よいこのQ&A
Q:『節子、それタイタニックやない!』ってなあに?
A:某客船映画みたいにお金かけてません。有名な俳優さんも出てません。でも、作り手の意気込みは負けちゃいないぜ! という知られざる優良エンタメ作品を貪欲に紹介していくコラムだよ。アクション、SF、ホラー、面白いものは何でもアリ! レンタル屋さんに行きたくなること請け合いだァ!
豚が人を喰う映画がある——といっても普通の映画ファンなら「そんな映画があるのか!?」とまともに取り合おうともしないだろう。コアな映画ファンならマーク・ローレンス監督のホラー作品『殺人豚』を口にする方もいるだろうが、それはたぶん少数派。また、極道スター安藤昇が主演し、佐藤純弥監督がメガホンをとったハードコア・バイオレンスという一言がお似合いなヤクザ映画『実録 私設銀座警察』で内田朝雄が豚に喰われるシーンを挙げるヤクザ映画ファンもいらっしゃるかもしれないが、それはそれでかなりマニアックな方だと断言しても良い。
今回ご紹介する作品は、豚そのものが人を喰う映画ではない。豚と人間が見事にハイブリッドした“豚人間”が人を喰わずに襲って恐怖、残酷、絶望をたっぷりと味わわせるハードコア・ホラーだ。
ライブツアーに出かけたバンドメンバーたちが豚人間による餌食になってしまう……と言うお話。ただそれだけ。他に小難しいこと、複雑なことは一切なし。
豚人間はパパ、ママ、チャイルドの三人からなる家族構成。中でも豚人間パパが一家の長だと言わんばかりにバンドメンバーをとことん痛めつけて苦しめる。見せ場はもちろん豚人間パパによる残虐血みどろバイオレンス・ショーだ。バンドメンバーの若い兄さんを天井から逆さ吊りにして包丁でドテッ腹を切り裂き、流れ出た鮮血が顔面を真っ赤に染め、さらに臓物がドロッと地面に落っこちる。このようなグロテスクかつ痛々しいシーンは全編通して気合が入っており、出し惜しみせずに描かれている。低予算でも頑張って腕をふるったたトニー・スウォンジー監督の労をねぎらいたい。
豚人間パパは残酷さだけが取り柄ではなく、かなりのパワーファイターだ。豚だからといってデブでもないし、逆に筋肉ムキムキのマッチョマンでもない。ごく普通の体型なのである。それでもバンドメンバーの兄貴的存在の兄さんを拳で殴りつけ、首根っこを掴んでリフトアップして豪快に投げ捨て、勢いよく顔面を蹴り上げる。そんな格闘センスを披露してくれるのが驚きでもある。私は「こんな怪奇派レスラーが実在したら面白いかも」と、薄ら笑いを浮かべてしまった。
終盤、生き残ったバンドメンバーが追ってくる豚人間パパから逃走し、ある建物内に逃げ込む。逃げ切れたと思い込んで「やっと助かった!!」と笑みを浮かべているところを豚人間パパが兄さんの肩を包丁で叩きつけ、包丁の刃が肩に思いっきり刺さり込む。最後の最後に激痛バイオレンスを炸裂させてくれるのだ!!
本作は恐怖や残酷だけでなく、なぜか愛らしく思えるシーンも観られる。豚人間チャイルドは、どう見ても女の子ではないのに、なぜか鏡をみながら口紅を鼻に塗りつけてメイクしているし、豚人間パパはTVでシンプルな雰囲気のアニメ番組を大人しく座ってジーッと鑑賞しているのだ。豚人間の恐ろしさだけでなく、意外と可愛らしい部分もあるということを描いている点もユニークで見逃さずにはいられない。
モンスター映画好きでなおかつ血みどろグロテスクなスプラッター映画が好きというホラー映画ファンにとっては、2つのテイストを思う存分堪能できること間違いなし。そして、何よりもストーリーは簡素化されている上に76分という短めの上映時間だから気軽にサクサクと楽しめるのが素晴らしい。また、エンドロール終了後もオマケ映像でしっかりと楽しませてくれるので、そこのところは要注意。暇な方はもちろん、忙しい方でも存分に楽しめるお気楽な作品、それが『豚人間』なのである。
『豚人間』作品概要
- 2008年アメリカ
- 原題「SQUEAL」
- 出演:アリソン・バッティ、ケヴィン・オーステンスタッド、ジョー・バーク、スティーヴン・アイザック・ディーン、マイク・マセット、ゲイリー・マーフィ
- 監督:トニー・スウォンジー
- 上映時間:76分
- 販売:エプコット
- 価格:3990円
- 発売日:2012/01/27
ささき・たかゆき
「映画ライター。1982年、大阪府出身。アクション映画、任侠ヤクザ映画といった男泣き&男臭い作品が大のお気に入り。他にはホラー、コメディー、ミュージカルも……とにかくB級映画、おバカ映画をこよなく愛する
タイトルイラスト&題字:五月女ケイ子