NHK連続テレビ小説「マッサン」の3月20日放送回の平均視聴率が25.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した。28日の最終回ではさらに高視聴率になるのか注目されている。

マッサンを見ていて気になったことがある。玉山鉄二が演ずるマッサンが、それほど魅力的な人物には感じられないのだ。

マッサンの魅力は「没頭力」

堤真一演じる大将のような人間的な深みや懐の深さがあるわけではない。風間杜夫演ずる熊さんのように豪放磊落で人間味が溢れでる愛すべき人物像でもない。ウイスキー製造に没頭するマッサンの姿は、強いリーダーシップを発揮する理想の上司像などともほど遠く、命に関わるような大きな苦労を乗り越えたタフな精神の持ち主というわけでもない。とはいえ、これといった大きな人間的な欠点がある主人公でもない。

少なくともドラマ上では、人間としての大きな葛藤や苦悩などはあまり感じられない。本来であれば、視聴率を獲得しない理由にもなる。

ではなぜ、高視聴率を記録しているのか。エリー役のシャーロットや泉ピン子、小池栄子などの脇役の力量ももちろんあるが、それ以上に、マッサンの人生に特別大きな心の葛藤がないところが、逆に淡々と今の時代の雰囲気には良いのではないかと思うようになった。

旧来では、時代の波に翻弄されて浮き沈みを繰り返すドラマチックな人生こそが、連続ドラマならでは「大きな物語」の魅力であり高視聴率につながる所以でもあった。

一方で、宮崎駿監督の「風立ちぬ」の主人公の二郎などもそうであったが、どこか時代の荒波とは常に距離感があり、冷静で淡々とものづくりの世界に生きる男性主人公の姿に、言葉にはなりにくい"今の時代ならでは"の魅力があるのではないだろうか。

モバイル端末やソーシャルネットが普及した今日では、とかく私達の生活の時間は「細切れ」に細分化される。なかなか1つの事柄に集中して時間をとることが難しくなった。マッサンの持つ魅力とは、今の時代には失われつつある、ひとつのことに打ち込むチカラ、すなわち"没頭力"。そして、あまり周囲の空気を読み過ぎて振り回されない"スルー力"、すなわち"かわす"チカラとでもいえるのだろうか。


<著者プロフィール>
片岡英彦
1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。(現 株式会社東京片岡英彦事務所 代表取締役)主に企業の戦略PR、マーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2011年から国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立代表理事就任。