漫画や小説をもとに実写化される「原作モノ」が全盛の中、「絶対に観客の心をつかむ」という揺るぎのない気概でオリジナル映画に挑む人々を取材する連載「オリジナルの担い手たち」。第3回は、吉田羊の主演作『ラブ×ドック』で映画監督デビューを飾った鈴木おさむ氏に話を聞く。
これまで、数々のバラエティ番組の構成や映画『ハンサム★スーツ』(08)ほか数多くの脚本を手掛けてきた鈴木氏。公式サイトのコメントには「放送作家としての経験も映画の中に入れたつもり」と記されていたが、今回の取材では彼の仕事に対する根幹の部分が明らかになった。
映画は、吉田羊演じる人気パティシエ・飛鳥が、ある女医から「危険な恋愛をストップできる薬」を処方され、3人の男性と恋に落ちる姿を描く。鈴木監督は、なぜこの作品でメガホンをとる決意をしたのか。そして、オリジナルであることの必然性とは。
妻・大島美幸の妊娠中から執筆
――ブログには映画の話がたくさん書かれていました。2015年1月から脚本を書き始めたそうですね。
今回の映画のプロデューサーが、恋愛系のショートムービーをCSでやっていたんです。「恋愛の悲喜こもごもの総決算となる映画ができないか」という話があって、じゃあやってみましょうかと。プロットを作ったんだけど、恋愛だけだと持たない。そこで「ラブドック」という設定を作って、一人の女性が3人と恋をする物語を考えました。
脚本は2015年1月1日から1日に1時間ずつ書いていって。いつもなら妻と旅行する時期だったんですが、妊娠中だったので、家で過ごすことにしたんです。お正月休みはとっていたので、妻のお腹に子どもが宿っている間に、何か記念になることをやろうと。そこで「1日1時間台本を書く」をお正月から日課にしました。プロットは結構細かく考えていたので、1月31日には初稿が上がりました。
――その時点で監督は決まってなかったんですね。
『ハンサム★スーツ』の時もそうだったんですが、脚本を書いてから「監督を誰にしようか」というパターンが多くて、今回もそうでした。ただ恋愛だと、どうしても自分の主観が入ります。例えば、監督から「こんなこと言わないよ」とか「こんな恋しないよ」と言われても、反論したくなるんです。恋愛って、特にそうじゃないですか? これは確実に揉めると思ったんです。プロデューサーとの話し合いの中で、尺の調整や登場人物の変更などはいいんですが、恋愛の価値観や哲学の違いで直していくのは嫌だなと思って、自分でやることにしました。
恋愛邦画にお金を払う文化がなかった日本
――「映画監督をやりたい」わけではなく、この作品だからこそ監督をやる決断をされたんですね。30代以上が楽しめる恋愛映画ということですが、対象設定も早々に決められていたんですか?
そうですね。僕が高校ぐらいの頃、邦画を観に行くことがダサいみたいな、そんな風潮があったと思います。それを『踊る大捜査線』とジブリが変えた。邦画にお金を払うという地盤が、それらで築かれたと思います。
その後の潮流でいうと、日本人は邦画の恋愛映画にお金を払う文化があまりないなと思っていて、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)は大ヒットしましたが、どちらかというと涙を誘う方。そんな中で、漫画原作を中心とした「十代のキラキラムービー」が当たったのは、僕の中では大きなトピックでした。でも「十代キラキラムービー」がヒットするようになってから、実はもう10年以上経ってるんですよ。
初期の頃にキラキラムービーを観ていた人たちは、そこそこいい年齢なんじゃないかと。だとしたら、その頃に観ていた人たちは、年齢が合わなくて、キラキラムービーを観づらくなる時代がそろそろ来るんじゃないか。そんな読みがあって、「大人向けのラブムービー」を作ってみようと。僕は『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)とか好きなんですよね。ハリウッドでは大人も行けるラブムービーは多いですけど、日本では大人の女優主演でのラブコメ作品はあまりないですよね。
――そこから吉田羊さんの起用は、どのように繋がるんですか?
オファーをしたのは、もう3年前になるんですかね。やっぱり独身であることが結構大事だと思っていて。結婚していたりすると、そこが透けて見えたりするじゃないですか。吉田羊さんは2014年に『HERO』でブレイクされて、その頃からすごくいい女優さんだなと感じていました。普段のお芝居はもちろん、コメディがとても上手なことも大切でした。あとは年齢が非公表であることも、重要なポイントです。観客は感情移入しやすいと思います。実際、今回は36歳から40歳すぎまで演じてもらっています。