今では当たり前のようにあるものもすべて、過去の誰かの発明やアイデアがルーツ。広く展開するチェーン店だって、スタートアップの機運に満ちた発祥の店・1号店があります。身近すぎて気にも留めなかった「おいしいもの」のはじめて物語に、食いしん坊目線で迫ります。
今回は、牛丼チェーン大手の『吉野家』。日本生まれのファストフード「牛丼」を事業の中核に置き、チェーン大手としての地位を確立しています。
プロのための牛めし屋として創業
吉野家の歴史は、魚市場の職人とともにあります。魚市場というと築地市場のイメージが強いですが、日本最初の魚市場は日本橋にありました。1899年、吉野家の創業者・松田栄吉は、流行の兆しを見せていた「牛めし」を日本橋魚市場で提供しはじめました。
日本橋から築地、そして豊洲へ
1923年の関東大震災をきっかけに、魚市場は日本橋から築地への移転が決まり、それに伴って吉野家も築地へ。この地で開業した店が「一号店」となりました。さらに2018年、築地から豊洲へ市場が移転することになり、吉野家も豊洲へ。移転問題は都市の市場の宿命なのです。
吉野家築地一号店が営業を終える日、築地で働く職人や吉野家ファンが大勢訪れ、大行列を作っている様子が報道されました。築地場内では寿司や喫茶など、さまざまな飲食店が軒を連ねていましたが、吉野家の存在感は抜群でした。店頭の暖簾が誇らしげだったんですよね。
筆者は何度も築地取材に行きましたが、「いい魚を扱っていても毎日だと飽きるから肉が食べたいの!」と、築地の職人が言っていたのが忘れられません。
築地で育まれた「一号店スピリット」
市場での商売は、百戦錬磨の食のプロが相手。スピード勝負の商売を進化させる一方で、店員は常連の顔と好みを覚え、言葉を交わすことなく注文が完了するようになりました。
この「血の通った」サービスも評判になり、築地の店は大いに繁盛。毎日のようにやってくる常連一人ひとりについて、「あの人はごはん少なめ」「あの人はつゆ多め」など、注文方法を覚え正確に提供していたそうです。
それから、メニューについても語るべき点が多数。まず、築地一号店だけの裏メニューの「とろだく」。これは、脂身(とろ)が多い肉だけを盛り付けるというストロングスタイルの注文方法。
そんな築地一号店文化の中で生まれたのが、吉野家ファンが愛好する「ねぎだく」。牛丼の主役といえばなんといっても肉ですが、玉ねぎを多く盛り付けるのが真骨頂。これがツウっぽく、また味も良いため、築地一号店から全国の店舗へ広がっていきました。
豊洲に受け継がれた一号店の味
すべての店で均一な味を提供できるのがチェーン店の強みですが、吉野家において築地一号店の系譜にある豊洲市場店だけは別格。築地で継ぎ足しずっと使っていた牛丼のたれを持ってきて、毎日火を入れ丁寧に煮込んでいます。使い続けることで味に深みが出て、他では出せない歴史の味に。
それから、豊洲市場店は牛丼のみと潔いメニュー構成。他の店舗では定食を出していたり、「吉呑み」というちょい飲み業態もあったりしますが、文字通りの「牛丼ひと筋」。その代わり、新しく就任した店長以下すべてのスタッフが、築地一号店伝統の「マイオーダー」を早くも習得しつつあります。
豊洲市場店は24時間営業ではなく13時までと早じまいですが、朝は早く4時30分オープン。市場で働くカッコイイ職人たちと肩を並べて朝食を取る楽しみもありますよね!
吉野家 豊洲市場店
東京都江東区豊洲6-5-1 水産仲卸市場棟6街区3階11号
営業時間:4時30分~13時
休み:豊洲市場休市日