口の中にもがんはある!

日本における死因の第1位は、がん(悪性腫瘍)で約37万人です(※1)。胃がんや肺がん、さらに女性に多いがんとして有名な乳がんなど、さまざまな部位で発病するがんですが、実は舌や歯肉など口の中にもがんができることをご存じでしょうか?

口の中にできるがんは、人によって症状の程度にかなり差が出ます。いち早く気づいて早期発見・治療できる方もいれば、なかなか治らない口内炎や歯周炎だと違いして、がんを悪化させてしまう方もいるのが現状です。

ただ、口の中にできるがんは内臓のがんと違い、目で見ることができます。口の中は普段から目にする機会があるため、日々の意識をちょっと変えるだけで見つけられる可能性はグンと高まります。

口の中にできるがんには、どんな特徴があるのでしょうか。そして、口の中にできるがんと口内炎はどうやって見分けたらいいのでしょうか。今回は、口の中にできるがんと口内炎の見分け方についてお話していきましょう。

初期のがんはほとんどのケースで治る

口の中にできるがん(口腔<こうくう>がん)は、初期のものではほとんど症状がありません。2cm以下で転移のない初期のものでは、大半の方がよくなります(StageⅠの5年生存率は85~95%)(※2)。口のがん全体の5年生存率は70~80%と伸びていますので、怖がらずに早く受診することが大事です。

以下に口腔がんになりやすい人の5つの特徴をまとめました(※3)

1.50歳以上の男性(男女比は3:2)

2.喫煙(口腔がんの死亡率が約4倍になるハイリスク要因)

3.多飲酒

4.口の中が汚い

5.合わない入れ歯や被せ物(直接的な原因にはならないとする意見もある)

がんは、いくつかの遺伝子にエラーが蓄積することによって生じますが、上記の5つの特徴があるとエラーが蓄積しやすい環境と言えます。たとえば、日本の口腔がんの発生する頻度はがん全体の1%程度ですが、噛みタバコの習慣がある南アジアでは約30%と高くなります。

口内炎とがんの違い

初期の口腔がんは痛みを伴わないものが多く、口内炎と区別がつかないケースがあるため、厄介です。そもそも口内炎とは、いろいろな原因で口の粘膜に起こる炎症です。その種類も、再発性アフタ性口内炎、タバコが原因のニコチン性口内炎、ウイルスが原因のヘルペス性歯肉口内炎、義歯や歯ブラシが原因の褥瘡性潰瘍と多様です。

先日、30代の女性が下唇の内側に大きな口内炎ができて受診されました。歯が当たる場所で、日に日に痛くなって耐えられないということでした。口内炎が一度できると、話しても食べても辛いですよね。その女性は口腔がんも心配されていました。

口唇や頬、舌の粘膜が痛んだり、食べ物がしみたりする口内炎ですが、がんとは決定的に異なる点がいくつかあります。以下に口内炎にはない、口腔がんの特徴をまとめました。

■小さいうちは痛くないことが多い

■しこりがある

■出血しやすい

■白や赤の斑点がある

■ただれてデコボコしている

■周りとの境がはっきりしない

2週間以上にわたり上記の症状が続いていたら、口腔がんの危険性があります。

そのほか、口内炎は口の唇の裏側などにできるケースも少なくないですが、口腔がんは約60%が舌にでき、特に舌の横側にできやすいのが特徴です。頬の粘膜、口庭、下あごの歯肉にそれぞれ10%程度ができます(※3)。このように口腔がんの特徴をしっかりと押さえれば自分で発見することも可能です。病院まかせにするのではなく、自衛するためにも定期的なチェックを行いましょう。

月に1度はセルフチェック

定期的なチェック方法として、毎月決まったタイミングでセルフチェックするのがお勧めです。がんになるまでは通常、5~10年かかるとされています。毎月1回、ブラッシング時にチェックしてみましょう。

(1)洗面台の前で口角を上げて、大きく「い~」と笑ってみましょう

(2)「あ~」と口を開けて、歯ブラシの柄で頬の粘膜を引っぱります

(3)「べ~」と舌を出して舌の横の左右を見てみましょう

もしも舌の表面に左右対称の凸凹(舌乳頭)や、下あごの内側や上あごの真ん中に骨のでっぱりのようなもの(外骨症)を見かけても、これはがんとは関係ないので心配しないでくださいね。

がんは、早期発見・早期治療が一番です。特に口は食事、会話、呼吸、見た目で命を支える大事な部分です。

歯科医院と病院が連携して、口のがんを早期発見・早期治療する仕組みが広まっています(※4)。かかりつけの歯科医院があると、むし歯や歯周炎のメンテナンスだけでなく、口腔がんの発見にもつなげることができます。

口腔がんの約90%が扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)ですが、口の粘膜にできる病変は、診断がつきにくいものもありますので、気になる症状があれば、かかりつけの歯科医院でご相談くださいね。


注釈

※1 平成28年(2016)人口動態統計の年間推計|厚生労働省

※2『口腔外科学 第3版』(医歯薬出版株式会社 / 白砂兼光・古郷幹彦 編)

※3 がん診療ガイドライン 口腔がん 診療ガイドライン

※4 口腔がん撲滅委員会

※画像と本文は関係ありません


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。