皆様、はじめまして。セゾン投信の中野晴啓です。セゾン投信は将来に向けて経済的自立を目指し行動する日本の生活者を、長期投資というカタチで徹底して応援して行く会社です。この連載は、自らの資産運用という仕事から得られたさまざまな経験を振り返りながら、長期投資を通じたお金との付き合い方を、さらには「長期投資=本物の投資」という真理をも、皆様と共有するコラムにしたいと思います。
「運用する側の理想の姿」と「現実」のギャップを認識
私は1987年に社会に出て以来、ずっと運用畑の仕事に従事して来ました。いわゆる機関投資家の資金を運用してきましたが、ある時から運用する側の理想の姿と現実のギャップを認識するに至りました。それは機関投資家つまりプロの世界が、リターン(利益)という縦軸偏重になり、時間という横軸を考慮しなくなったということです。
企業は年度決算に縛られるため、運用も1年ごとにリセットされる、裏を返せば1年で一定水準の運用成果を具体的期待数値として求められる、ゆえに運用手法自体が当期の利益だけを追求することを是とする、運用の短期化現象が急速に進んだのです。
運用者が本来指向するのは、5年先・10年先の時間軸で投資先の将来価値を先取りして、それを育み醸成させて行くための資金として投下していく投資であるべきで、長期投資の本質です。
相場の上げ下げで利ザヤを積み上げていく機関投資家マネーの短期化した運用の世界に大いなる疑問を感じ、決算とは無関係で将来の経済的自立を目的とした、日本の生活者の財産作りのお手伝いとしての運用を実現する為、セゾン投信という会社を作り、2007年3月に投資信託の運用を始めました。そして、この目的にかなう運用こそが「長期投資」なのです。
20世紀とは全く違う心構えを持ち、自ら行動することが必要
21世紀に入り、成熟経済が定着した日本社会において、私たち生活者は前世代のような人生設計や生活スタイルを踏襲していては、最早、自らの将来における安心を得ることはできません。
21世紀を頑張って生き抜いていくためには、この日本という私たち生活者の拠って立つ社会が成熟構造にあるとしっかり認識した上で、20世紀とは全く違う心構えを持ち、成熟社会に即した価値観を受け入れ、そして自ら行動することが必要です。
私たちは、たまたま日本という国家の歴史的大転換期をまたいで生きています。それは即ち20世紀の正義や価値観の中で生まれ育って来た者が、社会構造の急激な変化に立ち会い、次なる正義と価値観の社会への順応を迫られる。そのためには、これまで当然だと思っていた多くの常識や考え方を見直して、新たな社会の仕組みを理解し、そこでの考え方を新たな常識として捉えなおして行く「リセット」が必要なのだということです。
20世紀の戦後日本は目覚しい高度経済成長を実現させ、焼け野原の敗戦国から20世紀後半には世界有数の経済大国へと至った事実は、皆さんご存知の通りです。
実は世界中が奇跡と驚くのは、高い成長軌道を40年以上にわたって維持し続けたことにあります。そして7%・8%という高水準の経済成長を前提として、終身雇用や年功序列といった日本独特の雇用慣行が定着し、成長が続く故に毎年所得が増えることが当たり前という価値観の中で、この時代のさまざまな社会システムは定められ、生活者はその仕組みを常識と捉えて生活設計してきたわけです。
「長期投資」は決して難しいものではない
ところが高度成長が無限に続くことなどあり得ません。1990年代に入ると、バブル崩壊と共にそれまでの成長軌道は様変わり。日本経済は成長なき成熟構造へと突然変異を強いられ、現在に至るまで「失われた20年」と言われる悲しい状況が続いています。
つまりこれからの21世紀日本は、成長なき経済を前提にあらゆる社会構造が改革され、私たちの常識も変わらざるを得ないのです。それは右肩上がりの経済成長が担保してくれた将来設計を、社会や政府に頼らず自らの意思でカバーして行く自助・自立型に転換させることであり、その解が「投資」という行動なのです。
ひとくちに投資と言っても、相場の上下に賭ける短期投資では、相場という魔物に翻弄されてしまう。一方実体経済という大河の中で、経済成長という果実を育んでいく長期投資なら、相場の荒波を悠然と乗り越えて、自らの将来に向けた経済的自立を誰でも実現可能なものにできるのです。
長期投資は決して難しいものではありません。ひたすら誰でもが持っている時間を味方に付けて、10年・20年・30年…というスパンでお金をじっくりと熟成させていく運用です。長期投資の財産作りを理解して、行動を始める生活者はどんどん拡がって来ています。セゾン投信にも、おかげ様で昨年末に400億円超の長期投資マネーと4万8,000人以上の長期投資家が集っています。
この連載は、毎月第2・第4火曜日に更新してまいります。どうぞ長きにわたりお付き合い下さいます様、宜しくお願いいたします。
執筆者プロフィール : 中野晴啓(なかの はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒。同年西武クレジット(現クレディセゾン)入社。セゾングループのファイナンスカンパニーにて債券ポートフォリオを中心に資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現させるなどにより、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。
公益財団法人 セゾン文化財団理事
NPO法人 元気な日本を作る会理事
著書
『運用のプロが教える草食系投資』(共著)(日本経済新聞出版社)
『積立王子の毎月5000円からはじめる投資入門』(中経出版)
『投資信託は、この8本から選びなさい。』(ダイヤモンド社)など
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