前回は融資に積極的な金融機関の調べ方について紹介いたしました。今回は融資のコストを比較する方法について解説いたします。論点は大きく分けて2つあり、【1】固定金利と変動金利をどう比較するか、【2】融資契約で負担するコストをどう比較するかについて考えていきます。

【1】固定金利と変動金利をどう比較するか

融資の金利を比べる際によく生じる誤解は、固定金利である短期プライムレートと変動金利であるTIBORを同等と見做してしまうことです。短期プライムレートは、金融機関が預金として集めた資金に利ザヤを乗せて融資先へ提示している金利です。TIBORはTokyo InterBank Offered Rateの略称で、東京の銀行間取引金利のことを指します。融資においては金融機関側の仕入れに相当し、貸し出す際の利益が乗っていないレートになっています。短期プライムレートとTIBORとの比較は、金融機関の利益の分だけ差異が生じていることになります。TIBORと同等と見做すことができる固定金利は、金利スワップレート(スワップレート)と呼ばれます。金利スワップレートの計算方法については、三菱UFJ信託銀行のWebサイトに掲載されている解説「金利スワップの計算方法」がイメージを掴みやすいです。

例として、2022年9月20日の金利水準を調べます。金利スワップレートは日本証券クリアリング機構が公表しています。「各種情報」→「統計情報」の順に辿れば「金利スワップ」のページが表示され、「金利スワップ取引に関する清算値段【日次】」の資料をダウンロードできます。3M DTIBORの数値は0.06875%(資料中では6.875bp、bpはベーシスポイントと読み0.01%を表す)です。

TIBORは全銀協TIBOR運営機関が公表しています。「全銀協TIBORレート」のページから日本円TIBORの「今日のレート」のpdfファイルを参照すると、3MONTHの数値は0.06364%です。

短期プライムレートは日本銀行のWebサイトで公表されており、「長・短期プライムレート(主要行)の推移2001年以降」のページに最頻値は1.475%と掲載されています。

預金ではなく市場調達した資金に利益を上乗せして貸す形態の融資をスプレッド貸しと呼び、上乗せ幅をスプレッドと言うことがあります。私見ですが、スプレッドは売上高数億円の経営規模なら1%(TIBOR+1%での融資契約)、売上高数十億円の経営規模なら0.5%(TIBOR+0.5%での融資契約)という印象を持っています。

【2】融資契約で負担するコストをどう比較するか

融資に伴い支払うコストは、金利と保証コストと租税公課に分けられます。租税公課は融資契約の手続きに伴い負担する印紙のコストで融資金額によって変動しますが、本稿では議論を割愛します。まず、金利について情報を整理します。 金利の高低を決める要素は多岐に渡るため、金利以外の諸条件を揃えずに金利を単純比較した場合、判断を誤る可能性があります。例えば、金利はボリュームディスカウントが効きます。融資の金額が大きければ、金利が下がる余地が出てきます。融資期間を短くしたり、分割返済にしたり、担保や保証を入れるケースは金利を低くする傾向があり、逆に、融資期間を長くしたり、一括返済にしたり、無担保や無保証にするケースは金利が高くなる傾向があります。正確に推計しようとすると困難を極めますが、各融資条件が金利に及ぼす効果の大きさを見積もってから金利を比較する必要があるでしょう。

次に、信用コストについて考えます。信用コストとして、融資契約時に支払う信用保証料や団体信用生命保険の保険料が挙げられますが、契約時にキャッシュアウトを伴わない、将来発生しうる未確定の損失も考慮する必要があります。

無保証もしくは個人保証の融資は、信用保証協会付き融資よりも金融機関側から見て破綻時の回収可能額が低く見積もられます。元本毀損リスクを保険の形態で転嫁できない分、リスクプレミアムは金利に上乗せされることになります。

昨今のスタートアップの融資においては、無担保・無保証・金利5%のベンチャーデットの契約と、無担保・保証協会付き・利子補給付きで金利0%台の制度融資を比較して、ベンチャーデットの金利が高すぎると意見する向きもあるようですが、無担保・無保証の融資契約の金利には保証料相当額が内包されていると判断することが妥当です。融資のステークホルダーが何のリスクを各々いくら負担しているのか知らなければ、的外れな議論となってしまいます。無保証の融資契約と保証協会付きの融資契約を比較する際は、無保証の融資契約の金利に信用コストがいくら含まれているのかを加味して検討することをお薦めします。

融資に付随するコストを契約間で比較できるよう正確に推計することは難しいですが、実務で簡便に比較したい場合は単純化して考えて、金利と保証料の合計値を基準とすればよいでしょう。

融資のコストを比較する方法に関する説明は以上です。次回はタイムリーな融資を受けるための準備について取り上げます。

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