前回はSSS保証のガバナンスチェックの内容について解説いたしました。今回は農業融資について情報を整理します。スタートアップ界隈ではアグリテック領域の企業にスポットライトが当たる場面が増えてきているものの、農業分野へ融資するプレイヤーについて語られることが少なく、通常の新規就農のケースと何が異なるのか、知見がシェアされていない状況です。融資を受けた経験がある農家へヒアリングして、制度融資について調査しました。

兼業農家でベンチャーキャピタリストでもあるフェムトパートナーズ株式会社の坂本隆宣氏によると、「農業ファイナンスは農協(農業協同組合、JAの知名度が圧倒的で、銀行・信用金庫・信用組合が融資していることを知らない人が大半」、「農業を始める際の助成金が充実しているため、数年間は自己資金と助成金で小さくチャレンジし、栽培のコツを掴んでから融資を受けて設備投資を図るケースが多い」、「農協が金融と販路の双方を支援できるため、金融機関と取引することのメリットが理解されにくい」とのことです。情報収集が難しいとされる農協以外の制度融資について、筆者が可能な範囲で調べた結果が下表になります。

日本政策金融公庫農林水産事業の融資商品である「スーパーL資金」「青年等就農資金」「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」に共通して言えることは、融資の期間と据置期間が国民生活事業・中小企業事業と比較して非常に長いこと、金利が非常に優遇されていることです。

農林漁業に特化して融資の保証を提供する機関として、都道府県毎に設置されている農業信用基金協会があり、「農業信用保証保険制度」を運営しています。取扱金融機関は農協・農林中金・商工中金・銀行・信用金庫・信用組合等、幅広いです。独立行政法人農林漁業信用基金のWebサイトにも説明が掲載されていますのでご確認ください。農林水産省が主体となって運用している「農業近代化資金」についても、各都道府県のWebサイト(例:新潟県)に概要が載っています。

農業信用基金協会と信用保証協会との関係性については、一般社団法人全国信用保証協会連合会Webサイトの解説が分かりやすいので引用します。「一般に、信用保証協会の保証制度は中小企業・小規模事業者が対象であって、農業、林業、漁業等、一部の業種は対象となっていません。しかし、農業関連事業者であっても製造加工設備を有する等により信用保証協会の保証制度が利用できるケースや、中小企業・小規模事業者が農業に進出する場合に農業信用基金協会の保証制度が利用できるケースもあり、お互いに連携して相談に応じています。」

製造加工設備を有する農業関連事業者が信用保証協会の保証制度を利用できるケースについて、2024年時点の東京信用保証協会を例として挙げれば、「信用保証対象外業種一覧」の農業の欄に「次の業種を除く」と書かれており、「人工ふ卵設備を有する鶏卵ふ化業及びふ卵業」「家畜貸付業」「園芸サービス業」「蹄鉄修理業」は対象外業種から除かれていて融資を受けられることが分かります。同様に「荒茶、仕上茶の製造業」「もやし栽培農業」「蚕種製造業」「蚕種製造請負業」「菌床栽培方式きのこ生産業」「苗床栽培方式のかいわれ大根製造業」は製造加工設備を有する場合に信用保証の対象となります。時間はかかるかもしれませんが、先端技術を活用した植物工場が信用保証協会を利用できるようにするためには、信用保証対象外業種の例外として採択されるよう長期的に働きかける必要があります。

「農業ビジネス保証制度」は、国家戦略特別区域農業保証制度として2014年6月から新潟県新潟市・兵庫県養父市・愛知県全域を対象に開始され、2019年から全国展開された際に改称されました。信用保証協会にて申し込むことができますが、全体像を紹介しているWebサイトが見つからず、中小企業庁が作成した農業ビジネス保証制度要綱のpdfファイルが辛うじて確認できる状況です。

最後に、農業融資の具体例を2024年の新聞記事から引用すると、北海道銀行と武蔵野銀行が農業を扱う専門部署を設立したニュースや、約20年前から農畜産業向け融資を強化してきた佐原信用金庫の事例が見つかります。畜産業では青森銀行がアレンジャーとして組成されたシンジケートローンの報道もあり、資金を供給する金融機関側の注目度が上がっている分野であることが理解できます。

農業融資に関する説明は以上です。次回はコベナンツについて取り上げます。

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