はふさわしくないと思う。で、なんだかんだ身を引くことにして、フランスの貧乏旅役者のレアンドルと一緒にフランスへ渡り、自分の出生と、なにを考えたんだかいなくなってしまったフロレル兄さんを捜すことにするのである。

ロベールん家に世話になっていたときは、豪華絢爛な生活をしていたマリーベルだが、貧乏旅役者のレアンドルと一緒のときは、なんの疑問もなく貧乏生活に順応している。食い物がまずいとか、ベッドが硬いとか、文句は一切なしだ。ロベールを恋しく思っても、ロベールと一緒にいたころの贅沢な生活は恋しくならないらしい。この辺がどうにもフィクション臭いよな。

そうこうするうちに、ロベールとそっくりなジュリアンという貴族と出会い、ちゃっかりその家に居候することになる。もとが捨て子なので、その辺かなり大胆であるようだ。そこでまた贅沢な暮らしを堪能した後、でまたなんだかんだしてジュリアンの家にいられなくなり、二人で一緒に住み始めたりするのだが、今度は農村の一軒家。また貧乏に逆戻りだが、マリーベルは気にしない。

最後はまたロベールのところに舞い戻り、貴族生活をするようになるのだが、これだけ金持ちと貧乏を繰り返して違和感を感じないヤツも珍しい。だけどあれよ、男と一緒なら、どんな生活だって大丈夫、という女の性質をこよなく表した作品なのだ。もちろん、どっちかって言えば金持ちのほうがいいので、最後は金持ちになって終わるのだが、途中は水飲んで生活するほどの貧乏である。

珍しいと言えば、どんなに愛らしい少女なのかマリーベル、ロベールを筆頭に台詞がある男は全員マリーベルに惚れてしまうくらいの勢いだ。ロベールもレアンドルもジュリアンもフランソワもオリビエも、本当にもうどいつもこいつも。それだけでも女にとってはたっぷり読み応えのある大作である。
<つづく>