脚本家の鈴木おさむ氏が初監督作品の映画『ラブ×ドック』(5月11日公開)で映画単独初主演を務める、女優の吉田羊にインタビュー。彼女が演じるのは等身大といえるアラフォーのパティシエ・剛田飛鳥だ。猪突猛進な性格ゆえ、仕事にも恋愛にも貪欲に生きてきた。

20代後半から結婚を考えるようになるものの、簡単に事が運ぶはずはない。それどころか不倫、親友の恋する相手……と過ちともいえる恋愛を繰り返してしまう。自分の恋愛観にまったく自信の持てなくなった飛鳥は恋愛クリニック『ラブドック』で、自分の前にある恋が危険かどうかを遺伝子が察知してくれるという特別な薬を注射される。そして出会ったのが、ひとまわり以上年下の花田星矢(野村周平)なのだった。

自称「空っぽな自分」が演じることで、少しずつ空いた部分が埋まっていくという吉田さん。本作では一体どんな新しい自分が見えたのだろうか?

吉田羊

吉田羊

――吉田さんというと凛とした姿勢で、サバサバした性格というイメージが大きいです。実際にそういったキャラクターも数多く演じられてきたと思うのですが、今回は恋愛体質の本能のままに行動する女性……とまた観る側の期待を良い意味で裏切りましたよね。

剛田飛鳥は学習能力が乏しいタイプで、周囲に迷惑をかけてしまうこともある女性です。でも絶対に自分に嘘をつくことはなく、素直にそして本能のままに生きている。そういう人ってすごく魅力があるから、たとえ迷惑をかけられても周囲は許してしまうんですよね。自分がそういうタイプなのかどうかは分からないんですけど(笑)、飛鳥と同じように本能に対して忠実に生きる自分でありたいとは思っています。

――演じるのは難しかったですか?

難しくはなかったです。私は自分がすごく空っぽな人間だと思っているんです。その空洞を、演じることによって少しずつ埋めていっている。今回は飛鳥を演じることで、自分の心に嘘をつかずに恋をすると、最終的に傷つきはしても納得は出来るというパーツを手に入れました。

――また新しい自分で自分を埋めることができたということでしょうか?

そうなんです。ただ、一人を演じただけで容量のすべては埋まらないですから、ゆっくりとしたペースでパズルを埋めていくような感覚なんですけどね。「ああ、こういうときに私はこういう表情をするんだ」「こんな声が出るんだ!」と演じるたびに発見がある。

――今回は映画単独初主演ということですが、やはり今まで現場で感じていた感覚とは違いましたか?

そんなに大きくは感じませんでした。その理由に、私には"役作りは衣装とメイクが8割"というセオリーがあるんです。作品のために女優ができることなんてほんの2割くらいだなって。そこにのっとっていくと……私はプライベートではほぼモノトーンしか着ないんですけど、飛鳥の衣装はカラフルでキラッキラ! だから着るだけで飛鳥モードのスイッチも自然と入ってしまう。主役であるとかそういうことの前に、そのスイッチのオンオフが重要かなと思っておりまして。

――飛鳥の意志の強さを感じさせる衣装、素敵でした。

ありがとうございます。そこに加えてメイクはイガリシノブさんにお願いしているのですが、これが素晴らしいんです! なんと吉田羊が可愛く見えるというマジックがかかっています!!(笑) なので衣装もメイクも完璧すぎたので座長ということに力を入れることもなかったんですよ。それよりも私を主演に選んでくださった鈴木おさむ監督の勇気に応えたいという一心でしたね。

吉田羊は恋愛よりも仕事で評価してもらいたい派です

――監督は脚本も書かれていますが『40過ぎて、恋愛してボロボロなんだよ!うらやましいだろ!!』など強くて印象的なセリフが多かったです。

飛鳥はパティシエという仕事にすごく誇りを持っている。私は恋愛することを横に置いて、仕事を優先するタイプなのでそこはすごく共感できます。仕事に生きて、仕事で評価されたいと常に思っているので。

――不倫相手の淡井淳治(吉田鋼太郎)には、仕事で評価されているつもりが実は"恋愛対象"として褒められているだけというシーンもありました。

仕事は自分に興味を持ってもらうひとつのきっかけだと思うんですけど、だからこそ利用されたら傷つきますよね。一般的には年齢を重ねると女性は恋愛をしづらくなってしまうとも言いますし……。

――そう思う女性はたくさんいます。吉田姐さんから何かアドバイスがあるとすれば?

作品の大テーマでもありますけど“人生にムダことはない”はず。その人を好きになることでしか得られない感情があるから、それを知らずに死んでしまうのはもったいない。もし傷ついたとしても死ぬわけではないし、それを糧に強い女性になっていけば、また次の恋にタフに立ち向かえるのではないでしょうか。だからたくさん恋愛してほしいです。経験が増えることはネガティブなことではないですから。

――それには体力も必要そうなのですが、何か吉田さんは対策がありますか?

最近、石田ゆり子さんの紹介でピラティスを始めて自分の体と向き合っている最中です。いろいろな作品を見ていて「あ、この女優さんは芯がぶれない人だ」と思う方はほとんどピラティスをやっていらっしゃるんですよ。体幹を鍛える、イコール、メンタルを整えることにつながればと思って。はじめは情報をたくさん言われるし、何を言っているかわからないし、手と足で違う動作をするのですごく忙しいし……。(笑)でもひとつの動作ができるようになると「あ、今、私自分の体がコントロールできた」と思えて楽しくなってきています。

――体力を培って、また新しい吉田さんが見られそうです。

ふふふ、そうですね。いつ雪山で遭難する役をいただいても即参加できるように(笑)、体を鍛えていたいです。