漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が全盛の中、「絶対に観客の心をつかむ」という揺るぎのない気概でオリジナル映画に挑む人々を取材する連載「オリジナル映画の担い手たち」。第4回は、監督として9作目となる映画『君が君で君だ』(公開中)を手がけた松居大悟監督の、オリジナル映画への熱き情熱に迫る。

同作では、池松壮亮が尾崎豊に、満島真之介がブラッド・ピットに、大倉孝二が坂本龍馬になりきった男を演じ、自分の名前すら捨てた3人の生き様を超純愛エンターテイメントとして描く。彼らは一人の女性に心を寄せ、密かに写真を撮ったり、彼女と同じ時間に同じものを食べたり、狭いアパートの一室から彼女の様子を見守っていた。しかし、そんなある日、彼女への借金の取り立てが突如彼らの前に現れ、3人の歯車が狂い出す。

松居監督が長年温め続けてきたという本作。完全オリジナルラブストーリーとして1つの答えを導き出したが、「集大成」と語る本作を撮り終えた今、映画監督としては新たなステップを踏もうとしていた。

  • 松居大悟

    映画『君が君で君だ』の松居大悟監督

業界内で敬遠されがちなオリジナル脚本

――本作は完全オリジナル脚本です。やはり、映画化までの道のりは大変でしたか?

オリジナル作品は、自分のヤル気でグイグイ進めようとしても、できないことが多いです。この企画を考えたのは7年ほど前。東映ビデオさんと電通さんが英断してくださったおかげでギリギリ成立しましたが、それまでは何社も断られました。制作会社さんに呼ばれる時に、「何かありますか?」と言われたら真っ先にこれを出していたんですけど、「オリジナルなんですね」と興味を持ってくれない人ばかりでした。

『君が君で君だ』は、本当にずっとやりたかった作品です。監督作としては9作目。局側の意向などでオリジナルを担当することはありましたが、持ち込んで映画化できた作品はこれが初めてになります。2011年に舞台をやって、そこで観に来た方が数年後に映画に携わっていたこともあって勧めてくれて。「仲間が一人いる」というのはすごく心強くて、踏み切れました。

――やっぱり、「オリジナル」というだけで敬遠されるものなんですか?

そうですね。あとは共感性が求められますし、内容よりもキャストイメージの方が重視されます。でも、映画で共感は重要ではないと思っています。共感を求めるなら、テレビドラマを観てほしい。ドラマで主人公と同じような感情になったり、SNSで盛り上がったり。視聴者間で共有するのは良いことだと思うんですけど、映画館でみんなが同じ感情になる必要は僕はないと思います。今回に限らず、映画においては常に考えていることです。

  • 君が君で君だ

    左から大倉孝二、池松壮亮、満島真之介

――確かに、今作の試写では賛否いろいろな意見があったと聞いています。

批判は落ち込みますけどね。すべての声を忘れないようにしてるんですが……。

――池松壮亮さんが完成披露の舞台あいさつでおっしゃっていましたが、上海映画祭で「こんな映画公開できない!」と言われたのは本当なんですか?

はい、役人の方から。僕らにというより、上海映画祭のプログラマーに向けた言葉です。でも一人だと落ち込むんですけど、『君だ』チームってそれを面白がってくれるんですよね。池松君が舞台挨拶でそういうことを言ってくれたおかげで、僕もちょっとだけ救われました(笑)。

  • キム・コッピ

    劇中の3人が思いを寄せる姫(キム・コッピ)

日本映画で描かれてきた「恋愛」への違和感

――映画で描かれる「恋愛」と比べると異色ですが、これも1つの恋愛観だと感じました。

日本映画における恋愛や愛情の描き方は腑に落ちないところがあって。思いを伝えて、両想いになるということがもちろん正しいんですが、それが「すばらしいこと」の方に行けば行くほど、「思いを伝えられない人」を無視しているような……映画として光を当ててないのがすごくイヤだなと。描くものが価値があって、描かないものが価値がない。そういう流れが、僕はあまり好きじゃない。だから、批判があっても作りたいと思ったし、少しでも興味を持ってくれた人の心に残り続けたらいいなと。「こんなものダメだ!」と言った人はそのあと考えなくなるだろうから、そんな方々を相手にしている場合じゃないなと思います。

――作品における「恋愛」の描き方、恋愛観は学生時代にもヒントがあると思いますが、どのような青春だったんですか?

中高男子校の進学校に通っていたのですが、当時は周りの学校からナメられていました。カツアゲもされまくるし(笑)。女子高生にも「キモイ」と言われることがあって、存在否定されているような中高時代でした。大学で上京しますが、そこは逆に華やかすぎて馴染めず、演劇サークルはみんな声小さくて猫背だったので、居心地いいなと思ってそこに入りました。大学時代はすごく楽しかったですよ。