暗闇に浮かぶ風車の街・稚内
遠くまで来たものだ。北緯45度の稚内。日本最北の地の駅そばをすすりながら、札幌行の特急を待っている私。前夜は留萌から沿岸バスに乗って、幌延へ。留萌駅前ターミナルを出たのが13時30分。乗客わずか4人。日本海側の海を眺めながら、1987年に廃止された羽幌線沿いの道路をバスは通る。
20年以上経つのに、一目で列車が通っていたとわかる路盤や金網で封鎖されたトンネルが残る。そもそもこの路線自体が羽幌廃止代替バスなのだから。途中、男子3人、女子1人の高校生が乗ってきた。バス路線内のH高校からT高校まで行くようだ。恋バナ、部活の話などとりとめもない会話が耳に入ってくる。「北海道は方言がないな」と思いながら、ビールを片手にウトウト。
幌延駅に着いたのが16時46分。17時11分発の特急「サロベツ」を見送り、17時47分発の鈍行に乗って終点稚内に着いたのが18時49分。駅外のベンチに座ってホテルを検索したが、パスワードを忘れたので、ネットで予約できず。諦めて電話で「今日、これから泊まれますか」と聞く。空室が見つかり、しかもなんとネット予約料金と変わらず。駅を出ると、正面の山(稚内公園内)に設置された風力発電の風車が、暗闇の中から現れる。白く浮き上がる様はちょっと不気味である。どこに行っても風車。風車である。
稚内では、道路標識からタクシーの中の注意書きまで、いたるところにロシア語の表記が。駅のトイレの貼り紙にまでロシア語。ちなみに駅構内で聞いた地元ラジオのFM局ではロシア語講座をやっていた。でも、ロシア人には遭遇せず。不景気かな |
稚内から東京への列車旅が始まる
さて、稚内からどう東京へ帰ろうか。飛行機で帰ることも考えたが、財布を見て勘定し、やめることにした。この連載のためにも、列車で帰るのがいちばんだ。調べると、
- 稚内発16:51特急「スーパー宗谷4号」
- 札幌着21:50
- 札幌発22:00急行「はまなす」
- 函館着02:52
- 函館発03:22
- 青森着05:39
というコースがある。
念のため「はまなす」は指定席をとる。稚内と札幌の間は5時間。ま、5時間ならば、ワルシャワ - グダンスク間の列車での所要時間と同じ。我慢はできる。札幌では10分の乗り換え。青森には6時前か。おおよそ13時間の行程だ。あいもかわらず、ビールを飲みながら、ぼんやりと車内での時間を過ごす。人生はぼんやりが一番だ、なんて思わないけど、5時間なんてあっという間だ。札幌に近づくにつれて、小雨が降り始めた。
広東語とフィリピン語飛び交う「はまなす」
札幌での乗り換えは約10分。列車を牽引するのは青のディーゼル機関車だ。先頭にはヘッドマーク。北海道でヘッドマーク付きの客車列車なんて、快速「海峡」以来だなと思いながら、ホームを歩く。自由席はかなり空いている。「しまった! 自由席にしておけばよかった」と心の中で叫んだが、見ると「カーペットカー」も開いているし、寝台車なんて1両に2人ぐらいしか寝ていない。
疲れていたので、乗務員に「B寝台に変えてもらえますか」と聞くと、「変えることはできますが、6,000円ぐらいかかるので高いですよ」と商売っ気ない返事。ま、売るのが面倒くさかったのかもしれない。
しかし、ラッキーだったことにリクライニングシートは、深く倒れてくれた。ふと気付くと、なぜか広東語とフィリピン語が車内を飛び交う。他のアジア諸国にいるような気分になりながら、かに弁当を広げた。急行は定刻通り札幌を離れ、一路青森へ。機関車が牽引する客車独特の揺れですぐに寝入ったようで、起きたら函館駅に着いていた。
ここで、青のディーゼル機関車は切り離し。反対方向に赤の電気機関車を連結するため、約30分の停車時間。ホームに下りたら、客車のくたびれ度に気付いた。ボロボロの外装を塗装し直しているのがわかる。この客車はいつまで日本で使われるのだろうか。あと数年で、他のブルートレインの客車と同様、アジアに無償譲渡なのだろうか。ふと見ると、2号車の隣が「増21号車」。めずらしい増車である。
青森から「つがる2号」と東北新幹線を乗り継いで東京へ
青森から「つがる2号」八戸行きに乗り、八戸からは「はやて2号」で東京へ。こんな行程だ。
- 青森着05:39
- 青森発05:52
- 八戸着06:48特急「つがる2号」
- 八戸発06:55新幹線「はやて2号」
- 東京着09:51
なんと、4時間12分。稚内 - 札幌間より近い! 新幹線の偉大さを再認識したのであった。